• うたかたの記INDEX
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    • うたかたの記~外伝2・不変の淑女~
    • ふと見る。コニーはやっと家に慣れてきた弟の姿を認めた。
       「何してんの」
      こんっとかるく頭をつつくと弟は笑ってコニーを見上げた。
       「高校の時って卒業パーティがあるんだって、そういう話してたの、マイクが」
       「あー最初の青春散らしたお話ね」
       「やっぱ有名なんだ、それ何」
       「ダンスパーティよ、私も出たわ。時間移民の彼氏がいたのよ」
       「義兄上でない人・・・」
       「そういうとこ、アンタって聡いわよね」
       「ごめんなさい、この年格好じゃ無理だし、そんな夜遅くじゃ無理なんだけどね、見てみたいなあって思って」
       「そっか。見かけがガキすぎるんだっけ」
      小さくて細い体つき。
       「昼間じゃないんだよね、卒業祝いって昼間は家族でする人が多いって聞いたし」
       「晩餐会や舞踏会、あったんでしょ」
       「あったけど・・・国王主催のはちょっとだけ」
       「ん」
       「正直に言うとお金がなかったんだ、兄上が使い過ぎちゃっていて、国庫が空っぽで・・・アンの晩餐会用のドレスの仕立代も待ってもらったこと何回もあったし」
       「あらやだ」
       「それに戦は傭兵部隊がいるからね、そのお金も必要だったし・・・」
       「・・・そらまた」
       「お金の苦労ばっかしてたし、なのに反乱起きるし、退位したいって言っても誰もいないし・・・子どもは・・・アンには黙っていたけど十歳になれるかどうか解らないって医者に言われてたんだ」
       「・・・リチャード」
       「僕もアンも弱かったから、きっとそれが・・・よくなかったんだよ、おまけに親戚同士だし」
       「ここの法律だと結婚は出来ない・・・ご両親も怪しいわねー」
       「だからジョージはこっちの世界の人と結婚したんだよ・・・姉様のその人って僕たちよりも前の・・・」
       「一世紀前の人だったわよ」
       「ふうん・・・騎士だったの」
       「ビーチャム家の人間だって。ウォーリック伯の称号を持っていて、主君は黒太子のエドワードだって言ってたわ」
       「へえ・・・会ってみたかったな、有名な黒太子の部下だなんて・・・」
       「テロリストに殺されたわ」
      コニーの一言に目を見張る。
       「あの先のホール知ってるでしょ」
       「あの一番大きいホールのことかな」
       「西の隅に青いドレスの女性と赤ん坊の絵があるのよね」
       「姉様、それって聖母子像じゃない」
       「ああ、そうなの、まーその絵のそばの壁で壁のシミしてたのよ、その卒業パーティで」
       「壁のシミ」
       「花ってタイプだと思うかしら」
       「そこはコメント控えさせていただきます、姉様」
       「ブルーのサリーを着てつまんなさそうにつったっていたら、トマスがやってきたの、ちゃんとしたスーツを着てね」
       「スーツねえ」
       「いきなり跪いて手にキスして申し込んできたわ」
       「へ」
       「ダンスと・・・結婚を前提に交際をして欲しいって」
       「跪いて、ね」
       「貴婦人に接するように跪いて、手にキスをして・・・リース家のご令嬢、フランチェスカ・コンスタンス殿に申し上げる、どうぞ私とこのよき日の舞踏をいたしたく、同道を許すと告げてくだされたい・・・」
       「・・・正式だね」
       「それから今一つ、願い事があります、レディ」
       「あー・・・すごいや」
       「結婚を前提に交際を申し入れしたい。ご返事を」
       「姉様、なんて応えたの」
       「つい、はい、喜んでって言っちゃったら・・・すんごい勢いで飛び上がって喜んでいたわよ・・・」
       「結婚したの・・・」
       「したわよ、私の下半身はね、作り変えたものなの・・・テロリストに襲われた時、駄目になっちゃったからね・・・あの人の子どもも一緒に」
       「・・・うそ」
       「マザーボードシステムも使えないほどぼろぼろになったの。オードリーとトレーシーはその後、再婚して生まれた子よ」
       「ごめんなさい」
       「何謝っているの、いつか話すつもりでいたのよ、深く考えることはないわ。それに昔の事よ」
       「姉様って強いな」
       「弱いわよ」
      コニーはそう言って笑っていた。
       「強さって一体何なのかしらね」
       「それってよくわかんないな・・・卒業パーティだってこの身体じゃきっとダンスなんて出来ないんだろうし、彼女も作れないんだよねー、きっと」
       「それでも見たかったの・・・」
       「うん。みんな楽しそうに振られた話していたんだ・・・」
      この弟はそれをきっと経験することはないだろう。青春の一ページさえ味わえない。けれど、それは彼には大した事ではない。
       「昔のダンスならまだ覚えているよ、ステップ、簡単なんだけど・・・また足腰良くないから見せられないけど」
       「覚えているの・・・」
       「女性のも、男性のも覚えているよ、ちょっと見るとバレエみたいな感じになるけどね」
       「踊れたの」
       「うん、下手だったけどね」
      槍の試合とかも下手だったんだよ、剣もよくなかった、と弟は苦笑していた。
       「力が弱かったから持っていられなかったんだ・・・」
      それなのに戦場に出て・・・かつての世界では死んだ事になっている。
       「それは解るわ・・・過酷なものね・・・こんなやせっぽちに武芸なんて無茶だわ」
       「やはりそう思うんだ」
       「子どもの死亡率高い時代に馬鹿な事するもんじゃないわよ」
       「うん・・・よく熱出していたよ」
      ここでは何もしなくてもいいんだね、勉強したければしていいし、武芸はやらなくていいのは、本当に楽だ、と笑った。
       「私は身体動かすの好きよ、あれ、あの子・・・アダムスとやらかしちやった子だわ」
       「え、あれ、甥の・・・」
       「エドワード君」
       「うん」
       「停学処分告げなきゃならないんだけど・・・あーリヴァーズ教授に連絡しなきゃ・・・めんどくさっ、なんであんな乱暴者とやらかすのよ、まったく」
       「・・・姉様、ちょっとアレ」
      どう見ても殴り合い一歩手前の、いや、もう手を出していた様に見える。
       「ん・・・まーったくっ」
      ばっとコニーが飛び出し、アダムスに回し蹴りを決めた。
       「あんた、今度やったら病院送りと警察に送るって言ったでしょ、なにやってんのよ」
       「げっ・・・」
      アダムスが呻いている。
       「エドワード君、アンタも喧嘩両成敗って事で二週間停学。提出物があるなら三日以内に。その三日後から十四日間、大学敷地内に足を踏み入れたら無期限の停学だからね、いいわね」
       「はい、アルデモード先生」
       「アダムス、あんたは無期限よ、行きなさい」
      アダムスはそばにいた友人に抱えられ、去っていった。
       「ちょいまち、エドワード君」
       「あ、はーい」
       「リヴァース先生にちゃんと報告しなさいよ、怠ったら一ヶ月に延ばすわよ」
       「はい・・・すみません、マダム」
       「よろしい。あーすんだらリースの家によって。おかあちゃんがクッキーあげるって言ってたわよ」
      ウィンク一つしてコニーが告げた。
       「ラッキー」
       「お説教つくけどね、叔父上様とうちのママとのダブルパンチ」
       「・・・それがあったか」
       「それでもクッキー欲しいんでしょ」
       「うん」
       「・・・リチャード、アンタの一族って」
       「こんなんばっかじゃないもんっ」
       「そう思いたいわ」
      叔父上、見てたのですかっ、とエドワードが騒ぐが・・・。


       「こら、もうもたないなら、参加すんなっ、なにやってんのよっ」
      マットに座り込んだ弟にコニーは怒鳴った。
       「ごめん、もうちょっと大丈夫だと思ったんだけどねー・・・」
      コニーが主催するマーシャルアーツのクラブ。まだ少年の体型の弟。マットに座り込んで、笑った。
       「解ってるなら、もうちょっと注意しなって。あたしに抱えられて帰りたい訳ないわよね」
       「それは、もちろん、姉様いやでございます・・・」
       「だよねーでも、フランシーくんが来なかったら諦めてね」
       「いやーーーん」
      あははは、とコニーが高笑いする。クラブのメンバーが別れの挨拶を交わして出ていった。もう時間は過ぎた。
       「アレは持っているの」
       「通信機・・・あ。忘れちゃった、部屋に」
       「どこの」
       「うちの・・・僕の・・・」
       「時々やらかしてくれるわよね、あんたは」
       「うん」
      落ち込んで膝を抱える。
       「だっことおんぶ、どっちがいい」
       「どっちもやだ」
       「贅沢言うんじゃないわよ、やらかした癖に」
       「強いて言うなら」
       「御姫様だっこ」
       「もんのすっごくやだっ」←二倍角希望。
       「だよね・・・」
      くすくすコニーは笑っていた。
       「風呂場まではなんとか動けるわよね」
       「うん」
      クラブ内の風呂場はジャグジーやさまざまな薬湯を完備されたものだ。そこに入り込み、汗を流し、身体をほぐすために薬湯に浸かる。コニーがやってきた。
       「姉様」
       「身体がほぐれたら、あの診療台ににね、マッサージしてあげるわ」
      彼女はそういう事にも長けている。
       「何」
       「時々アンタって羞恥心、どっかに落っことしているわよね」
      下半身を指し示すと慌てて隠した。
       「あははは」
       「笑い事じゃないわよ、まったく。またフランシーくんに怒られるわよ」
       「そうだね」
      水音が軽く立つ。浅い風呂にうつぶせになり、浴場の縁に顔を乗せ、鼻歌を歌う弟の背中はコニーよりもほっそりとしていた。
       「気持ちよさそうね、マッサージしたら歩けるんじゃないの」
       「わかんないよ、今日は無茶しちゃったもん、姉様の見てない隙に」
       「沈めたろか、この馬鹿」
       「やーだーよー」
      笑う。コニーが後を向くと浴場から上がり、タオルで身体を拭い、診察台へ向かった。診察台にはタオル地のシーツが敷いてあり、頭部を乗せる部分には穴が開いている。
       「うつぶせかな」
       「とりあえずはね」
       「解った」
      横になるとコニーはマッサージを始めた。その技法は見知らぬもので、リチャードは聞いてみた。
       「どこの、なの」
       「東洋のよ。針とかお灸とか・・・そういうのは聞いた事あるでしょ、本当ならね」
       「うん」
       「古代ヨーロッパにも伝承があったはずなのよ、中世から来た人には信じられないかも知れないけど・・・そういう経験からくる伝承医学やまじないや薬草の事・・・みんな魔女狩りで根絶させたのはね、キリスト教の押しつけからくるものなのよ、知っていたかしら」
       「ああ、レイモンに聞いたことある」
       「根絶というか・・・虐殺に近いわね、法王庁や修道士は・・・新世界の原住民やアジアの人々にとっては悪魔にしか見えなかったでしょうね・・・」
       「そんなに」
       「やらかしていたわねえ、インカ帝国も中国の帝國もみんなそれで滅んだようなものよ、インドの帝國も・・・島国だったことで日本くらいしか独立を保てなかったのよねえ」
       「レイモンはそれを知っていたから、信じないって訳じゃない」
       「神様はどこにでもいるわよ」
       「姉様も、そうなんだ」
       「はい、仰向け」
       「なんで」
       「脚よ、そっちがあるでしょ」
       「うん・・・」
       「アンタ、下着」
       「つけてません」
       「馬鹿っ、おさえてなさいよ」
       「はーい」
      丹念にもみほぐし、コニーは仕上げに保湿オイルを塗ってくれた。
       「姉様、今日はうちにくるの」
       「ウィリー泊まりがけの出張だしね、子ども達はカレッジの寮だもの、着替えなさいよ、終わったら、また来るわ、御姫様だっこしてあげるから」
       「姉様っ」
      コニーに背負われて帰宅すると案の定、両親に叱られた。ふと見ると甥のエドワードがいた。その隣にはそれより二〜三歳若い青年がいた。
       「あれ・・・もしかして、ソルズベリィの」
       「叔父様、噂通りにちっちゃい」
       「やっぱりそう来るよね・・・でも、君は確か・・・」
       「イタリアにいたのはまた別の父上の隠し子で、私はイーストウェルですから」
       「ああ、そっか・・・アレ、私の庶子が一人どこいっちゃったんだろう・・・」
       「それなら家系続いているんじゃないの、何かヨークシャーにあるらしいけど、不明だって」
      コニーが言う。
       「まーそーだろねー、粉屋の親方になっちゃっただろーし」
       「アンタ、王族よね」
       「三人子ども作った人は粉屋の娘だったよ」
       「ま、いいわ、でー・・・甥っ子って・・・噂のロンドン塔の」
       「そー噂のロンドン塔の。実はほとんどロンドン塔にいたことございませんな、甥だけどね」
       「へ」
       「北部の城に送って、バッキンガムの反乱の時、どさくさに紛らわせてポルトガルに渡らせて・・・その後、わかんなくなっちゃった・・・えへ」
       「・・・えへってアンタ」
       「本気で知らないんだよ、アンが死んで、その後、戦争あって・・・戦死だから、全然わかんない」
       「関わっていられなかったってわけ」
       「大陸に渡ってれば安全は確保出来たわけだから、そこは目をつぶった。他の甥たちは実はその諦めた」
       「え」
       「ネッドが生きていれば何とかなったかも。でも・・・私じゃ駄目だからね、仕方ない。歴史の歯車は逆回転などしてくれない・・・すれば滅びるだけ。そんなん知ってたもん」
       「叔父上」
       「義姉上はどう思ったかしら」
      苦笑して言う幼い顔にコニーは溜息をついた。
       「食事していくわよね」
      ジゼルが言う。エドワードがあからさまに喜んでいる。
       「胃袋で気にいるなんてねー」
       「叔父上―、自分で一人で作るのってそりゃもー」
       「何、弟と暮らしてないんだ」
       「僕は別の養父母がいますから」
      ヨーク公と呼ばれた少年がそう言った。
       「特殊ケースらしいんですよ、叔父上、イーストウェルのリチャードって・・・」
       「イングランドに戻ってきてたって事」
       「パーキンウォーベックとかあったでしょ、アレと入れ替わったりしてねー」
       「なんで・・・」
       「姉上が」
       「あーあー、エリザベス、それなら納得だ」
       「・・・そこで叔父上納得って」
       「いや、あれがそうそう大人しいわけないじゃん」
       「そこも納得出来るって・・・何なんだろう・・・」
       「いいじゃないの、支度出来たわよ、パン足りるかしらね」
       「駄目ならパンケーキ焼かせてやれば、確かそれならミックスあるんじゃなかったっけ」
      リチャードの言葉にジゼルが笑った。
       「プレートださなきゃ。フランツ、お願いね」
       「解った」
      コニーが手伝って料理が並ぶ。大人にはフランツのワイン。やはり、パンが足らなくなってパンケーキを焼いて食べることにした。
       「姉様、お泊まりだっけ」
       「そうよ、アンタはさっさとベッドに放り込める格好になってなさいよ、またそこで、ソレ、見たいんでしょ」
      指し示したのは大判の図録。エドワードとその弟が驚いて視線を送る。
       「写真集よ、北極圏の。レイモンド博士が誕生日プレゼントにあの子に送ったものよ」
      コニーの説明に二人は中身が見たい、と思ったが、何も言わなかった。スエットの上下に着替え、着物を一枚、肩にかけてリチャードが戻って来た。赤い鮮やかな着物だった。
       「見たいのなら見ていいよ、ソレ」
      図録を広げるとオーロラの写真から始まって北の大地に生きた動物たちが写真に撮られていた。
       「白いクマに大きな角の鹿、この魚は何・・・それに雪、山・・・このカーテンは」
       「オーロラって言う光だよ」
       「へーすごい」
      最後に写真家の笑顔の写真。
       「この人、動物に襲われて亡くなったんだって」
       「動物に」
       「レイモンが言ってた、動物も飯を食う、人間って雑食だからヒグマにとっては美味らしいよ」
       「怖いこといわんといて、叔父上」
       「一番偉いのは人間じゃないよ、多分。人間は地球にとって一番邪魔な生き物の可能性高いって。汚すし壊すし、たいした理由じゃないのに殺し合いするし・・・だますし・・・」
       「叔父上」
       「動物たちは無駄な殺生はしないものね、必要最小限にとどめるんだって。人間だけだよ、仲間でも分け合っていれば生きていけるのに、独り占めしたりして殺し合いするの、面白い話があるんだよ、東洋の箸って知っているよね、天国と地獄では同じ箸がおいてあるんだって。それはとても長い箸で、地獄の人間は自分の口に食べ物を入れようとしてもがいて飢えるけれど、天国の人間はその箸で真向かいに座る人に食事をあげて、そして自分も真向かいの人からもらってみんなで「おいしいですね」って言い合うんだって。同じ品物があるのに分け合うことを知らない心の貧しい人間は飢えていき、分け合うことを知っている人達は毎日幸せでいられるって面白いよね。でもこの天国と地獄は・・・キリスト教のじゃないんだよ」
       「叔父上」
       「仏教のなんだよ」
       「それ」
       「どの宗教でもそうであって欲しいけど、どうなんだろう」
      敬虔なクリスチャンだったと聞いている。祈祷書を手にいつも祈っていたと。その人が。
       「国王として限界だと解った時・・・全て放り出してしまったから祈る資格も教会の敷地に埋葬される資格もなくした・・・だからこの世界でも二度と祈祷書を手にはしないし、祈りの言葉はもう口にはしない」
       「でも」
       「レイモンが言ったの、神様はどこにでもいるもんだ、ってね」
      その写真にも、遠い雪山にも、このコロニーにも、小さな子ども達の魂にも。神様はどこにでもいると。
       「その場合は仏というものかも知れないけど」
      タブレットに詩を映し出し、朗読する。それをエドワードは不思議な面持ちで聞いた。この小さな人を父は殺そうとしたという。最愛の弟を手折ろうとして傷つき、姿を消した。父から受けた傷をこの人はどう思うのか、解らない。答えが見つからないからこそリース家の人達は受け入れてくれたのか、それも解らない。淡々と読まれる詩は不思議なもので、キリスト教圏の人間の筆ではないと言う。遠い東洋の人。穏やかな静かな声、印象的な笑顔。平凡な一生であって欲しかった、と今更思う。が、それすらも・・・彼は受け入れるのだろう。

      わたくしといふ現象は
      仮定された有機交流電燈の
      ひとつの青い照明です
      (あらゆる透明な幽霊の複合体)
      風景やみんなといつしよに
      せはしくせはしく明滅しながら
      いかにもたしかにともりつづける
      因果交流電燈の
      ひとつの青い照明です
      (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

      これらは二十二箇月の
      過去とかんずる方角から
      紙と鉱質インクをつらね
      (すべてわたくしと明滅し
       みんなが同時に感ずるもの)
      ここまでたもちつゞけられた
      かげとひかりのひとくさりづつ
      そのとほりの心象スケツチです

           大正十三年一月廿日(一九二四年一月二十日)・宮沢賢治・春と修羅・序より

      そのうち、みんながまだいるのに、居間のソファに腰掛けたまま、眠ってしまったリチャードをコニーは溜息をついて眺めていた。
       「ほら、やっちゃった。クラブに来ていたんだけど、限界越えていたし」
       「またかよー・・・まったく懲りない子だ」
      フランツが抱き上げて寝室に連れ去っていく。
       「コニー」
      アルデモード教授から名前に変えて、エドワードが呼んだ。
       「叔父上って・・・本当は」
       「身体の弱い人よ、ほんとはね。国王なんて無理だったわよ」
       「そうですか」
      複雑な思い抱えてエドワードとその弟は帰っていった。
       「兄上」
       「ん」
       「僕の名前、やっぱり叔父上からなんですね」
       「そうだと思うよ」
      コニーはそんな会話を聞いて、微笑んでいた。


       「姉様」
       「何よ」
       「父様達、どこ行ったの」
       「市場よ」
       「今日の朝食姉様なんだ」
       「何よ」
       「まともなの出て来るのかな、オードリーが写メールですんごいの送ってきたけど」
       「出来てるわよ」
      恐る恐る見てみると、一見まともに見えた。食べてみた。味もまともだった。
       「これって」
       「奇跡の一皿ってわけよ、感謝しなさーい」
       「そーする」
      もう一口。スクランブルドエッグはめずらしく成功していたらしい。写メールでオードリーに送ったら、待受にしたという。  


                                                                   終

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