• 泡盛さん・長編INDEX

星の海にて1
星の海にて2
ロックガーデン1、ロックガーデン2、ロックガーデン3
幻の泡盛さん1、幻の泡盛さん2、幻の泡盛さん3、幻の泡盛さん4、幻の泡盛さん5、幻の泡盛さん6
かぽちゃ1、かぽちゃ2、かぽちゃ3、かぽちゃ4、かぽちゃ5
    • かぼちゃ・2
    • 翌日、飛行大隊長が見せたブローチを見て少年は溜息をついた。
      「やってくれるよね…」
      「すごいデザインだな、こりゃ」
      白薔薇亭のオーナーがじっと眺める。
      「三つの太陽、イノシシ、それに白薔薇か」
      「裏に僕の即位時の紋章付き」
      「分析の結果は、なんなんだ」
      「ほぼ純金に酸化アルミニウムの赤色結晶、カラットはおよそ百七十」
      「酸化…なんだって」
      「早い話がルビー」
      「ルビー…」
      「しかもカットが中世の頃のもので、英国戴冠式王冠についてるスピネル、通称「ブラックプリンスのルビー」と同じカット」
      「おい…」
      「すっごい嫌味だな、そりゃ」
      料理長がそう言う。
      「ディッコン、つける気か」
      「まあね。ドテカボチャを持ち上げんのに丁度いい、ネヴィルのおっさん」
      すました顔でいる飛行大隊長。
      「じーさま、だ、ディッコン」
      「もー、まだ言うのかよ…」
      「諦めてね、アンの事、かーちゃんって呼ぶなら当然なんだから」
      少年が溜息ついて言う。
      「んなこと言ったってよー」
      ブローチを見ながら飛行大隊長は言った。
      「つけて見せろ、ディッコン」
      「礼服着ろってことかいな」
      「そういうことだ」
      渋々と飛行大隊長は別室に移動していった。
      「なかなか似合うと思うぞ、あいつは思ったより品があるからな」
      料理長が言う。
      「品、ねえ…」
      「いざとなりゃ貴公子にさっさと変身してのけるさ、そんなに案じるな、ちんちくりん」
      「そうだけどね…」
      「俺たちも出る。おまえはリース夫人のとこでおとなしくしてろ。ジョージ管轄の寮に移動してろ、あそこなら大学独自の護衛システムがつく」
      「いとこ殿」
      「危害を及ぼさないということはねえぞ、あのドテカボチャ」
      「それは…わかってる、それに」
      「殿下に渡したものについて、なんかしたいらしいな、リシィ」
      白薔薇亭のオーナーがそう言った。
      「それは大学にいたほうが便利だしね」
      礼服姿の飛行大隊長は肩を潜めて溜息をついた。
      「おー豪華だな」
      「結婚式にでもつかったるか。総裁様も当然、招待して」
      「直属の上司招くのがそんなに嫌か、君は」
      「ジョーダン、招かないと嫁さんに張り倒されらー、おいらがよ」
      「え」
      「旗艦ブリッジの通信兵だぜ、婚約者っての」
      「ああ、そうだったな」
      「おっちゃんも招く」
      「それは外さないんだ」
      「父親代わりだもん、ラヴェルのおっちゃん」
      一際、豪華な礼服姿。確かにしゃべらなければ、貴公子に見えた。

      翌週の事。
      「動きがあるわよ、あの、例の惑星近辺にテロリスト集結、宇宙軍の出動要請が政府から降りたわ」
      アンこと白薔薇亭第二料理長がタブレット操作しながら告げた。
      「匂うなと言ってるそばからかよ」
      そこに総裁がやってきた。
      「朝飯、出来てるぞ。宇宙に行くなら食ってからにしろよ」
      料理長が言った。
      「いつもすまない」
      「すきっ腹で変な事すんな。ろくなことにならない」
      態度のでかすぎる料理長は苦笑していた。
      「おい、くそオーナー、閉めるぞ、この旅館」
      「やはり、出なきゃいけないか」
      オーナーがそう言う。
      「リシィが出しゃばるぞ、あのちんちくりん、親の反対押し切っちまうからな」
      「それはダメ。リース夫人、怖い」
      総裁が笑った。オーナーの言葉は身に覚えがある。
      「大学関係のところに移動したそうだな、リース一家は」
      「そういうことだ、さて。予備役のヨーク艦隊の配置の指示は」
      「あの惑星の月の近くに頼む」
      「支度する。みんな飯食ったら、出られるようにしとけ」
      「うーん…」
      「アルデモード夫人は今回は出ないそうだ」
      「それ…」
      白薔薇亭のオーナーが渋い顔になった。
      「この近辺でパトロール引き受けるという連絡があった」
      総裁が言った。
      「彼女なら、母星近辺のうるさい奴ら抑えられるし」
      朝食のテーブルに総裁はついた。自分で紅茶をカップに注ぎ、イングリッシュ形式の朝食に手を付けた。スクランブルドエッグ、ソーセージ、トーストしたパン、チーズに簡素なサラダとフルーツ。
      「連絡係にしては大きくないか、副官殿遣わすなんて」
      「考えがあってな、直接伝えたいと思っただけだ」
      「何考えたんだよ…旗艦艦隊とうちら以外皆遠ざけるなんてさ」
      「さてな…」
      「まあ、どうせ、ろくな事じゃないんだろうけど」
      そこに飛行大隊長がやってきた。
      「総裁様よ、支度出来たぜ。戦闘機・輸送機・補給機体の方も準備出来た。ステルス状態に半数は切り替えたと整備士から連絡来たぜ」
      「君と私のは、飛び切り派手に塗装しておいてくれただろうね」
      「それは、な。なあんかさー、派手すぎて恥ずかしいわ、あれ」
      「まあ、そう言いなさんな」
      そのやり取りを聞いていた白薔薇亭のオーナーは顔をゆがめて告げた。
      「うっわ、すげーやな予感」
      「ヨークのも派手にしておいたぞ」
      「げ…」
      「見てみたいところだわ」
      第二料理長のアンが言う。支配人風の衣装を着ていたもう一人のアンが夫に何事か囁いた。
      「え、それは構わないが…」
      「お母様」
      「大学に行くわ、リシィ君のところ。私の軍事訓練、途中なのよ、役に立たないの」
      「申し訳ない、ご主人と離れ離れにさせてしまって」
      総裁が言う。
      「あら、構いませんわ。私がいるとこの人、必要以上にテンパっちゃうから…」
      「そこなのよねー…お父様、お母様の前だとうぶな子供みたいになっちゃうのよね」
      「うるさいよ、アン」
      料理長が横を向いてそう言った。
      「すまないな、せっかく夫婦そろったところなのに」
      「でー…何考えた、総裁様は」
      料理長の言葉に総裁はゆっくりとナプキンで口元をぬぐった。
      「宇宙軍を解体させる」
      「そう来ましたか」
      「ドテカボチャを泳がせるには丁度いいが、一発派手にぶちかましたい」
      「なるほどな…よし、そうと決まれば、ディッコン、俺たちはお前の配下に入るぞ。オーナーは艦長しなきゃならん、ベシー」
      静かに読書していた女性に声をかけた。
      「あたしにも出番あるのね」
      「親父の補佐官してろ。ヨークの宇宙軍はあの夫人の部下が多い。女性士官の割合も多い。こいつの女好きは病気だからな」
      「うふ。わかったわ。任せて」
      「やなやつ…」
      オーナーがぼやいた。
      「作戦決行はいつだ」
      「次の政府要請が降りたら、な」
      総裁がそう返事した。
      「了解した。予約の方はどうだ」
      「臨時休業のため、後程よろしくと送信したよ、そのくらいは出来る」
      オーナーがそう言った。タブレット片手に一斉連絡で送信したらしい。
      「うちってこんなに人気あったのか」
      「は。おまえ、今更何言ってるんだ」
      料理長が呆れた顔をした。
      「あんな食事じゃ…」
      「あら、義兄上、ゲテモノはマニアに人気あるのよー、知らないの」
      「この親子嫌いだ…」
      白薔薇亭のオーナーがぼやく。その横で総裁が苦笑していた。総裁のタブレットから着信の音が鳴る。
      「リッチー君か」
      「そちらに転送します、ロック解除してください。方法は総裁殿下の肉声の声紋がキーとなってます。文言は何でも構いません」
      「何を、だ」
      「人工頭脳です。肉体があればアンドロイド、人造人間と言えますが、ホログラフィのため、人形のように見えると思います。名前・地位などは殿下が示してください」
      「わかった、早かったな」
      「まだ実験段階のものです。完成してはいません。それだけはご了承ください。では」
      音声が消えた。転送データのアイコンに触れる。解除モードに切り替え、話しかけてみた。
      「起きろ」
      「音声確認、指定マスターと判別。起動します」
      ホログラフィが立ち上る。それはあの少年とほぼ同じ姿だった。少年のものと同じ礼服。だが、胸元の布地はもっとメタリックな輝きを持っていた。開いた瞳は人間のものとは程遠かった。機械的な、カメラレンズのような瞳。虹彩には製造番号が入っていたが、総裁には見えなかった。音声はあの少年とほぼ同じだった。どこかイントネーションに不自然さが残っていた。
      「通常空間のサイズ調整に指定はありますか。製造者は八分の一サイズが適格としています」
      「なぜ」
      「戦闘機コックピットで不自然さを感じさせないためです。通常サイズなら息苦しく見えますよ」
      「了承する」
      人工頭脳のホログラフィは途端に人形サイズに縮小し、総裁が座っている椅子のひじ掛けに飛び乗った。
      「これでよろしいでしょうか」
      「う、うん…」
      にっこりと笑って見せたホログラフィ。
      「お名前を付けてください、マスター」
      「えっ…」
      「では、次の接触までにお願いします、マスター」
      そういうとホログラフィは消えた。
      「出動準備、急いでくれ。旗艦艦隊は明日、出立する。ヨーク艦隊だけ、ついてきてくれ。ただし、例の惑星には近寄るな」
      「はい、殿下」
      トマスが戻って来ていた。
      「夫人、かなり怒ってましたよ、あとで申し開きしてくださいね」
      「あー…で、マークス元帥の方はどうだ」
      「そちらは政府の監視を引き受けてくださいました」
      「これで、よし、と。さて、グロスター大佐」
      部屋の隅で読書していた飛行大隊長が顔を上げた。
      「父上は…きちゃうよな」
      「おいらの戦闘機、専門に作り替えてあるぜ、好戦的すぎるよな、いっぺーじーさま」
      「抑えにはいいかもしれんけどな…」
      「こっちに来てからろくな事せんな、エドワード」
      飛行大隊長の足元でくつろいでいた狆がそう言った。
      「ドテカボチャは温存します。やる事はきな臭いけど、政治手腕は侮りがたい」
      「あの惑星の代表と渡り合えればいいのだがな」
      「難しいでしょうね」
      「お前を抑えるのに、私は必要か」
      「口挟むけどよ、いっぺーじーさま、何も言わないでおいといたほーがいいぜ。暴走させちまえ、そうすりゃ政府も気づくぜ」
      「恐ろしいな」
      「軍事クーデターはろくなことになんねえ。ならば、このやり方は有効だろよ」
      「さすがに親子だな、そういうことに頭、回るか」
      「父ちゃんはお人好しで、甘かったんだよ、利用される人生まっぴらだと言えなかったんだから仕方ねえ」
      「君は言えるんだな」
      「だーれがリチャード四世になんかなるかよ、冗談じゃねえ。王様ってのはただの政治の部品に過ぎねえからな」
      「部品、か」
      「天皇機関説って知ってるか」
      「それって」
      「日本に昔、あった論説。君主も政治体形の中の一つの仕組みに過ぎないってこと。ただな、立憲君主制に移行した場合、君主の役割は違ってくる」
      「例えば…」
      「議会が上にたつ。議会から選出されたものが行政を行う。君主はそれを承認するだけ、国民の代表としてね。三権分立が基本。それに君主は口出ししてはならない。裁判も立法も行政もみな国民の代表が行う。君主は、はいそうですね、と言うだけ」
      「なぜ、君主制があるんだ、必要か」
      「象徴とか代表って意味があるんだよ、権利と権威は違う」
      「なるほどね」
      「総裁様よ、宇宙軍代表として一発ぶちかませ、それがおれらの意志だ」
      「いいだろう、その代わり、ついてこいよな、お前も」
      「もちろん」
      この跳ねっかえりが、と毒づきながら、総裁は飛行大隊長の顔を見た。
      「さてと…あとは辞表でも書いておくか」
      「そうですね、殿下」
      トマスが苦笑してそう言った。
      「俺は書かねえぞ」
      飛行大隊長はそう言い切った。
      「書くのは、あんたがいなくなってからだ」
      上司に言うにはいささか無礼な口調だった。
      「まあ、いいでしょう、その代わり、存分に働いてもらいますからね」
      トマスが言う。
      「もちろん、いっぺーじーさま、行くぞ」
      「私に何やらせる気だ」
      「副操縦士に決まってるだろ、それとも、この作戦、地球で犬用おやつ齧りながら見る気かよ」
      「それはごめんだな」
      とことこっと狆は駆け寄っていく。
      「何するつもりか知らんが、このクソ息子のやりざま、身近にみるのもいいだろう」
      「父上っっ」




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