「何だ、これは」
「どうかなさいましたか、殿下」
いつの間にか置かれていた手紙。古式にも封蝋されている。赤い蝋に押された印はどことなく嫌な予感がする図柄だった。
「あのドラゴンに似ている気がする…」
あの星にいた、緑色の雌雄のドラゴン、赤みがかった亜種のオス、桜色のメス、金銀のドラゴン…それらによく似ている。ペーパーナイフで封を切り、開けてみた。
「招待状だ…」
「なんて、殿下」
「幻の酒を探して欲しい、そのために来て欲しい、そうだ」
「どなたが」
「歌姫だ」
「まさか」
「そのまさか、だ」
主従、いや夫婦、いや…ま、どうでもいいが、宇宙軍総裁様と副官殿はあおざめているよーな…であった。

「何これ」
リース家の子供部屋の机の上。あの手紙があった。
「あのドラゴンみたいな…あーやな予感」
開くと…以下略。


「リッチー君…」
紫系統のフリルとリボンてんこ盛りのドレスを着た少女がいる。いつものあの星なのか、これは。
「殿下…ってまた、それですか」
「まあ、気にしない、気にしない」
「着替えてくださいっ、殿下っ」
トマスの絶叫が聞こえていた。いつものことだけれど。
「今度の課金のはどうだ、これ」
おっぱいが…いやその。ネクタイにボレロ風の上着、よりによって前ははだけて…いやボタンも何もない。なのに、頭には兎の耳がついた帽子。
「思ったよりもおっぱい、大きい…」
いや、それはそのね。
「そうだな…」
ああ、そこで上着開かない、ひらひらさせない…トマスが青ざめているから。おっぱいが…丸見え…ここはそういうお話ではありませーん、殿下。
「カワイイ名前の割にはすごい衣装というか、防具というか…」
「君も着てみたいの」
「着てどうするんですか、着替えろと喚く人いませんし、アンに見せたら、胸掴まれるし」
「掴まれる…って」
「こう、ぐりぐりぐりっとなんで、あなたがそう大きいのよって…あ…いけない」
「どういう夫婦なんだ、君たちは」
「うふふ、色々ありますから、あれ、参謀長の」
「私にも届いていましたから、コレ」
ジョン・デ・ヴィアーという名前の男が、あの手紙をひらひらとさせていた。
「どういうことなんだ…」
「さあ…」
参謀長はそれなりの防具を着ていた。かつての時代を思わせる甲冑のような、それでいてどこかしなやかさがある。金属製の甲冑よりも普段着に近い感じのするものだった。マントに似た肩布。トマスのものは…。
「なんでおまえ、兎の頭なんだ」
「聞くな」
兎の被り物じみた防具。下は普段着に見える。
「これが課金の条件なんだ」
「あーーー、なるほど」
「何枚買ったと思うんだ、あの防具とか…」
「相変わらず、贅沢なお人ですねえ…」
腕組みして睨みつけている殿下。
「なぜか知らないが、胸、大きくなったよーな…」
ついそう呟く総裁様。
「殿下、話が進みません、その防具やめませんか」
リッチー君が言い出してきた。
「そうだな」
着替え…ても、相変わらず胸を強調したセクシィ路線は変わらず。
「それで、この手紙の内容なのだが…」
書かれていることはみな同じ案件だった。
「同じ文ですね、ほぼ…」
「幻の酒を探して欲しい…とあるな」
「それはどこにあるんでしょう」
「受付に聞いてみようか」
が、受付嬢は誰も何も知らなかった。手紙を見せると彼女は祈りの泉に行ったほうがいいかもしれない、と答えていた。

祈りの泉。その場所には二足歩行の不思議な猫達がいた。三匹ほど。
「何の御用ですかニャ、ハンター様」
手紙を見せる。読めるかどうかは知らないが。
「歌姫様からの手紙ですニャ、これは」
「歌姫はどこにいる」
総裁が聞いた。
「今お呼びいたしますニャ、しばらくお待ちくださいニャ」
「申し訳ありせん、ハンターの皆様」
美しいブロンドの髪、独特な髪飾り、薄緑のロングドレス、ベールで装った姫が奥から姿を現した。
「君は…」
「私は、私の役目がありますゆえ、この星に残ることにいたしました。竜人族のハンターしか今はおりません。ですが…彼らには頼めなかったのです…お許しくださいませ」
「幻の酒、とあるが…」
「泡盛、アワモリと呼ばれるものなのですが…ご存知ありませんか」
ぎょっとする四人。知っているよ、でも、ここには持ってこられなかったんだよ、とは言えない。この姫様のシリアスな雰囲気に飲まれて、のこと。
「この世界にあるのか」
「あるらしいのですが、それには…また狩りをしなくてはならなくて…そのお酒の香りも味もこの世界の者は誰一人知らないのです」
「つまり…」
「はい、申し訳ありません」
「この星の人間には頼めない、と言うわけですか」
「はい」
「理由は」
「孤島が動いているようなドラゴンを鎮めるためですの」
「あれ、は」
「同じものに見えますが、違うのです。違う星から襲来したものなのです。調合師の長老がアワモリが効くらしいとつき詰めたのです。ですが、アワモリって一体何なのか」
「誰も知らないのか」
「はい」
「参ったな」
「アワモリで酔わせて、ハンターを集めれば、討伐こそ無理でも、眠らせることはできるらしいと、長老がつきつめたのです。どうか、この星をお救いください。ハンター様」
うーんんん。この依頼、受けられるのか、全く解らないが。
「宇宙軍のことは竜人族のハンター達の何人かが引き受けると言っております」
「できるのか」
「あの種族は人間とは違います。当分はあなたの役目を代行出来ますわ、宇宙軍総裁殿下」
「そこまで言うのなら、仕方あるまい。引き受けよう」
「ありがとうございます」
嬉しそうに美しい歌姫が微笑んでいた。神聖な美しさだ。妖精のような美女。
「あなたの歌には独自の効果があると聞いた」
「狩りの前にこそ、役立つものです。ただ…時間は限られますが」
「なるほど…」
「まずは…総合受付の人に聞いてくださいませ。申しつけてありますの」
「解った。聞いてくる」
「僕、行ってきます」
リッチー君、ただし美少女にしか見えないのだが、その彼が泉から走り出て行った。
「総裁様、あの子には気配り怠らぬよう…何者かが狙っております」
「な、なんだって…」
歌姫が頷いている。リッチー君には内緒にしなければならないらしい。
「解った、気をつけよう」
間もなく、リッチー君は戻ってきた。そして、四人は団の部屋に向かった。その部屋でのこと。
「赤みがかったオスのドラゴンと桜色のメスを狩ってきてほしいそうです。ランクはハイランクのグレート。ハードタイプでお願いしたいと。オスが守る洞窟に秘密の文書の一部があるそうです。メスがいる砂漠の洞窟に暗号を解読するグッズがあるとのこと。ここまでが第一段階です、殿下」
「解った、団の部屋へ行って、支度をしよう」
「その前に…この世界でのお金が僕達にはありませんから、生活のために、採取の依頼を受けなくてはなりませんが、殿下」
「採取、か」
「僕、採取のための専門の防具に着替えてきます」
「ああ、それなら私も着替えよう、トマスとジョンはどうするんだ」
「着替えますよ」
ジョンがそう返事していた。
「私も着替えます」
トマスの声だ。


「着替えるのか、私も着替えよう」
そう言って総裁は立ち上がり、個室に入った。入れ違いに三人が出てきた。
「え…」
「え」
「あー」
そりゃそうだろう、変な防具としか言いようがない。
「ヘンですか、僕…」
ダンボールのアヒルから声がしている。あのリッチーくんの声で、トマスが唖然としていた。
「トマス、どうだ、これ」
魚の被り物に魚の形の腰のもの、釣り竿がついてる気がするのは何故か。足元もしっかり魚のヒレ風。そこからしている声はジョンのもの。
「おまえ、それ確か」
「ずっとこつこつ素材溜め込んでいただけだ、採取用ってわけではないが」
「お前は全身、ウサギか」
「まあ、そうだな」
そのところに総裁が戻ってきた。総裁は三人を見て唖然としていたが、総裁も変な格好をしていた。ジョンのものとは色違いのお魚セットだった。赤いお魚セットと言うべきか。
「リッチー君、リボンもダンボールなのか、それ」
「ええ」
「ええって…カワイイことはカワイイけどね…」
採取に花畑へ出かけた。
「ピッケルも虫あみもありませんから、まずは草木関係のもの集めましょう、殿下」
トマスが言う。
「支給品は駄目なのか」
「二回くらいで壊れますよ、殿下」
ダンボールアヒルがそう言う。そう言ってさっさと集めている。総裁も集め始めた。その中には魚釣りに使うミミズなどがあり、釣りもできそうだった。
「カワイイ…」
参謀長が言う。うずくまってゴソゴソやってるアヒルちゃん。
「こら、お前も釣りくらいしろ」
「そうですね」
変わった魚ばかり釣り上げることにはなったけれど。それらを持って素材屋の看板娘に売った。そして質のいいピッケルや虫あみ等を購入し、また別のエリアに向かった。
「今度は…沼地ですか」
キノコや鉱物等を集める。そして納品。
「食材、買いましょう、殿下」
食材を買い込み、部屋の猫に頼み…そう言えば、この猫も二足歩行だった。
「ホント、いとこ殿と違って美味しい…」
「は」
「ほら、めちゃくちゃな料理ばっか作るでしょ、いとこ殿ってば」
「そりゃ…」
そうだけどねー、あの白薔薇亭のは、ねー…。
「でも、僕、いとこ殿のほーが好きだな…美味とかそういうのじゃなくても」
「そうですね、三世陛下」
トマスが苦笑していた。
「クエ、受けよう。その秘密の文書とやらを」
スプーン片手に総裁がつぶやいた。具沢山のスープは美味だが、あの白薔薇亭の破天荒な料理が懐かしかった。
「ええ、殿下、そういたしましょう」
トマスがそう言って肉を切り分けていた。大皿に盛り付けて出す形式のため、トマスが全員に取り分けていた。料理猫は運びつけると自分の場所に戻ってしまう。給仕は期待できなかった。食事中の会話はどうってことはない話題。
「泡盛、恋しいー」
「殿下―」
「一杯やりたいけど、無理だよね」
「ええ、まあ、そうですね、殿下」
リッチー君が苦笑していた。依頼の内容をリッチー君はずっと見ている。総裁はその文書の写しを見ていた。
「分担して受けるのはやめよう、きついらしいし、回復薬もちゃんと持参、自分の力を過信しないこと…他は」
「防具と武器の選択について、検討もしたほうがよいでしょうね」
トマスがそう告げる。
「基本は…僕は弓です」
「リッチー君」
「私は太刀で」
トマスはそう言った。ジョンは大剣を選んでいた。総裁はトンファーか双剣を選んでいた。
「ちょっと高めの回復薬、僕、持ちました」
リッチー君は他の三人に比べるといくらか弱いらしい。
「そうか…」