• うたかたの記INDEX
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    • いづれの御時にか、 女御・更衣あまた侍ひ給ひけるなかに、 いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり。
      はじめより我はと思ひ上がり給へる御方がた、めざましきものにおとしめ嫉み給ふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは、 まして安からず、朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、いと篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、 いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえ憚らせ給はず、世のためしにもなりぬべき御もてなしなり。 (源氏物語・桐壺より
      )


       「あなたから連絡が来るなんて思っても見なかったわ」
      父に頼んで彼女のいるコロニーに送り届けてもらった。付き添うと言い張るジゼルとホテルを予約した。ジゼルとはドア一つ隔てた続き部屋に泊まった。そして義理の姉の住まいに一人、尋ねていった。
       「母が一人では出してくれなくて・・・ホテルにいますけど・・・」
       「それは無理はないわ」
      まだ彼は十二歳くらいのみかけのままだ。
       「未成年じゃないの」
       「ええ、ですから・・・旅行許可も大変でした、父もなかなかいい顔してくれなくて・・・」
       「馴染んでらっしゃるのね」
       「馴染まないみたいだ、と両親が悟った時は・・・その」
       「何か」
       「過去の母上を呼び出しました」
       「お義母様を・・・なかなか・・・それは」
       「レイモンド博士と父の権限を最大に使ったみたいですけどね・・・」
       「あの人の事は」
       「何も。言っても仕方ありませんし、エドワードは移民したとは言ってません」
       「その方がいいわ・・・まさかあの人が・・・いえ」
       「レイモンド博士、移動してしまいました」
       「え」
       「もうあのコロニーにはいないんです。あの人、実はトラブル抱えていて」
       「マザーボードシステムの生まれと聞いたわ」
       「同僚の妻と不倫関係を・・・」
       「うそ・・・」
       「本当です、しかもその奥さん、投身自殺を」
       「うそ」
       「私のすぐ横に落ちてきたんですよ、その人。これは・・・その・・・ネディ、いえエドマンドという兄弟が私達にいたのは知ってますよね」
       「ええ」
       「彼の娘だった、つまり姪だったんですよ、その人。無残な遺体になってしまって・・・」
       「見ていたの・・・」
       「はい」
       「何故、そんな関係だと」
       「妊娠していたからです、彼女が。レイモンの子」
       「まあ・・・あの人が。信じられないわ・・・」
       「冷徹な人だと思っていたのに、こんな問題抱え込んでいたなんて、私達も予想外で・・・ジョージも、エドワードもかなり参ってました」
       「あの人が生きていた頃の事なのね」
       「はい」
       「そう・・・本当に厄介ねえ・・・人の心って・・・」
       「義姉上」
       「グレイ夫人よ」
       「慣れなくて」
       「あの時代にいたときもあなたは、そう呼んだわ、義姉上、もっと進んで王太后陛下、それはちょっとね」
       「事実ではありませんか。国民の前では確かに私は王冠をかぶりましたけど・・・本来はエドワード五世陛下のものでしょう」
       「あの証明書は本物よ。あの人のサインは間違いがないわ。サインを見て、私は諦めたの、それだけだわ」
       「おかげであなたの娘には惚れこまれるわ、ストーカー行為は受けるわ、セシリーまでおかしくなるわで散々でしたけれどね」
       「セシリーがどうかしたのかしら」
       「二度目の再婚相手・・・心底惚れた相手だったそうですよ」
       「何なのかしら」
       「王妃の妹にあるまじき身分の低さだったそうです」
       「あら・・・やだ・・・本気で好きな男のところに走ったのねーあの子」
       「幸せそうでしたけれどね」
       「来ているの、まあ、それもよしとしましょうか」
       「で、エリザベス、離婚したそうですね」
       「そうなのよ、それも浮気されたんですって。まったく」
       「あー・・・で、今は」
       「東洋の人なの。再婚したのよ」
       「東洋・・・ね」
       「レイモンド博士が好きな国ではなくて、大陸の方の人らしいわ」
       「ああ、表意文字の国ですね、とても大きな帝國があったという」
       「古代ローマに匹敵する大きさですってね」
       「詳しいんですね」
       「エリザベスからメールが届くのよ・・・まあ、結婚式には出なかったけれど」
       「彼女はなんて」
       「構わないらしいわ。儀式がたくさんあって大変らしいのよ・・・その大きな帝國の皇帝の関係者らしいの」
       「時間移民ですか」
       「そうらしいわ」
       「幸せそうですか」
       「それは・・・どうかしら」
      グレイ夫人は微笑んでそう言った。夫が帰ってきたらしい。リチャードが立ち上がりかかると彼女は微笑んで止めた。
       「ランカスターの騎士だから・・・あなたにはちょっとどうかと思うのだけれど・・・」
       「初めまして」
      挨拶をすると彼は誰なのか、と妻に尋ねた。
       「私の再婚相手の弟さんよ」
       「ああ、ヨーク家の・・・え・・・あ・・・どう挨拶したらいいのかな、私は」
       「ここでは互いに一庶民に過ぎませんから・・・」
       「それもそうか・・・」
      控えめな態度にグレイは驚いていた。
       「グレイ夫人、ご子息は・・・来ておりませんか」
       「ええ、どちらも来てませんわ」
       「片方は移民の適正にはあってませんけれど、あの、もう一人は・・・ウッドヴィル教授がいるのなら」
       「拒否したのかも知れませんわ」
       「そうですか・・・拒否出来るとは知りませんでした」
       「え、あなたは」
       「気付いた時はもう、エドワードもジョージも・・・ラボにいて・・・元に戻してくれと言ったら二人とも猛反対していて・・・レイモンド博士もいましたし・・・」
       「それは・・・」
       「それに私の場合は完全に移民局職員でありメンタルコーディネーターが間違えちゃったとか・・・」
       「・・・災難ですわね」
       「その人も確か・・・この先の戦災受難者計画コロニーに転勤してしまって。移民してきてすぐに・・・」
       「まさかと思いますけど」
       「本当はエドワードもそれだったみたいですよ」
       「あらまあ」
       「ヨークの名前・・・使っているもの誰もいませんね、この世界でも」
       「あなたも名乗らないのね」
       「はい、リース家の子ですから。フランツ・リースの息子で、まだ大学院生の・・・独立もしていない・・・義姉上、いえ、グレイ夫人、そろそろ失礼いたします。母が心配していると思いますので・・・」
      椅子から立ち上がり、彼は軽く会釈して去っていった。
       「母が・・・ですって」
       「エリザベス・・・」
      グレイ卿は妻をなだめるように肩に手をかけた。
       「他意はないのよ、ただ、驚いてしまって・・・生まれた家を離れて、あの人がやっと平穏を手に入れたと言う事に」
       「平穏・・・ヨークの家は居心地がよくなかったのか」
       「だと思います、兄たちとどうしても比べられてしまいますもの」
       「そうか・・・」
      かつての世界で、ヨークの末っ子の事は彼はほとんど知らなかった。ただ、息子達と年の差がないことだけは解っていたが。そして・・・ヨークの末っ子はグレイの子ども達と同じくらいの年で父親を亡くしていた。
         「話には聞いていたが・・・よく、穏やかに君は話せるな」
       「あなたに伝えてどうか、と思いますけど・・・私達の息子はあの人に毒を盛り続けたり、暗殺者を送り込んだりしていましたのよ」
       「な・・・」
       「エドワードに悟られました。ですから・・・私には、何も出来ませんでしたの」
       「辛かったな、エリザベス、君も」
       「ええ、でも、私は・・・ヨークを選んでしまいましたの、あなたの子を棄ててしまった。それだけは・・・」
       「いや、いい・・・もういいんだ・・・」
      妻を抱き締め、グレイは息をふっと吐き、微笑んだ。
       「今日は・・・どこか夕食は食べに行こうか、疲れただろう」
       「ええ、そうしましょう」
      平穏な会話に彼女は微笑んだ。平穏な会話。それが嬉しい、と。


      レイモンドの朗読はいつまで経っても理解出来ない。現代語訳を英訳した物を読んで初めて解ったが、背景の説明が長くて閉口した。あの衣装を身にまとい、女達も男達も悩み、嘆き、そして去っていく。二人の男に愛され死んでいこうとした女、不義の子と知って懊悩を重ね、沈んでいく心。嫉妬に狂い、怨霊となる女。最愛の女でありながら、病で去っていく人。不義の子でありながら帝王になり、実父に報いようとする子。その物語の始めをレイモンドは朗読して録音していた。その中に自分の物語さえあると知っていたのか、解らない。
       「私より五百年前・・・人の心とはなんだかなあ」
       「あの天才様の跡継ってどんなもんかい、リチャード」
       「勘弁してよ、あんなに智恵まわんねーよ、僕には」
       「嘘つけ、直弟子じゃんよ」
       「ひどく悩んでたけどね、彼女に自殺された時は」
       「え・・・」
       「そういう人だよ、あの人は」
       「よくまー・・・」
       「彼女の身代わりになったのかも知れない・・・」
       「何だって」
       「なんでもない・・・」
      曜子。あなたが棄てたものを何故、私が拾い上げなければならないのか、何度も考えたけれど・・・それはもう・・・流れに浮かぶうたかたの様に消えてしまった。彼を愛したこと、あなたも私も後悔はしていない。でも、彼の中にとどまることは出来ない事は・・・あなたも私も同じ。曜子、輝く太陽の娘。一瞬で交差した触れ合いの中、私は・・・彼が追い求めた学術的なものを追い求めようと思う・・・。


      行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。


      サンザシの影に棄つる王冠に 塵ともなしや 残心の隙

      さんさしのかけに すつるおうかんに
      ちりともなしや さんしんのすき
       


      サンザシの王冠。出会った男はリチャードにつきまとい、エリザベスの行方を尋ね続けた。
       「彼女は・・・あなたに愛していると言ってはくれなかったのですか・・・」
       「聞いた事もない」
       「笑顔も、向けてはくれなかったと?」
       「凍り付いた彫刻の笑顔なら・・・な」
       「ああ、王妃として役割の笑顔、ですか」
       「暖かい笑みは国民や貴族達には向けたが、私にはただの一度も向けなかった」
       「・・・それが欲しいと言うのですか、あなたは何もかも手に入れたはずでしょう」
       「貴様が手にしていた物全て手にしたと思ったが・・・」
       「彼女の愛情だけは手に入れられなかった・・・と」
       「貴様が奪った、そうだろう」
       「あなたが私を殺したときから、それは手には入りません、承知の上で殺したのでしょう、イングランド国王になれてよろしゅうございましたね、ヘンリー七世陛下」
       「もう一度・・・」
      レイモンドとジョージ、そしてコニーがいた。
       「その男に馬鹿な真似されたら困りますよ、リース教授」
       「すみません、副学長、それから姉様、レイモンド博士」
      リチャードの言葉にコニーが微笑んだ。
       「天文学の図書館、ラテン語部門部長に抜けられては困るんだよ、おまえ、自分たちの立場忘れてるだろう」
       「姉様」
       「リチャード、後で張り倒すぞ」
       「姉様の張り手食らったらお仕事二ヶ月はやれないじゃん」
      大柄な女と抱擁を交わし、頬にキスをする。
       「嫌だったら、大人しくしてろ。馬鹿か」
       「うん。何かあったの」
       「手紙届いた、移民船の船長夫人から」
       「ああ・・・それ、私に、だけ」
       「いや、そこの男にも、だ。元の世界では夫婦だったそうだな」
       「ベスが・・・どうして」
       「これが最後の通信だと解ったからだろう、もう手紙もメールも何も届かないからな」
      コニーがその手紙をヘンリーにも差し出した。もう一通はリチャード宛になっていた。封印をその場で開いてリチャードは手紙を見た。
       「亭主の前でよく書けるものだな」
       「何、あれまー・・・こりゃなかなか、委船長も」

      「リチャード
      リチャード
      リチャード、私の唯一人のお方
      あなたを心の奥底から愛しています。
      あなたが永遠にしあわせでありますように
      神の御恵みがありますように。

                             あなたのエリザベス」



       「ヘンリー」
       「白紙だ、何も書いてない」
       「言うことはない、という意味だな。アンタの墓のとなりにいる女がアンタを愛してないなんて、後の人が見たってわかりゃしない。アンタの幸せがどこにもないなんてわかりゃしない・・・そんなもんだ」
       「見せろ」
      ヘンリーの求めにリチャードは応じ、手紙を差し出した。むさぼる様に読み、ヘンリーは膝をついた。
       「エリザベス・・・」
      白い薔薇の女。愛していた女。何も言わずヘンリーを裏切り続けた女。あくまでもヨークの女。
       「返して下さい」
      リチャードの声にヘンリーは破こうとしたが、コニーに止められた。
       「破かれるのもこのエリザベスという人は解っている、あんたが破こうがリチャードが火に投じようが百も承知だよ」
       「知って・・・いるのか、彼女を」
       「こう見えても総合大学の生活指導教授だよ、治安維持もあたしの任務だ。他の大学の要人たちと知り合いになっていてもおかしくはない、返しな、その手紙はアンタ宛てじゃない。器物破損ということで、来てもらうことになる。公安委員会にね。史学科教授の私物を破損したとなれば・・・アンタ、ここで暮らせなくなるよ」
       「脅しか」
       「副学長と生活指導教授に見られたんだ、遅いよ」
      コニーがヘンリーの手から手紙を取り去り、リチャードに渡した。
       「ストーカー行為もこうも見せられたんじゃあねえ・・・天文学の学校は別のコロニーにもある、そっちに移動してもらうことになりかねない。もっともノースコロニーに移動は決まっているがね・・・エマージェンシー・・・副学長」
      ジョージが持っていた通信機器のキーを押す。
       「ノースコルで原因不明の爆発事故発生・・・リチャード、教授会だ、緊急対策、避難民受け入れ、ノースコル壊滅に備えろ」
       「はいっ」
      通信機器に何か命じながら、リチャードが去っていく。
       「ノースコル・・・」
       「あんたも来るんだよ、リッチモンドのヘンリー、てめーも国王やったことあるなら手伝え。目の前で二百万殺されてたまるかっ」
       「二百万っ」
       「王権だけ追い求めているのなら、そこで愚図愚図してな」
      その男の片腕は機械仕掛けだった。
       「天文の連中は」
       「無事なわけねえだろっ、走れっ」
      その言葉に走った。天文学専門校のまだ移動しきっていない部署はパニック状態だった。図書館の移動は最後だったため、蔵書の損失はなかったが、人材の損失は著しかった。
       「駄目です・・・教授たちが半数以上巻き込まれて生体反応ありません」
       「諦めるな・・・学生達に全員緊急体制をとらせろ・・・」
      ヘンリーはそう言った。
       「わ、私が指揮を執る・・・残った教授と学生達に連絡を・・・」
       「はい・・・」
      下っ端の司書がそう言った。


       「どうでしたか、天文の子達は」
      副学長はそう聞いて来た。
       「半数は無事でしたよ、ただ、教授が半数以上、死亡してしまって・・・学長も」
       「では、ヘンリー、あなたに学長権限を与えましょう。天文学専門学校の再建に尽力して下さい」
       「簡単に言いますね」
       「言いますよ、あなたは国王として行政、軍事、立憲など行っていた経験があります。しかも私の弟、リチャードよりも長く、賢明に勤めていたはずです。出来ない事はないと思っています。あの子は・・・そうですね、劣等感さえなければ、もっと利口に立ち回れていたはずなのですが・・・それは仕方ありません、それに・・・」
       「それに・・・」
       「弟があなたを利用してしまった事、詫びなければなりませんし」
       「利用・・・」
       「あの子は死ぬためにあなたを利用したんです、自殺道具としてね」
       「まさか・・・」
       「本当の事です。では、引き受けてくださいますね、これが辞令です。総合大学の学長は病床にあり、権限は今のところ、私の手元にありますので」
       「クラレンス・・・」
       「ええ、ジョージ・クラレンスと申します」
      ヨークの男。エドワード王の弟。酒におぼれ、兄に逆らい死んだはずの。
       「天文学の知識はこの際なくてもかまいません。必要なのは強烈なリーダーシップです。ノースコル壊滅の理由はテロです。言っている意味解りますか・・・」
       「テロ」
       「罪のない人々を殺し、コロニーを全て壊滅させようとしている馬鹿な組織があります。人類の残存のために移民船をいくつか出立させたのはそのためです。私達の生きている基盤はとてももろい・・・そのために・・・たとえば李夫人、つまりは姪のエリザベス達に未来を託したのかも知れません。あの時のリチャードの様に・・・ヨークの血筋、王家の誇りをベスに託した時の様に」
       「な、なんだと・・・」
       「あの子はそれさえも解っていた。血のみの支配はもはやあり得ないと知っていた。恐ろしい弟を持ったものです。エドワードも私もプランタジネットの血にこだわったけれど・・・あの子はこだわらなかった・・・気付いた時にはあなたが王になっていた。あなたが加えた恥辱、それさえあの子は承知してます。私も理解してます。恨みはない。ただ、あなたのこれからの行動によっては解りませんけれどね。ここに来て恩義を感じた人、友情を感じた人、アパートの管理人、それさえにも感謝出来ないとしたら・・・あなたはまた不幸な人生をおくるしかありません」
       「いや・・・再建には努める。やるべき仕事があるのなら・・・」
       「強い人ですからね、あなたは」
      ジョージはそこで、一枚のメモを取り出し、ヘンリーに渡した。
       「姪からです」

       「あなたが幸せでありますように」

      一行それだけが書かれてあった。
       「これだけ、ですか」
      しかも、メモ。正式な手紙ではない。
       「ええ、やっと、これだけ」
      リチャードにはきちんとした手紙だった。しかも、永遠と言う言葉がカットされている上、名前の書き込みさえない。署名さえない。
       「あなたにはそれで充分でしょう、あなたの未来を縛らないためにも」
       「未来、か」
       「ええ、ここではあなたも私も弟も普通の人間です。普通の幸福を追い求めても誰も文句は言わない」
       「そうだろうな・・・」
      失恋か、とヘンリーはつぶやき、専門学校に戻った。


      そこにはリチャードが生徒達といた。
       「史学科で保存処理をした資料を元に戻しました。確認願います。原本は・・・総合大学の図書室と共通の保護システムが稼働しているカプセルに収納しておきました。閲覧出来る資料はデジタル、アナログで保存処理進んでいます。報告書はこちらに」
      すっと差し出す文書ファイルとメモリービット。受け取るが、ヘンリーはまだコンピューターの扱いはよろしくない。
       「秘書に解読を。パスワードロックはかけてありません」
       「ああ、なるほど」
       「では、私達はこれで」
       「リース先生・・・」
       「何か」
       「整理整頓にはほど遠い状態だけれど、いいのですか」
       「私達にここの中身、解りますか」
       「いいえ」
       「素人は口出しするものではありませんよ、もう大学に戻りましょう。人材が必要なら声をかけて下さい。ボランティアスタッフを回します。では、これで」
      会釈して彼は去っていく。生徒達と何か話しているが、教授と呼ばれる彼の方が年若く見える。すらりとした背格好。生徒達より頭一つ低いが、それはかつての時代では背が高いと言ってもよい背格好だった。異形と言われた背中はまっすぐに、華奢だが普通の男に見えた。
       「では、作業開始します」
       「お願いします」
      指示をだし、ヘンリーは秘書と共に蔵書のチェックをするため、コンピュータールームに入り込んだ。コンピューターの扱いは苦手だ。さほど好奇心は強くない性格は考え物だな、と思う。何故、行動するのか、解らない。彼は何も言わない。

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