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幻の泡盛さん・4
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「それは」
「メスのときは一人で行けって言われるでしょ、アレ」
「ああ、なるほどね…赤熱の炎の獣か…」
「はい。それも剛種と呼ばれるもの」
「厄介だな…」
「で、場所は砂漠だそうです」
リッチー君の言葉にトマスが顔を歪めた。
「着ぐるみはご勘弁ですね」
「えー、アレ好きなのに」と殿下。
「最近出たウサギさんも嫌ですからね、殿下。持ってないわけじゃありませんが」とトマス。
「だって、あの耳、気に入っているのにー」
「いや、あのウサギ、可愛い顔して無表情で狩りしているほーが不気味というか、シュールというか…」
参謀長たるジョンが呟く。
「とます〜、いいじゃないかー」
「この次のなら、着ますから」
「とことん殿下には甘いんですね、トマス殿って」
リッチー君が溜息をついた。
「それは、その…」
「砂漠は駄目か」
「当たり前ですよ、昼間の砂漠って…経験してないわけじゃありませんでしたでしょ」
リッチー君がそう言う。
「あ、いつぞやの訓練の時、干からびるかと…そりゃそうか…」
そして。
「確かに干からびるな、こりゃ」
それなのに、炎を吐くモンスター。たまったものではなかった。
「遠距離はいいなあ」
「いえ、避けきれなくて、吹っ飛んでますよ、三世陛下」
「げ」
慌てて、モンスターを殴りまくる。やっと倒せて、守っていた箱を取り上げた。
「う。結構、重いですよ、これ」
「まさか…米が入ってるとか」
「入ってましたね、しかもインディカ米」
「コレでも足りないかも」
「泡盛って…」
「ちらっとしか知りませんが、まず、蒸した米にコウジカビを付着して発酵させて麹をつくり、それを大量の米にまぶして増殖させて…えーっと」
「三世陛下」
「それをタンクに入れて酵母を入れて発酵させてどぶろくみたいな酒を作って」
「それから」
「それを絞って蒸留させて出来たのが、焼酎という酒です。泡盛はその一種、だと思いますけど」
「それを私達が探すのか」
「どちらかと言うと作る、みたいですよ」
「…できるかな…不安になってきた」
「用具も必要ですよね」
リッチーくんがそうつぶやいた。
「用具…か」
「タンクとか、そういうものが必要じゃないかなと僕は思うんですけど」
「作り方はどうするんだ」
「それも狩りの目的かもしれません」
「そっちか…」
歌姫に聞いてみようと思い、祈りの泉に向かった。歌姫は用具はあるという。
「が…作り方は誰も知らないのです」
歌姫はそう言ってうつむいた。
「誰も知らない、か」
「はい」
「リッチー君がうっすらと知っている程度なのだが」
「それでは…レシピもまた狩りの報酬なのかもしれません」
「なら…それらしい狩りに行ってみようか」
では、これはいかがですか、と歌姫が示してきた。それは白い肌を持った目のない電気を発生させるナメクジのような化物だった。
「なんだ、あの光は」
「雷攻撃ですよ、感電しますと吹き飛ばされます」
「生命力削られてやり直しになるか」
「いつも通りに弱らせますから…雷属性の武器なら弱らせること可能ですよ」
「よし、それで行こう」
光の矢が放たれる。最近、下から狙い撃ちする型も覚えたらしいリッチー君がそのナメクジみたいなモンスターの腹を狙って矢を放っていた。いくらか弱ったところに走り込んで切り込んだ。モンスターは倒れ、素材をを切り取り、そして…雪の下から現れた箱を持ち帰った。其の箱は前の箱よりも小さく、本一冊程度しか入ってないように見えた。
部屋に戻って箱を開くと本が出てきた。
「ありゃ、日本語…」
リッチー君がぼやく。
「え」
「辞書なしでこれ、僕読めません…この言葉、文字が三種類あって…」
「三種類…」
「表意文字が一種類に表音文字が二種類あるんです。表意文字は古代中国から伝来したもので、表音はその文字を改良して作られたもので、カナといいます。それがひらがなとカタカナという二種類があるんです」
「で…」
「同音異義の言葉も多くて…ややこしいんですよ、発音は簡単なのですが」
「は…それでは」
「コレだけでは無理ですね、また狩りなのでしょうか」
「図もあるな」
「そばに書いてある文字が読めるところと読めないところがあります」
「参ったな」
「泡盛の…作り方…は読めました」
「ん」
「タイトルです、本の」
「で、中身は」
「無理かなと」
ひらひらとめくるが、わからないらしい。
「いつも持ってるタブレットあれば…ナントカできるんですけどね」
「取り寄せられないものかなあ、それ」
トマスが二人のやり取りをずっと聞いていた。
「歌姫に交渉は出来ないのですか、三世陛下」
「聞いてみましょう、駄目なら…ハンター補佐に日本の…例えば、蒲生の殿様とか」
「ああ、でも…ゲームに引き込めるか、あの人は」
「通信兵の人にも日系の人いましたでしょ、殿下」
「いたけれど…まあ、聞いてみよう、とにかく、それからだ」
「辞書なしでどこまで訳せるか、わかりませんけれど」
リッチー君がそう言う。
「そうなのか…」
「言い回し次第では逆の意味になりかねませんし…難しいんです、日本語って。サンスクリットやアラビアならある程度は僕、わかりますけど、日本語って文字の種類も多いし、表意文字の中国伝来の文字も読み方が何通りもありますし」
「彼の読解力にかけるしかない」
「殿下」
「彼は切れる人物だ。文武両道だったし、芸術にも造形がある」
「はい、それは僕も知ってます」
トマスが部屋の扉を見ていた。
「着いた模様ですよ」
「トマス殿」
「いま迎えますね」
扉を開けると蒲生のあの人が立っていた。
「予想外ですね、その書物、ご持参とは」
「辞書ですよ、タブレットは持ち込めそうもなかったけれど、これならば、と思いましてね。適度な単語を見出すためには必要です、総裁殿下」
「助かります、着いたばかりに申し訳ないのですが、これを」
差し出した本を蒲生の殿様がめくる。
「日本酒の一種の作り方ですね、これは。まあ、私の時代では琉球は独立した王国で、通訳がいませんと言葉が通じませんでした」
「古い形の言語だと」
「ウチナーグチ、と呼ばれてるもので、でも、この本は普通の日本語です」
「よかった、というべきか」
「琉球言葉はわかりませんから」
苦笑しつつ、彼は答えていた。
「三線の歌、そういえば、時々わかんない…」
「レイモンが好んでましたね、そう言えば」
リッチー君の言葉に彼はそう言った。
「なんだっけ、二見情話…」
「反戦歌ですね」
「そうなの」
「ええ」
「なんか悲しい旋律だと思ったら」
「泡盛の作り方、訳しましょう、その歌のことは帰ってから博士に聞いてみてください」
「そうですね、先にやるべきことがありました」
トマスがそう言った。
「まず、材料、それから用具…それに作り方、となってますね、ざっと見たところ」
「詳しく訳しておいてください。我々は狩りに行って材料集めてきます」
総裁がそう言った。
赤いナメクジのような目無しの電気うなぎみたいなやつ。それが次の狩りだった。