• うたかたの記INDEX
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    • うたかたの記・外伝3 ~花のワルツ~

    •  「どうしても行きたい、だと」
      マイクが溜息をつく。
       「色々考えてみた」
       「おまえさー、年齢制限ひっかかるんじゃねーかよ」
       「そこなんだよね、マイクの弟のジョゼフ、彼女、いるの」
       「・・・この一番必要な時に振られたらしいぜ」
       「なら、都合がいいや、彼、貸してよ」
       「え」
       「姉様の、母様が着せたくて買っておいたものがあるんだよ、これなんだけどさ」
      紙袋から取り出して広げたそれは三段のレイアードスカート。下の段に取り外しのきくレースの飾りがついている。赤いタータンチェックで可愛らしい。
       「ソレ・・・コニーが、か」
       「母様ってたまに無茶苦茶するよね、とうとう着てくれなかったんで、腹いせに取っておいたんだってさ」
       「スチュアート家のチェックだな」
       「ああ、母様ってスチュアート家の傍系なんだよ」
       「あっそ」
       「その実、北部卿の時戦争した相手に母様の父親って人がいたらしいんだけどね」
       「なかなか珍妙な事してんな」
       「スコットランドとの戦争したの、僕じゃないもん」
       「あんちゃんか・・・」
       「指揮はしたけどね」
       「勝ったのかよ」
       「どっちも勝ったと言い張っているけど・・・ホントは痛み分け」
       「あのなー」
       「災難なのは国境線上にあった村とか町とか・・・」
       「焼き討ちとかしたわけね」
       「したけど、逃げ足早いわー・・・荷物まとめてすたこらさっさってのはいつものことなんだろーなー」
       「は」
       「中世の戦争で庶民ってのは巻き込まれる可能性低いんだよ、近代戦争っての、二十世紀の、二度の大戦、とくに二度目の・・・ああいう類の虐殺行為はさすがにブッたまげたというかー・・・レイプはありえるけど、中世でも、生きたまま骨まで真っ黒っけてのはさすがに・・・なんというか、よくまー考えつくもんだねー、そう思わない」
       「いや、あのそう言う話はおいといてくんねーか」
       「あとユダヤだっけ、大虐殺したとかいうの」
       「やっぱ戦時というのは関心あるんだ」
       「あるけど、ここまでやるのはおかしくない、マイク」
       「・・・戦闘員ならわかるけどってか」
       「戦闘員ってのは専門家だろ、でも庶民の女子ども老人って虐殺する必要あんの、マイク」
       「ないと思います、国王陛下。それはいいけど、なんでそのスカートが出て来るのさ」
       「記念パーティ、見かけではねられるなら、化けりゃーいいと思いまして」
       「・・・どーしてこーなんだろな」
       「マキャベリズムって知ってる、マイク」
       「知ってる」
       「立ってる物なら親でもこき使えって感じ・・・ひげもはえてないし、女みたいと言われているし、なら化けられるんじゃないかなと思いつきまして」
       「・・・使い方違ってると思うぞ」
       「シェークスピアのリチャード三世とか」
       「おい」
       「せむしでびっこと解った時点でうちの家族が城から外にだすもんかってのよ」
       「え」
       「不虞だと解った時点で一生幽閉されるっての、王族の公爵家ってのはそーゆー家だよ」
       「・・・それって」
       「不虞とか解ったら、夭折した事にして外には出してもらえません。中世では不虞が生まれた家には災いが起きるとか悪魔が生まれた家系とか言われるから、その点、シェークスピア見間違いしたと思うけどね、それはいいとして、あのシェークスピアの、彼なら何でも使うじゃん、そういう・・・観点でいかがかなと・・・」
       「ソレはリース教授には絶対言うなよ、そんなに見たいかよ、卒業パーティ」
       「映像だけじゃつまんないもん」
       「でーうちの弟に白羽」
       「うん」
       「変な智恵だけ廻るよなーおまえって」
       「その時、父様達も来賓で出かけちゃってるし、姉様は警備だし、ラヴェルも医療スタッフだし、お留守番なんてつまんない」
       「・・・おまえなあ・・・で、何がしたいという」
       「化けるから、弟さんのパートナーって事でパーティに行きたい」
       「そういうことか」
       「うん」
       「あいつが納得したなら、いいんじゃないのか」
       「化粧はジュリアがしてくれるって」
       「変な根回しすんなってのっ」
      マイクの下宿に彼の弟が戻ってきた。
       「・・・あー、この御方が兄貴の、例のかわいこちゃん」
       「は?」
      マイクが首をかしげる。
       「よく言われてんの、いつもつるんでる子とつきあえばいいじゃないの、って」
       「また、おまえかよおおお」
       「レイナもアリサもアンナもマギーもシャーロットもカトリーナも言ってたよ」
      リチャードの言葉にマイクが目を見開いた。
       「全部言うんじゃねえよっ、というかなんで全部知ってるんだ、おまえ」
       「当人に言われた」
       「くそおおお、おまえ男だと言ったんだろな」
       「言ったけど、そーゆー趣味かと思ったって言ってたよ」
       「否定して頂戴」
       「もっといい男がいいと言ったら納得してた、そうゆう趣味がもしあったとしたら」
       「・・・そーゆー趣味だとしておまえ、理想のタイプは」
       「こんなかにあるよ、猿団子の一人」
       「へ」
      ビットを差し出して言う。受け取って、読み込んで、映像を投影する。
       「こっちのおっさんはクラレンス副学長様だな、こっちの金髪のでっけーのが」
       「エドワード四世陛下でござい」
       「・・・タイプ違うな・・・青みがかったグレーの瞳に金髪巻き毛で御顔綺羅綺羅しく、御ふるまいおさおさし、っていうかー」
       「こーゆーのがいい」
       「いるわけあるかっ、こんなんがそこらへんに」
       「兄上様でして」
       「よくコンプレックス抱かずにすむなー、俺だったら絶対そばにはよんねーわ」
       「・・・劣等感ってのならいつでも感じてたけど。マジに兄弟なのかと疑って、ママに張り倒されましてん」
       「・・・あーそー」
       「平手打ちならまだいいんだけどねー、本気でグーで殴ることないじゃん。レイビーの薔薇が、誇り高きシスがさー」
       「結構奇天烈なおうちで」
       「王家がまともなわけねーじゃん」
       「いつ殴られたって」
       「即位直前・・・に実の息子じゃないって言ってくれって言ったら、グーでばっこーんっときたモンだ」
       「・・・よくわかんねーうちだな」
       「七十歳近いママがグーで・・・つーのもなかなかだろ、それはいいとしてージョゼフ・ハドソンさん」
       「なんでございましょう」
       「ホントに彼女なしで卒業パーティ行くのかな」
       「それは・・・マジ聞かないで欲しい」
       「ものは相談なんだけど」
       「はい」
       「その際、造花でもいいかな、と」
       「その意味は」
       「これ着て化けるから卒業パーティに連れて行って頂戴」
      バサリと広げた可愛らしいスカート。
       「はー・・・好奇心、猫をも殺すってことかいな」
       「・・・お化粧はジュリアがしてくれるって」
       「・・・マジですか」
       「マジだよ」
       「ああ、そうか・・・兄貴の同級生って事はスキップ学生じゃ経験できないってわけか」
       「彼女は五年くらい作れない、と思う。当分見かけは十二歳だから」
      その言葉にマイクの弟は驚いた。
       「・・・頭脳は大人、なわけね」
       「元の世界での享年はちなみに三十二歳」
       「立派なおっさんが何言い出す」
       「見た事ないモンは何でも見たい。方法は問わない。試験開けで退屈しているというのもある」
       「兄貴、つくづく貧乏クジ引いてんな」
       「ラヴェルクリニックのせんせーさまほどじゃないけどな」
      マイクが言う。
       「あーあー、あのむっちゃ荒っぽい軍医じゃねーかと思うほどの治療ぶちかます先生様ね、顔立ちは柔らかいのにさ」
      ジョゼフがげんなりしてそう続けた。
       「はへ、フランシー何かしたん」
       「・・・腕単純骨折したの、俺、四ヶ月前。ギプスで固定するときの荒っぽさたらもー・・・俺はいいんだけどさ、仲間のロビン、腰だったわけよ・・・すげーのなんのって」
       「・・・四ヶ月前のってそう言えば、近所に轟く男の悲鳴・・・アレ、あーそーかー・・・マッケンジーの奥さんが通報しちゃって、大騒ぎになったんだ、アレ」
       「・・・知ってるんだ」
       「外に出るなって父様が部屋に鍵かけちゃった・・・アレ、フランシーが原因だったのか・・・」
       「聞いてないんだ」
       「翌朝、母様に聞いたら、祭り囃子だった・・・机たたいて笑い転げていて・・・何の説明もないというか」
       「説明されてたまるかっての。荒っぽいけど治りは早いんだよ、あの先生のは。だから大学や高校のスポーツクラブ直属なんじゃねーか。整形外科がメインだって言ってたな」
       「性格は荒っぽくないはずだけど・・・無茶はしないというか、割合慎重なはずだけど」
       「・・・そうかなー」
       「疑うの、部下だよ、つか、友達」
       「アレ・・・」
       「シェークスピアにも出てるじゃん、アレが実物」
       「あの、変な歌の」
       「犬のラヴェル、だよ、本人に言ってみ、面白いから」
       「言えるかっての、すました顔して、女ひっぱたこうとした馬鹿な奴、投げ飛ばしたんだぜ、割合物騒な人じゃん。コニーには負けるけど、ある意味怖いじゃん。その人のほーが貧乏クジ引きぱなしだってことかー」
       「とーぜん。そのうち、来るんじゃないの、猫もネズミも(ケイツビーとラトクリフのこと)」
       「・・・あのさあ陛下」
       「何」
       「その歌、ホントは腹立ってるんだろ」
       「あたりまえじゃん。でも、死人に口なしですからねー。勝手にすれば」
       「・・・だからリース教授の髪の毛ますます薄くなるんだよ」
       「父様はそのうち絶対ハゲると思う」
       「頭いてーな、でーゼフィ、どーする」
       「いいよ、俺は。ふけようかと思ったけど・・・ジュリア様に是非がんばっていただいて・・・」
       「棒読みだね」
       「なるに決まってるだろ、俺は史学科に入ったらリース教授のゼミと講義取るって張り切ってんの、あんたのパパの心象はぜひともよろしくしておきたい」
       「それは・・・ゼフィ、君の成績と態度にかかるんじゃないの」
      にっこり。この微笑みに勝てた人間は・・・およそいなかったりする。


       「ホントに化けた」
       「ここまで化粧してたらわかんないよね」
       「・・・まあそうだろな」
      まるで動く人形だ。黒髪を耳の下くらいの長さに切りそろえ、前髪を下ろしている。それにスカートと同じ生地で作られた髪飾り。それには黒と赤の羽がついており、髪飾りには黒いレースの縁取りがある。白いブラウスにフリンジのたっぷり入ったスカーフを首もとにしめた上、その結び目に赤い貴石を使ったブローチ。黒いハイソックスにパンプス。
       「ジュリアにコーディネートしてもらった、もっと大人ぽい方が良かったかな」
       「いや、十分で」
      ジョゼフは溜息をついていた。
       「勘弁してくれよ」
       「それからね、下着見えるといけないから、スカートと同柄のキュロットはくことにしたんだ、見てみる?」
      スカートの裾持って言ってみたら、兄弟が声をそろえて、叫んでいた。
       「「けっこーですっ、陛下」」


       「あーここが姉様の言ってた、壁のシミ」
       「何だそら」
       「ここがいい」
      西の壁の片隅のテーブル。壁にはラファエロの聖母子像の模造品がかかっていた。
       「へいへい」
      椅子を引いてやる。
       「脚閉じて座っていてよ、陛下」
       「わかってるって」
      その横にジョゼフが立つ。式典が始まり、来賓の挨拶が終わるとパーティが始まる。面白そうにきょろきょろしていたが、ジョゼフの手を引いた。
       「踊らないの」
       「・・・出来るのかよ」
       「リードしてよ」
       「ワルツくらいなら何とかなるべ」
       「そんでは、行きますか」
      一曲だけ踊り、席に戻り、ソフトドリンクを口にした。
       「クィーンとキングを選ぶんだとさ」
       「へー・・・コンクールあるんだ」
       「選考時間はフリータイムだけど、ゼフィ、離れるなよ、あぶなかしーんだから、この人は」
       「おー」
       「そうかなー」
       「自覚がねーんだよ、ある意味天然だし」
       「ははは」


      ファンファーレが鳴り響いて。名前がわからないので通称「ジョゼフ・ハドソン君の彼女、あるいはパートナー」がクィーンになっていた。
       「みんな目が悪いなあ」
       「いや、ジュリア様の化粧の腕が抜群だったんじゃねーの」
       「ところでさ・・・造花で偽物って言っちゃ駄目」
       「夢は持たせろ、馬鹿か」
       「そーみたいだね・・・」
      赤いマント、裏打ちのテンの冬毛を模したフェィクファー、それにグラスビーズで作られた王冠。髪飾りを取り、それをかぶり、来賓から記念品をもらい、にっこりと笑ってみた。マイクとジョゼフ兄弟は「俺知らね」という顔をしてそっぽを向いていた。そしてその人物はキングと一曲踊って戻って来た。
       「ゼフィよりダンス上手かったよ」
       「そらそーだんべ」


       「あなた」
       「何かね、ジゼル」
       「あのスカート見覚えがあるんだけど・・・気のせいかしら」
       「・・・気のせいにしておいた方が世の中平和だろ」
       「やっぱりね・・・コニーじゃなくてなぜあの子が・・・相変わらずかっ飛んだ子だわ」
      ラヴェルも冷や汗をかいていた。
       「どーしてああ好奇心旺盛なんですかねえ」
       「さあ・・・解らないわ」
       「楽しそうですから、別に構いませんがね」
       「見かけの年齢じゃ入れないものね、この会場にも。この先、経験出来るかしら、卒業パーティなど・・・」
       「どうでしょう・・・」


       「リチャード」
       「何でしょう、父様」
       「総合大学附属高校のダンシングクィーンに渡したはずの記念品が何故、我が家にあるのか、説明しなさい」
       「・・・バレた・・・」
       「やっぱりおまえだったのか・・・」
       「気付いてたの」
       「記念品渡したときに気付いたよ、まったく・・・」
       「面白かったよ。生で振ったり振られたりしてんの、見られて。すぐ横のカップルの痴話げんかにマイクが巻き込まれて、怪我しちゃったりしたけどね」
       「アレも横で見てたのか」
       「ゼフィがあっち行ってろってジュリアに預けちゃったから、よくわかんなくなっちゃったけど」
       「ほどほどにしろ、いいな」
       「うん」
      ギャップに煩悶するのは、マイクの他、後、誰だろう、ふとリース教授は思うのだった。
       「王位いやがってね、母上に息子じゃないと言ってと言ったの、父様、そしたらね、ヨーク大公妃様に僕、グーで殴られた」
       「そーゆーことは言うなってのっ」
      やっぱり、私か、この馬鹿息子よ、リース教授はそう思った。


                                                         終

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