手慣れつつある手順で始まる狩り。トマスの投げたボールは少ないながらも手傷を負わせるらしい。が、それよりももっとはっきりした手傷はガンナー二人が放つ矢と弾丸によるものだ。
「こいつも違うのか…」
炎の吐き方、身体の動き、攻撃。いつもの金色のドラゴンとは違っていた。そして体力もあり、なかなかしぶとかった。宙返りをうち、なおかつ横滑りする回転技を酷使し、ハンターを翻弄する。その度に体力が削られていく。離れた位置で回復薬を飲むリッチー君を見る。そして、武器を繰り出し、少しでも弱らせようとした。回復薬を飲み終わった彼は矢をつがえ、連射を繰り返す。命中率はかなり上がってきていた。かつての時代に使った長弓とは違う。弱ったドラゴンの尾を切り落とし、尚も攻撃を続けた。ドラゴンが倒れ。素材を切り取るとそのドラゴンの身体のそばの床が開き、箱が現れた。トマスがそれを拾い上げ、声をかけてきた。
「引き上げましょう、殿下」
「そうだな」
部屋に戻ってリッチー君に弓について聞いてみた。
「この弓は東洋式だそうです。大きさから言って、日本のものを元にしているのかもしれません」
「日本の弓…」
「世界で一番大型なんです」
「そこの人々は小柄じゃないか」
「殿下、梃子の原理をご存知なのでしょう…」
「それにしても」
「命中率はすごかったそうです…なんでも海の上の小舟に高く掲げた扇を射抜いて撃ち落とした名手もいたそうです」
「は」
「揺れる小舟の上の扇の要に的中させて落としたとか」
「…どういうんだ」
「よくわかりませんけど、銃器も非常に的確だったとか…資源がない国土なので、当然と言えば当然ですが」
「ふーん…」
「神事にも使われたそうですよ、奉納の儀式がいくつも伝わっているそうです」
「卑しいものの武器ではなく…」
「貴人がたしなむ武道だったとか」
「まるで逆だな」
「それが不思議なんですよね、西洋人が鉄砲を伝えたのに、彼らはそれを武器にはしなかった」
「何故」
「殺傷能力が高いということは国土がなお荒れるからでしょう。天災の多い土地にはふさわしくありません」
「なるほどな…帰ったら、東洋の兵学も見ることにしよう」
「資料なら集めますよ、殿下」
「頼んだよ」
「はい」
そして箱を開ける。底の文字を見てリッチー君は苦笑していた。
「バッカスの賛辞です、殿下」
リッチー君が言う。ギリシャの言語が書き付けてあると言う。


それから次は銀色のドラゴン。空の上から放つ炎の弾丸は的確にハンターを狙っている。この二匹のドラゴンも二つの箱を持っていた。あの鍵で、全て開いた。
「それからこちらは…祝詞です、松尾大社の…日本の神道の…酒の神を称える…」
「酒、か」
「殿下、泡盛…」
「作るのかも知れないな」
箱から出てきた文書を接ぎ合わせる。足りない。意味がぜんぜん解らないのだ。それなのに、酒。
「酒関係の神事か…」
「泡盛の元々の出処のものはありませんね、未だ」
「そういえば、そうだな…歌姫に聞いてみるか」
「そうですね」
祈りの泉で聞いてみた。
「あなた方はご存知でも私には全くわかりません…何故、箱の底に酒関係の神事の言葉があるのかも…」
「泡盛がこの世界にないならば、作るか、探すか、どちらかになりますね」
「作る…作れるものなのですか」
「道具と材料さえ揃えば」
「それももしかしたら…モンスター達が持っているかもしれませんね…」
「ならば、行くしかありませんね、モンスターを狩りに」
部屋に戻り、文書らしき断片をリッチー君が改めてつなぎ合わせ始めてみた。
「殿下…盛の漢字が出来ましたよ、これ」
リッチー君がそう言った。サンスクリットの文字の合間にあった模様が「盛」の文字をかたどっていた。サンスクリットの文字に従って繋いでみた結果だった。
「泡も漢字があるのか」
「でしょうね…」
「よし、狩りに行こう、受付嬢に聞いてみてくれ」
「はい」
受付へリッチー君が走る。受付嬢が示したものは棘竜の亜種と希少種だった。
「棘竜の亜種と希少種…ですか」
「そうか…まずはまた祈りの泉で歌を聞こう」


棘竜の箱から出てきた文書を突き合わせてみたが、相変わらず、意味のあるものは発見できなかった。もう箱の底には文字はなかった。ただ、何か隠された底があるように見えた。内張りを剥がし、ナイフでそっと底板を外してみた。
「これは…」
「インディカ米です…ただ、この量では何も出来ない…カレー一人前分くらいしかありません」
「足りないのか…他の箱も見てみよう」
見ても、足りない。
「足りません、これでは麹しか作れません。酒にするにはもっと必要です、多分」
「たぶん…か」
「よく解らないんですけど、作り方もきっと…狩りで入手できるんじゃないでしょうか」
「狩りで。それはまた…」
「何回か、泡盛の醸造所に行ったことありますけど…」
「あるのか」
「だって、そこでないと青薔薇の泡盛は手に入らないんですよ、特性の二百年物で」
「あ、そ、そうなのか」
「殿下は惜しげもなくラッパ飲みなさいますけど、アレ、かなり高価なんです。宣伝になるからって特別価格で分けてもらっているんですよ」
「まさか」
「はい、宇宙軍総裁お気に入りの銘酒・泡盛・青薔薇って…」
「君ね…」
「いいコマーシャルだって喜んでますよ、あの酒造会社は」
「そう…」
「由緒正しいんですよ、琉球王国お墨付きの酒造会社で歴史の長さはちよっとわかんないくらいで」
「あ、そ…」
「戦争で一度途絶えそうになったそうですよ」
「そうか…」
「一つの文化を滅ぼしかねない戦争だったそうです。でも、庶民は強い」
「そうか…そういう歴史の酒…私はラッパ飲みは」
「いつもなさっておいでです」
ドきっぱりとリッチー君は言い放った。トマスとジョンは苦笑しているだけだった。