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幻の泡盛さん・2
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「殿下、二匹一度ですか」
「いや、メスのドラゴンが先だ。文書の鍵が先というのもおかしいかもしれないが」
「いえ、いいんですけれど、鍵がなければ開かないんですし」
「だよね」
「砂漠ですよ、用意は」
「クーラードリンクは私が持ってますから」
トマスが言う。
「ホットドリンクは私が」
ジョンがそう付け加えていた。
「よし、出発しよう」
以前のようにディスと呼んだ氷と炎のドラゴンはもういない。ホルクと猫はいるが、以前のものとは違っていた。そのためか、今度は気球のようなものに乗り込んで、砂漠に向かうことになった。奥に桜色のドラゴンがいた。
「綺麗なドラゴンですね、殿下」
リッチー君が囁いた。
「そう、だな…」
「攻撃開始しますよ、殿下」
トマスがボールのようなものを手にしていた。
「ああ、頼む」
トマスが走り出し、ドラゴンの正面に立ち、あのボールを投げつけた。それが始まりの合図だった。リッチー君が弓矢を構え、最初の矢を放った。翼の一部にヒットはしたが、ドラゴンにはかすり傷に過ぎない。
「行くぞ」
掛け声とともに攻撃を繰り出す。ドラゴンの抵抗は凄まじかった。
「炎の吐き方が違うっ」
「宙返りの後も地面が…」
「これがハイグレードタイプか」
四人それぞれの言葉。
「隙はあるはずだ、見つけろ」
「はい、殿下、援護します、怯んだところを」
リッチー君が言う。
「よし、行くぞっ」
太刀、それに大剣がトラコンの身体にヒットする。肉の硬度によって変化するトンファーで殴りつける。それを繰り返すが、なかなかドラゴンは倒れなかった。
「うわっ」
もろに炎を浴びたリッチー君が怯む。それをかばい、トマスが太刀を奮った。
「ジョンっ」
尾を切断し、参謀長がにやっと笑った。弱ってきた兆しが見え、最後の一撃を繰り出した。
「はー、やっとか」
尾の中から鍵が出てきていた。
「これが、あの鍵か…」
金色の鍵。
「殿下、素材、集めますよ」
「ああ、そうだな、リッチー君、大丈夫か」
「はい。回復薬飲みましたから」
そのリッチー君の防具はフリルとリボンたっぷりの少女服なのだが、背中には弓がある。
「戻ろうか」
「はい」
部屋に戻り、鍵を部屋の中の箱に納めた。
「鍵、見てもいいですか」
リッチー君が聞いてきた。
「ああ、どうぞ」
「この文字は…サンスクリットですね」
「なるほどな」
「文書の入った箱のための鍵とあります。文書もきっとサンスクリットあたりの文字ではないかと僕思いますけど」
「違う場合もありえるのかな」
「ええ。それは…え、コレ、発音すると」
「何」
「アスペルギルス・アワモリ」
「は」
「泡盛を作るときに使うコウジカビの学名です」
「はーん…そういうわけか」
「歌姫の歌、忘れてましたね、私達」
トマスがそう言い出した。
「そう言えば…今度のオスのときは聞きに行こう、歌」
「歌聞けは、少しは強くなれるかもしれない、とか。後、報酬も上がるらしいって」
「それホントか、防具強化は」
「…殿下、一匹狩ったぐらいじゃ無理ですよ」
参謀長がそう言う。
「それも、そうだな」
「僕、なんとなくなんですけど…泡盛の材料についての文書のような気がするんです」
「それは…私も思ったよ」
祈りの泉へ四人で向かった。歌姫が微笑みを浮かべ、出迎えてくれていた。
「ようこそおいでくださいました」
「頼みがあるのだが、いいだろうか」
「はい」
「あなたの歌を聴くと狩りにもいいことがあると聞いたのだが」
「そう私も聞いてます」
「君もはっきりしたことは知らないのか」
「はい。狩りに行くことは私は出来ませんし、実際に目にしたことはございません…」
「なるほど…」
「それから…そちらの御方に贈り物がございます」
リッチー君を指し示して歌姫は微笑んだ。
「僕に、ですか」
「はい。こちらへ…お願いします」
猫に声をかける歌姫。猫が奥へ走り込んで去っていった。
「何を…」
「それは…少々お待ちくださいませ」
猫は頭上に大きな箱を抱えて戻ってきていた。その箱を投げ出すように置いた。
「この箱をお持ち帰りくださいませ」
「え」
「悪いものではございません」
「受け取ったら、リッチー君」
総裁がそう囁いた。
「はい、頂きます」
「では…」
ステージのように見える泉の上にある床に歌姫は戻った。すーっと深呼吸をし、不思議な歌詞の歌を歌い始めていた。透き通る風のような、水のような歌声。リリカルな響き。その中にも気品があり、神秘的な力もあるように思われた。
部屋に戻っても歌姫の歌声がまだ耳に残っているような感じがした。その中でリッチー君があの箱を開けた。
「防具です、これ」
「防具」
「はい、頭、胴、腕、腰、脚のもの全て揃ってます」
「着替えておいで、リッチー君」
「はい」
リッチー君が個室に入っていった。
「不思議な防具だな、なんだろう」
「何でしょうね、アレは」
着替えてきたリッチー君の様子を見て、三人は驚いていた。
「これ…」
「髪飾りもみなついていたのか」
「違うんです、髪の毛のように見えますけど、コレも防具なんです、殿下」
「防具、ね」
金髪の髪を独自のデザインに結い上げ、飾りをつけていた。腕輪も着ているワンピースも歌姫のモノに酷似していた。ただ、スカートの丈が違っていた。ミニスカートになっていただけだ。靴もサンダル風になっている。
「ミニ歌姫って感じだな」
「殿下…これで狩りに行ってみますね」
「そう、だな」
何か引っかかるが、気の所為だろうか。いつもの弓矢をリッチー君は背負っている。総裁は片手剣を手にしていた。
「トンファーは」
「トマスが使う。ジョンはヘビィボウガン」
総裁はそう言っていた。
「リッチー君、その弓矢ね、工房に寄って強化しておいで」
「はい」
弓の強化の資金が割合高価でも構わなかった。その方がいいだろうと誰もが思っていた。
「狩りに行くよ」
「はい」
戻ってきた子も含めて四人で再び狩りに出かける。そこは森が広がっていた。
「どこのエリアだ…」
ホルクが舞う。方向を示している。そちらへ全員で走り出す。谷あいの洞窟のような場所に赤みを帯びた身体のドラゴンがいた。トマスが例のボールを投げつける。リッチー君が弓を連射する。ドラゴンの正面をやや避けた位置でトマスがトンファーを奮った。参謀長が胴体を狙ってボウガンを放つ。太刀を抜き、振り回す。何度も斬り下ろしたせいか、尻尾が切断出来た。が、ドラゴンが舞い上がり、宙かえりを打った。そして放たれた火炎は不規則な動きをし、四人に襲い掛かってきた。
「また不規則なのか、こいつも」
回復薬を使わずに済みそうだ、そう思うほど体力は残っている。歌姫と同じ美しい金髪が舞っている。それが地毛であるかのように見えるが、防具だと言う。解き放たれた矢は光をまとい、ドラゴンに向かっていく。ドラゴンがどこか動揺したように見えたのは気のせいなのだろうか。
「追い詰めろ」
「はいっ」
最後の一太刀。ドラゴンが倒れた。倒れたドラゴンのそばの壁が開いた。箱が現れていた。トマスがそれを取り出し、声をかけてきた。
「素材を集めてください、殿下、三世陛下」
「あ、はい」
ドラゴンから得られる素材を集め、森のエリアから戻った。団部屋のテーブルの上にあの箱を置いた。団部屋のテーブルの上にあの箱を置いた。そしてあの金の鍵を使って箱を開ける。紙が入っているが、切れた場所に文字らしきものが一つだけ、かろうじて判断できた。
「サンスクリットの文字ですね、でもこれ途中なので意味が通じません」
「やはり、そうきたか。リッチー君がいてよかったよ」
「でも、僕は狩りには」
「文書解読には君みたいな学生の能力必要だから」
「確かに、普通の人にはこの文字、解読出来ません。それから、殿下、この箱の底、御覧ください」
「ん、この絵文字は」
「ヒエログリフです、エジプトの古代文字。…これビールとワインの神を称える祭文ですね」
「すごいね、君」
「いえ、この間、授業で出題されて、再提出食らったばかりですから、ヒエログリフについては。だから余計覚えていたただけです」
「なる…」
「そういうこともありますよ」
「やはり、アルコール関係なのか」
「ですね…勝手な予想なんですけど、バッカスの賛辞が次は出てきたりするかもしれないですね」
「そうかも…とりあえずは食事して休もう」
「はい」
リッチー君は淑やかに座っている。それを見てトマスが苦笑していた。
「殿下と大違い」
「何がだよ、もう」
「そりゃ、三世陛下は大股ひろげて座りませんしね」
参謀長までそう言った。
「悪かったな」
「そう言うそばから、その防具で脚ひろげて座らないでくださいっ、殿下っ」
「スカートにしたらいかがです、殿下」
「したら、余計目のやり場に困りますよ」
トマスの言葉にリッチー君が笑っていた。部屋の料理猫が夕食をテーブルに放り投げるように置いた。トマスが小皿に取り分けて配り始めていた。四等分にきっちりとわけてトマスは料理を配る。
「トマス殿、少し、少なめにしてください、僕食べきれません」
「そうですか、それは失礼」
リッチー君の皿から減らした分は大皿に戻し、真ん中に置いた。
「これはおかわり自由で」
「そうだな」
スープから口にした。トマト風味のスープ、少し辛みがある。魚介類のスープだ。それに鶏肉の焼き物、サラダ、ココナツミルクのプリンがついた夕食。順番に風呂に入り、休む。総裁とリッチー君は同じ部屋で休んでいる。ベッドが二つ並んだ寝室。
「さて、休むか」
防具を脱ぎ、寝間着に着替え、ベッドに入る。こんな生活があと何日続くか解らないけれど、これもまた興味深いことだった。
朝食を終わると四人はまた祈りの泉で歌姫の歌を聞いた。武器はすでに身につけている。
「次はドラゴンの希少種らしいです」
歌姫がある文書を見ながら告げていた。
「それは」
「かぼちゃの化物から得たもので、別のハンターから提供されたものです、ご覧になりますか」
差し出された文書を四人で見る。
「姫、これは僕達の系統の文書ではありません、解読は出来ません」
リッチー君が言う。
「ええ、この星独自の文字で…そちらで一番似ているのはマヤ文字ですね」
「マヤ…すみません、それは僕はまだ」
「似ているだけで、同じではありませんのよ」
「あ、そうですか」
「ですから…必ずここにお寄りください。私から伝えます、受付の娘達にも限界があります」
「承知した」
総裁が返事した。
「御武運を」
歌姫がそう告げると立ち上がり、いつもの力を授ける歌を歌い始めた。彼女の歌う歌詞は解らない。地球のどの言語とも違っていた。祈りの泉から広場の受付へと向かう。その途中で総裁は聞いてみた。
「リッチー君、何語に近いんだ」
「ラテン語ですね、一番近いのは…あるいは古代ヘブライ」
「でも意味が同じとは限らない」
「はい」
「本当にここは異世界なんだな」
「そういうことですね」
受付の娘が金のドラゴンの狩猟を申し出てきていた。
「それにする、いくらだ」
彼女の示す金額を払い、食材屋の女将から弁当を受け取ると気球に乗り込んだ。弁当の食事には不思議な力が宿っている。それを食べていると金色のドラゴンがいる古びた塔に着いた。塔の上の広場に金色のドラゴンがいた。