「その格好で、指輪いじってんじゃねえよ」
ジョーががっくりとそう言う。大学構内で構内のメインストリートの中にある石像の横にある石にちょこんと座ったまま、彼は小指にはめた印章指輪をいじっている。十五世紀貴族の扮装のまま。
「勲章ないからいいじゃん」
「よかねーわ」
ナショナルギャラリーにあったという国王の肖像そのままに見える。かなり若いが。
「まだ、印象悪いの、私は」
「どーだかね」
「約束の本、手に入ったよ。レイモンがやはり持っていた」
その国王の肖像よりは若い。彼の実際の年齢はいくつになるのか、本人もよく解っていない。移民寸前の年齢、死亡年齢は三十二歳だったが、抱えていた病治療のため、身体全体を作り直すという荒療治のおかげで、若い姿でいる。助教授試験を受けて通知待ちだと聞いていた。
「中尊寺金色堂発掘調査並びに解体修理記録」
そう本のタイトルを口にする。
「これが日本の黄金伝説の元か」
「金色堂はね、お墓なんだよ」
「え」
「奥州・藤原氏という一族の霊廟、お墓なんだよ」
「お墓・・・」
「この仏像が並ぶこの下にね、四代の遺体が納められている。正確には最後の四代目は首だけ、だけどね」
「首だけ」
「地方の王だね、言うなれば。大逆罪で処刑された首を父親の棺に納めて埋葬してあげたんだってさ。弔う人誰もいなくなった後に」
「何故、そんな」
「レイモンが言ってた、死人まで辱める西洋の考え方こそ野蛮なんだって。東洋は・・・大逆罪で王子に討たれ、その父親もまた自害して果てても埋葬の儀礼は古代からきちんと行われてきた歴史があるんだってさ、面白いよね」
「へえ」
「六四五年の政変のことだって。悪人と言われても、蘇我入鹿はその後、ちゃんと価値認められているし、その名字は伝統芸能の世界では特別に扱われている・・・面白いなあと思ってさ」
「それ気になるんだ」
「リチャード三世の遺体の扱い、見てみれば」
「悪趣味だって・・・そっか・・・」
「レイモンが言ってた、ユダヤ人大量虐殺の時もざまあみろって言う人いたのかも知れないって。それ人間としてどうなのかな」
「それがきっかけなわけ」
「どこが違うんだろうと思って・・・それからだよ、あれ・・・」
跪いている人物に気付く。
「ラトクリフ・・・ここではその儀礼はなしだ。まだ慣れていないのか」
「陛下」
「あそこは十年封鎖のはずだ・・・ジョー、何かあったのか」
そう言った途端、緊急サイレンが鳴り響いた。
「ニュースサイト開け、緊急ニュースだ」
ジョーが言い出す。タブレットを操作する。
「レイダーコロニー、爆発炎上中・・・このナンバーはジョニーの・・・」
そのコロニーはこの学園都市のあるコロニーと直結していた。避難民が直接やってくることは間違いない。 「な・・・」
緊急放送が構内で響き渡る。
「医学関係者大至急、メディカルセンターに集合せよ、レイダーコロニーより避難民を受け入れた、大至急集合せよ」
「ラトクリフ、挨拶は後だ、母様、出動したの、姉様」
通信機片手にそう聞いた。
「したわよ、リチャード」
通信機から聞こえる姉の声
「解った、難民キャンプ開設手続きを副学長に連絡を。学長はどこにいる、教室のアキはどのくらいあるか、解る、姉様」
「副学長でないと解らないわ、緊急グッズの倉庫、解錠お願いね」
その言葉を聞いて一端、通信を切った。
「解った、ジョー、走れ。難民か来る、ラトクリフ、手伝え」
「はっ、陛下」
「・・・それは、まっいいや、行くぞ」
走り出す。ジョーは借りた図録を鞄にしまい、肩にかけた。学生が走り込んできた。
「リース先生、第二倉庫もお願いします」
「解錠済みだ、秩序を乱さないよう、警備を頼む。女性・子ども・老人を優先しろ」
「了解、軽症の怪我人は学生達が当たっています」
「それでいい。食糧の備蓄は」
「三日間ならなんとか。難民の数が把握出来ません」
「ジョージは、兄上はどこっ・・・」
「コロニーです、爆発した・・・」
よろめいたが堪える。
「連絡取れました、生存確認しました、怪我の状態は不明です・・・」
通信を受け持っていた学生が告げる。
「そう・・・意識は」
「どうだか・・・」
「・・・学長は何て・・・」
「被災してます・・・あちらに出張で・・・」
「そうか・・・仕方ない、学長の代理として他に動ける教授は」
「ペルシャ語教授のヤンソン先生が」
「彼に代理を頼んで・・・私はこれまでだ・・・」
「リース講師・・・」
「これ以上は出来ない・・・多分」
ジョーはまだ動いていた。
「学長室に。リース講師」
「解ってる・・・今、詰める・・・」
学長室のモニター前。
「学長の生存は絶望視された。副学長は片腕切断」
ヤンソンの言葉に息を吐く。
「ヤンソン先生」
「大学は臨時休校とします。リースくん、あなたもこのまま詰めて下さい」
「着替えは・・・いっか、研究室にあるトレーナーで、この格好では碌な動きが取れない」
「自宅に帰れるのははいつになりますかね」
「考えたくないですね、母も姉もきっと・・・」
ラトクリフはさっきから小間使いの様な事をしていた。
「陛下」
「めんどくせーなー、こういうときにー・・・まっいいか、ヤンソン先生、笑い止んで下さいよ」
「すまん。第三ノースコルコロニーも避難民受付開始した。ここは学園都市だ、学生達はどうしている」
第三ノースは反対側に直結していたはず。
「医学関係の生徒達はメディカルセンターへ向かっているはずです。ボランティアスタッフとして史学科、文学科の生徒達は活動開始してますよ」
「そうか」
ジョージが学長室に入ってきた。
「痛み止めが切れます、副学長」
看護士がそう言う。ジョージに付き添って来たらしい。
「構うか、リチャード、状況を報告しろ、どうなった、学長は無事か」
「学長は・・・」
首を横に振った。
「そうか、なら」
「副学長っ、無茶はやめてくださいっ」
片手を吊っている。
「機械の手をつけてきた。大丈夫だ」
「貧血状態が収まっていませんっ、自重してくださいっ」
看護士が叫んだ。ジョージはソファに横になった。
「代わりに動く、指示だして、ジョージ」
リチャードが言った。
「解った、学生達に連絡、二週間休校とする。教授全員を会議室に招集、ボランティアスタッフは難民を受け入れた施設に訓練通りに配置」
その指示にリチャードは通信機器のスイッチを入れ、マイクに向かった。
「全校に命令する、副学長代理のリースだ、これよりこの大学は二週間休校とする。ボランティアスタッフは訓練通りに配置につけ。医療スタッフとして予備役を大至急、招集せよ、防災備蓄品の倉庫は全て解錠済みだ、スタッフ、配布開始、教授の皆さん、会議室まで集合願います。講師・助教授はボランティア指導と構内警備に当たって下さい、以上」
そして、事務机の前に行く。モニターの中、レイダーコロニーが直結していた各コロニーから切断され、そのまま、そばの惑星の重力に吸い込まれていく様が見えた。
「コロニーが落ちた・・・」
絶望視された人達を乗せたまま、落ちていく。最後の脱出カプセルに搭乗しているのは何人いるのだろうか。後ろでジョージの呻き声が聞こえた。
「リチャード」
「何」
「痛み止め、切れた、次の投与まで、後頼む」
「・・・無理だと思うけど」
「俺はただの公爵だった、おまえいちおー国王やってたんだろ」
「失敗してるんだけどなあ」
「つべこべ言うな、やれ、いいな」
「ここで「つべこべ」と言ったら怒るよね、ジョージ」
「元気になったら機械のお手々でひっぱたくぞ、阿呆」
「・・・うん、やってみる」
ジョージはそこで脂汗を浮かべ、苦痛に耐える顔を初めて見せた。
「ごめん、誠意はつくす」
「おまえならやれるよ、リチャード」
「・・・うん」
モニターをにらみ、構内の様子を見る。
「教授達、会議室に集まりました、陛下」
「めんどくさいの、つかいっぱにしちゃったなあ」
頭を抱えるが。
「何か」
「いや、いいんだけどね・・・会議室に行って来ます、ヤンソン先生、頼みます」
「ああ、解ってる」
ヤンソンがそう言って微笑んで、片手をあげた。
「様子は、全員集まっているのかな」
「そう聞いてます」
「リヴァーズ伯爵は」
「いませんでしたよ」
「・・・予定は・・・学長と・・・ごめん、ラトクリフ、先に行っていてくれ」
タブレットを取り出し、甥達に呼びかける。
「叔父上」
二人がタブレットより早く、目の前にいた。
「リヴァーズ伯は・・・あのコロニーか」
「はい・・・」
「そうか・・・他の子達は」
「ああ、食糧配布スタッフとして文学科のF棟にいます」
「・・・そう。君たちは」
「スタッフからリース講師の元で動くようにと指示が」
「スタッフ・・・」
「コニー教授ですよ、生活指導の」
「ああ、そう・・・解った、ジョージが副学長が片腕切断の重症なんだ、手伝って」
「はい」
「あれ・・・」
「挨拶は後だ、ラトクリフ」
「はい、陛下」
「・・・どうしようか」
「ラトクリフ殿にはちゃんと説明を。そうでないとややこしくなりますよ、叔父上」
「みたいね・・・、まあ、ちょっとこっちへ」
ラトクリフに大体の説明をする。
「とにかく、陛下って呼ぶなよ、いいなっ」
「はい、陛下」
「駄目じゃん・・・」
エドワード五世の言であった。
「終息宣言出て良かったわね」
コニーとジゼルがそう言う。大学構内のカフェテリア。
「で、ソレ、何」
後ろにくっついてる貴人をさすコニー。
「ラトクリフっていうの・・・前の部下」
「・・・アンタ、イングランド国王だったものね、当時のイングランドの市民全部部下じゃん」
「姉様・・・ソレ言わんといて」
「何、とほほになってんのよ」
「だって、この人、来てもう一ヶ月になるのに、ずっと「陛下」って呼ぶんだもん」
「・・・アンタ、やっぱヘタレね」
「なんとか言ってよ」
「無理と違う?」
「姉様」
「呼ばせておけば」
「・・・やだ」
「無理だと思うわよ」
がははは、とコニーは笑った。ジゼルも笑っていた。解っていないラトクリフは首をかしげるだけだった。 「陛下、このご婦人方は・・・」
「母と姉。私はリース家の養子なのでね」
「は・・・」
「説明すんの、めんどいんだよ、もう」
「移民管理センター・・・あー閉鎖中で駄目か。面倒見てやんなさいよ、リチャード」
「姉様」
「緊急事態なの、解っているわよね、へ・い・か」
「区切って呼ばないで、怖いっ」
「予想外って事ね、まあおもしろい事」
ジゼルが微笑んだ。
「母様まで」
「まあ、がんばりなさいな」
「いっくら説明しても、陛下(ヒズグレース)だよ、勘弁してよ」
「・・・一般市民だって言い張ったんでしょ、それでいいじゃないの」
「とりあえず、移民管理センターがオープンするまで我慢すっか」
「・・・いっちょまえに助手つけんの、まだ助教授試験パスしてない癖に」
「しょーがないじゃん」
ラトクリフはまだ首をかしげていた。
「落ちる予感してきた・・・」
「アンタのそういう予感外れないわよね」
「あー六ヶ月間どうしよう・・・」
講師の給料じゃ・・・とラトクリフを見る。
「まっいいか、仕方ない。なんとかしよ・・・」
「足りるの、家計」
「多分無理。資料代で大方飛んでるもん、今月も赤字だよー、もーどうしよう・・・」
「・・・資料代って」
「助教授試験の。また揃え直しで定期貯金崩さなきゃ、光熱費が」
「・・・アンタ何やってんのよ・・・」
「レイモン博士にね、借金したのだって半分しか返してない・・・」
「さっさと受かって下さい、教授試験」
「無理・・・」
「だよね」
「・・・レイモンの家、借家にしてリース家にもどろーかな」
「資料はどーすんの」
「大学の研究室がある」
「アレは」
指し示すのはラトクリフ。
「マッケンジーさんのアパートに押し込むしかない、学生寮で、幽霊が出るって噂の部屋」
「ちょっと気の毒だけど、それがいいわね、試験受かるまでは戻ってらっしゃい、あんな広い家、一人じゃ無理よ」
ジゼルの一言。
「・・・夕飯の支度しなくてすむかな」
「食事当番制とるわよ、リチャード」
「あ、やっぱり」
ところが。助教授試験はパスしていたため、彼の家計簿はなんとかなった。ラトクリフの事を除けば。
「いいご家族ですね、陛下」
「おまえ、飯で気に入ったんだろ」
図星のラトクリフは絶句していたのであった。
「・・幽霊、出るの、部屋」
「二階の騒音がまんまくるだけです。あと玄関チャイムのモニターが暴走することがあるだけで」
「なんだ、つまらないの」
「え」
「いや、何でもない」
よく電化製品が壊れるので、家賃がめちゃくちゃ安い部屋だと言うことは暫くリチャードは黙っていた。
「陛下・・・」
「気にするな」
「無理だと思うよ」
「あーレイモンド博士、出張」
そう声をかけるとラトクリフは驚いていた。ラヴェル子爵そっくりなのだから。
「呼び出されたの、例のコロニー爆発事故の」
「あー医療スタッフしてたんだ」
「そーゆーこと。ジョニーのね、遺体確認した」
「・・・そっか・・・もう一人のフランシーは」
「詰めてるよ、メディカルセンター」
「今頃はさぞや見事なボロ雑巾」
「そーゆーこと。おいらはやっと手隙になったんで、忘れてた患者の診察に来たってわけよ」
「あー・・・でーあの、移民局は」
「あー十年閉鎖じゃなくて済んだんよ、ボズワース。でも、助かったのは・・・あそこからの移民はアンタとそのラトクリフさんだけ」
「それって」
「戦没移民計画に入ってた。けどその当局のコロニーが・・・ああいう状態でね、解るかな」
「そ、そう・・・移民できるとは思ってなかったから・・・」
動揺して、声が震える。
「でも、アンタの部下、大半駄目にしちゃった・・・」
まるで自分がミスしたみたいにレイモンドは言う。この世代の代表であるかの様に。
「コロニー、何が起きたんだ、一体」
「ヒューマンエラーだよ、大した事のない爆発事故が人災ででかくなっちまったんだ」
「ヒューマンエラー」
「人間は間違う動物って事だよ」
「・・・それってつまりはこの学園都市のコロニーでも起きうるって事だね、博士」
「つまりはそういうことだね」
「我、間違える故に我有り、か」
「また珍妙なもの見つけたな」
「・・・囲碁の本だったけどね」
「でーどーよ、助教授試験」
「二度目でやっとパス。譲られた家、借家にして実家に戻ってなんとかしてるとこ」
「あー・・・なんでまた」
「資料が・・・」
「解るけど・・・」
「それに、アレ」
ラトクリフを指し示す。
「・・・従者やめてくんないの」
ぶわはははっとレイモンド博士は爆笑していた。
「そらお気の毒様」
「何も必要ないって言ってるのにさー」
「ま、アンタもがんばってね」
ラトクリフにそう告げるレイモンド博士にリチャードは溜息をついた。レイモンド博士の忘れていた患者とは当然、リチャードの事だった。
「・・・ほんとにフランシーじゃないんですね・・・」
「そんなに似てるかなあ・・・、あーそうそう、クラレンス副学長の事なんだけどさ、腕の・・・」
「無理だよ、アレでいいって言ってた」
「機械の義手じゃ・・・コピーで腕作り直せるんだよ」
「学長の事とか、助けられなかった人の事で落ち込んでるから・・・無理じゃないかな」
「そっか・・・ジョニーの事も気に病んでたしなー・・・」
「よく知らないけど・・・彼がミスしなかったらここにいなかった」
「・・・それ」
「感謝している・・・リースの家の事も・・・みんなね、兄上にも再会出来たし・・・まさか、こんな事」
「大丈夫、なんか疲れてないか」
「ジョージが安定するまで大学内の事、切り回してた、疲れた・・・」
「・・・そら前の主治医としてはちと気になりますなあ」
「見かけでは十八かな、多分・・・」
「どうするね」
「このままで。無理に大人にならなくてもいい」
「そっか・・・」
「もう少ししたら、将来の事も考えるよ、出来たらね」
カフェテリアへ行こうと言うことになって向かう。壁の片隅の落書きに気付く。
「見て、アレ、ジョニーの落書きじゃないかな」
「あーホントだ」
壁に書かれたサイン。
「最後まですっとこどっこいだったな、あいつ」
レイモンドが少しだけ、泣いていた。その肩にそっと触れるリチャード。
「雲に隠れても月は月・・・飛べなくても鳥は鳥」
「どうしたよ」
「リースの父が好きだって言ったんだ、この言葉」
「良かったじゃん」
「うん・・・」
ラトクリフは離れた席で二人を見ていた。
「あのさー、同席してくれないかなー、迷惑なんだけどー」
「陛下・・・私は」
「そばにいるなら同じテーブルについてくれ」
「はい、陛下」
「これ、なんとかなんないかしら」
ラトクリフを示して言うとレイモンドは苦笑して、首を振った。
「無理ですね」と。
おしまい
このタイトル、何故つけたのか、本人も解らない。誰か説明して・・・(^^)
ジョーががっくりとそう言う。大学構内で構内のメインストリートの中にある石像の横にある石にちょこんと座ったまま、彼は小指にはめた印章指輪をいじっている。十五世紀貴族の扮装のまま。
「勲章ないからいいじゃん」
「よかねーわ」
ナショナルギャラリーにあったという国王の肖像そのままに見える。かなり若いが。
「まだ、印象悪いの、私は」
「どーだかね」
「約束の本、手に入ったよ。レイモンがやはり持っていた」
その国王の肖像よりは若い。彼の実際の年齢はいくつになるのか、本人もよく解っていない。移民寸前の年齢、死亡年齢は三十二歳だったが、抱えていた病治療のため、身体全体を作り直すという荒療治のおかげで、若い姿でいる。助教授試験を受けて通知待ちだと聞いていた。
「中尊寺金色堂発掘調査並びに解体修理記録」
そう本のタイトルを口にする。
「これが日本の黄金伝説の元か」
「金色堂はね、お墓なんだよ」
「え」
「奥州・藤原氏という一族の霊廟、お墓なんだよ」
「お墓・・・」
「この仏像が並ぶこの下にね、四代の遺体が納められている。正確には最後の四代目は首だけ、だけどね」
「首だけ」
「地方の王だね、言うなれば。大逆罪で処刑された首を父親の棺に納めて埋葬してあげたんだってさ。弔う人誰もいなくなった後に」
「何故、そんな」
「レイモンが言ってた、死人まで辱める西洋の考え方こそ野蛮なんだって。東洋は・・・大逆罪で王子に討たれ、その父親もまた自害して果てても埋葬の儀礼は古代からきちんと行われてきた歴史があるんだってさ、面白いよね」
「へえ」
「六四五年の政変のことだって。悪人と言われても、蘇我入鹿はその後、ちゃんと価値認められているし、その名字は伝統芸能の世界では特別に扱われている・・・面白いなあと思ってさ」
「それ気になるんだ」
「リチャード三世の遺体の扱い、見てみれば」
「悪趣味だって・・・そっか・・・」
「レイモンが言ってた、ユダヤ人大量虐殺の時もざまあみろって言う人いたのかも知れないって。それ人間としてどうなのかな」
「それがきっかけなわけ」
「どこが違うんだろうと思って・・・それからだよ、あれ・・・」
跪いている人物に気付く。
「ラトクリフ・・・ここではその儀礼はなしだ。まだ慣れていないのか」
「陛下」
「あそこは十年封鎖のはずだ・・・ジョー、何かあったのか」
そう言った途端、緊急サイレンが鳴り響いた。
「ニュースサイト開け、緊急ニュースだ」
ジョーが言い出す。タブレットを操作する。
「レイダーコロニー、爆発炎上中・・・このナンバーはジョニーの・・・」
そのコロニーはこの学園都市のあるコロニーと直結していた。避難民が直接やってくることは間違いない。 「な・・・」
緊急放送が構内で響き渡る。
「医学関係者大至急、メディカルセンターに集合せよ、レイダーコロニーより避難民を受け入れた、大至急集合せよ」
「ラトクリフ、挨拶は後だ、母様、出動したの、姉様」
通信機片手にそう聞いた。
「したわよ、リチャード」
通信機から聞こえる姉の声
「解った、難民キャンプ開設手続きを副学長に連絡を。学長はどこにいる、教室のアキはどのくらいあるか、解る、姉様」
「副学長でないと解らないわ、緊急グッズの倉庫、解錠お願いね」
その言葉を聞いて一端、通信を切った。
「解った、ジョー、走れ。難民か来る、ラトクリフ、手伝え」
「はっ、陛下」
「・・・それは、まっいいや、行くぞ」
走り出す。ジョーは借りた図録を鞄にしまい、肩にかけた。学生が走り込んできた。
「リース先生、第二倉庫もお願いします」
「解錠済みだ、秩序を乱さないよう、警備を頼む。女性・子ども・老人を優先しろ」
「了解、軽症の怪我人は学生達が当たっています」
「それでいい。食糧の備蓄は」
「三日間ならなんとか。難民の数が把握出来ません」
「ジョージは、兄上はどこっ・・・」
「コロニーです、爆発した・・・」
よろめいたが堪える。
「連絡取れました、生存確認しました、怪我の状態は不明です・・・」
通信を受け持っていた学生が告げる。
「そう・・・意識は」
「どうだか・・・」
「・・・学長は何て・・・」
「被災してます・・・あちらに出張で・・・」
「そうか・・・仕方ない、学長の代理として他に動ける教授は」
「ペルシャ語教授のヤンソン先生が」
「彼に代理を頼んで・・・私はこれまでだ・・・」
「リース講師・・・」
「これ以上は出来ない・・・多分」
ジョーはまだ動いていた。
「学長室に。リース講師」
「解ってる・・・今、詰める・・・」
学長室のモニター前。
「学長の生存は絶望視された。副学長は片腕切断」
ヤンソンの言葉に息を吐く。
「ヤンソン先生」
「大学は臨時休校とします。リースくん、あなたもこのまま詰めて下さい」
「着替えは・・・いっか、研究室にあるトレーナーで、この格好では碌な動きが取れない」
「自宅に帰れるのははいつになりますかね」
「考えたくないですね、母も姉もきっと・・・」
ラトクリフはさっきから小間使いの様な事をしていた。
「陛下」
「めんどくせーなー、こういうときにー・・・まっいいか、ヤンソン先生、笑い止んで下さいよ」
「すまん。第三ノースコルコロニーも避難民受付開始した。ここは学園都市だ、学生達はどうしている」
第三ノースは反対側に直結していたはず。
「医学関係の生徒達はメディカルセンターへ向かっているはずです。ボランティアスタッフとして史学科、文学科の生徒達は活動開始してますよ」
「そうか」
ジョージが学長室に入ってきた。
「痛み止めが切れます、副学長」
看護士がそう言う。ジョージに付き添って来たらしい。
「構うか、リチャード、状況を報告しろ、どうなった、学長は無事か」
「学長は・・・」
首を横に振った。
「そうか、なら」
「副学長っ、無茶はやめてくださいっ」
片手を吊っている。
「機械の手をつけてきた。大丈夫だ」
「貧血状態が収まっていませんっ、自重してくださいっ」
看護士が叫んだ。ジョージはソファに横になった。
「代わりに動く、指示だして、ジョージ」
リチャードが言った。
「解った、学生達に連絡、二週間休校とする。教授全員を会議室に招集、ボランティアスタッフは難民を受け入れた施設に訓練通りに配置」
その指示にリチャードは通信機器のスイッチを入れ、マイクに向かった。
「全校に命令する、副学長代理のリースだ、これよりこの大学は二週間休校とする。ボランティアスタッフは訓練通りに配置につけ。医療スタッフとして予備役を大至急、招集せよ、防災備蓄品の倉庫は全て解錠済みだ、スタッフ、配布開始、教授の皆さん、会議室まで集合願います。講師・助教授はボランティア指導と構内警備に当たって下さい、以上」
そして、事務机の前に行く。モニターの中、レイダーコロニーが直結していた各コロニーから切断され、そのまま、そばの惑星の重力に吸い込まれていく様が見えた。
「コロニーが落ちた・・・」
絶望視された人達を乗せたまま、落ちていく。最後の脱出カプセルに搭乗しているのは何人いるのだろうか。後ろでジョージの呻き声が聞こえた。
「リチャード」
「何」
「痛み止め、切れた、次の投与まで、後頼む」
「・・・無理だと思うけど」
「俺はただの公爵だった、おまえいちおー国王やってたんだろ」
「失敗してるんだけどなあ」
「つべこべ言うな、やれ、いいな」
「ここで「つべこべ」と言ったら怒るよね、ジョージ」
「元気になったら機械のお手々でひっぱたくぞ、阿呆」
「・・・うん、やってみる」
ジョージはそこで脂汗を浮かべ、苦痛に耐える顔を初めて見せた。
「ごめん、誠意はつくす」
「おまえならやれるよ、リチャード」
「・・・うん」
モニターをにらみ、構内の様子を見る。
「教授達、会議室に集まりました、陛下」
「めんどくさいの、つかいっぱにしちゃったなあ」
頭を抱えるが。
「何か」
「いや、いいんだけどね・・・会議室に行って来ます、ヤンソン先生、頼みます」
「ああ、解ってる」
ヤンソンがそう言って微笑んで、片手をあげた。
「様子は、全員集まっているのかな」
「そう聞いてます」
「リヴァーズ伯爵は」
「いませんでしたよ」
「・・・予定は・・・学長と・・・ごめん、ラトクリフ、先に行っていてくれ」
タブレットを取り出し、甥達に呼びかける。
「叔父上」
二人がタブレットより早く、目の前にいた。
「リヴァーズ伯は・・・あのコロニーか」
「はい・・・」
「そうか・・・他の子達は」
「ああ、食糧配布スタッフとして文学科のF棟にいます」
「・・・そう。君たちは」
「スタッフからリース講師の元で動くようにと指示が」
「スタッフ・・・」
「コニー教授ですよ、生活指導の」
「ああ、そう・・・解った、ジョージが副学長が片腕切断の重症なんだ、手伝って」
「はい」
「あれ・・・」
「挨拶は後だ、ラトクリフ」
「はい、陛下」
「・・・どうしようか」
「ラトクリフ殿にはちゃんと説明を。そうでないとややこしくなりますよ、叔父上」
「みたいね・・・、まあ、ちょっとこっちへ」
ラトクリフに大体の説明をする。
「とにかく、陛下って呼ぶなよ、いいなっ」
「はい、陛下」
「駄目じゃん・・・」
エドワード五世の言であった。
「終息宣言出て良かったわね」
コニーとジゼルがそう言う。大学構内のカフェテリア。
「で、ソレ、何」
後ろにくっついてる貴人をさすコニー。
「ラトクリフっていうの・・・前の部下」
「・・・アンタ、イングランド国王だったものね、当時のイングランドの市民全部部下じゃん」
「姉様・・・ソレ言わんといて」
「何、とほほになってんのよ」
「だって、この人、来てもう一ヶ月になるのに、ずっと「陛下」って呼ぶんだもん」
「・・・アンタ、やっぱヘタレね」
「なんとか言ってよ」
「無理と違う?」
「姉様」
「呼ばせておけば」
「・・・やだ」
「無理だと思うわよ」
がははは、とコニーは笑った。ジゼルも笑っていた。解っていないラトクリフは首をかしげるだけだった。 「陛下、このご婦人方は・・・」
「母と姉。私はリース家の養子なのでね」
「は・・・」
「説明すんの、めんどいんだよ、もう」
「移民管理センター・・・あー閉鎖中で駄目か。面倒見てやんなさいよ、リチャード」
「姉様」
「緊急事態なの、解っているわよね、へ・い・か」
「区切って呼ばないで、怖いっ」
「予想外って事ね、まあおもしろい事」
ジゼルが微笑んだ。
「母様まで」
「まあ、がんばりなさいな」
「いっくら説明しても、陛下(ヒズグレース)だよ、勘弁してよ」
「・・・一般市民だって言い張ったんでしょ、それでいいじゃないの」
「とりあえず、移民管理センターがオープンするまで我慢すっか」
「・・・いっちょまえに助手つけんの、まだ助教授試験パスしてない癖に」
「しょーがないじゃん」
ラトクリフはまだ首をかしげていた。
「落ちる予感してきた・・・」
「アンタのそういう予感外れないわよね」
「あー六ヶ月間どうしよう・・・」
講師の給料じゃ・・・とラトクリフを見る。
「まっいいか、仕方ない。なんとかしよ・・・」
「足りるの、家計」
「多分無理。資料代で大方飛んでるもん、今月も赤字だよー、もーどうしよう・・・」
「・・・資料代って」
「助教授試験の。また揃え直しで定期貯金崩さなきゃ、光熱費が」
「・・・アンタ何やってんのよ・・・」
「レイモン博士にね、借金したのだって半分しか返してない・・・」
「さっさと受かって下さい、教授試験」
「無理・・・」
「だよね」
「・・・レイモンの家、借家にしてリース家にもどろーかな」
「資料はどーすんの」
「大学の研究室がある」
「アレは」
指し示すのはラトクリフ。
「マッケンジーさんのアパートに押し込むしかない、学生寮で、幽霊が出るって噂の部屋」
「ちょっと気の毒だけど、それがいいわね、試験受かるまでは戻ってらっしゃい、あんな広い家、一人じゃ無理よ」
ジゼルの一言。
「・・・夕飯の支度しなくてすむかな」
「食事当番制とるわよ、リチャード」
「あ、やっぱり」
ところが。助教授試験はパスしていたため、彼の家計簿はなんとかなった。ラトクリフの事を除けば。
「いいご家族ですね、陛下」
「おまえ、飯で気に入ったんだろ」
図星のラトクリフは絶句していたのであった。
「・・幽霊、出るの、部屋」
「二階の騒音がまんまくるだけです。あと玄関チャイムのモニターが暴走することがあるだけで」
「なんだ、つまらないの」
「え」
「いや、何でもない」
よく電化製品が壊れるので、家賃がめちゃくちゃ安い部屋だと言うことは暫くリチャードは黙っていた。
「陛下・・・」
「気にするな」
「無理だと思うよ」
「あーレイモンド博士、出張」
そう声をかけるとラトクリフは驚いていた。ラヴェル子爵そっくりなのだから。
「呼び出されたの、例のコロニー爆発事故の」
「あー医療スタッフしてたんだ」
「そーゆーこと。ジョニーのね、遺体確認した」
「・・・そっか・・・もう一人のフランシーは」
「詰めてるよ、メディカルセンター」
「今頃はさぞや見事なボロ雑巾」
「そーゆーこと。おいらはやっと手隙になったんで、忘れてた患者の診察に来たってわけよ」
「あー・・・でーあの、移民局は」
「あー十年閉鎖じゃなくて済んだんよ、ボズワース。でも、助かったのは・・・あそこからの移民はアンタとそのラトクリフさんだけ」
「それって」
「戦没移民計画に入ってた。けどその当局のコロニーが・・・ああいう状態でね、解るかな」
「そ、そう・・・移民できるとは思ってなかったから・・・」
動揺して、声が震える。
「でも、アンタの部下、大半駄目にしちゃった・・・」
まるで自分がミスしたみたいにレイモンドは言う。この世代の代表であるかの様に。
「コロニー、何が起きたんだ、一体」
「ヒューマンエラーだよ、大した事のない爆発事故が人災ででかくなっちまったんだ」
「ヒューマンエラー」
「人間は間違う動物って事だよ」
「・・・それってつまりはこの学園都市のコロニーでも起きうるって事だね、博士」
「つまりはそういうことだね」
「我、間違える故に我有り、か」
「また珍妙なもの見つけたな」
「・・・囲碁の本だったけどね」
「でーどーよ、助教授試験」
「二度目でやっとパス。譲られた家、借家にして実家に戻ってなんとかしてるとこ」
「あー・・・なんでまた」
「資料が・・・」
「解るけど・・・」
「それに、アレ」
ラトクリフを指し示す。
「・・・従者やめてくんないの」
ぶわはははっとレイモンド博士は爆笑していた。
「そらお気の毒様」
「何も必要ないって言ってるのにさー」
「ま、アンタもがんばってね」
ラトクリフにそう告げるレイモンド博士にリチャードは溜息をついた。レイモンド博士の忘れていた患者とは当然、リチャードの事だった。
「・・・ほんとにフランシーじゃないんですね・・・」
「そんなに似てるかなあ・・・、あーそうそう、クラレンス副学長の事なんだけどさ、腕の・・・」
「無理だよ、アレでいいって言ってた」
「機械の義手じゃ・・・コピーで腕作り直せるんだよ」
「学長の事とか、助けられなかった人の事で落ち込んでるから・・・無理じゃないかな」
「そっか・・・ジョニーの事も気に病んでたしなー・・・」
「よく知らないけど・・・彼がミスしなかったらここにいなかった」
「・・・それ」
「感謝している・・・リースの家の事も・・・みんなね、兄上にも再会出来たし・・・まさか、こんな事」
「大丈夫、なんか疲れてないか」
「ジョージが安定するまで大学内の事、切り回してた、疲れた・・・」
「・・・そら前の主治医としてはちと気になりますなあ」
「見かけでは十八かな、多分・・・」
「どうするね」
「このままで。無理に大人にならなくてもいい」
「そっか・・・」
「もう少ししたら、将来の事も考えるよ、出来たらね」
カフェテリアへ行こうと言うことになって向かう。壁の片隅の落書きに気付く。
「見て、アレ、ジョニーの落書きじゃないかな」
「あーホントだ」
壁に書かれたサイン。
「最後まですっとこどっこいだったな、あいつ」
レイモンドが少しだけ、泣いていた。その肩にそっと触れるリチャード。
「雲に隠れても月は月・・・飛べなくても鳥は鳥」
「どうしたよ」
「リースの父が好きだって言ったんだ、この言葉」
「良かったじゃん」
「うん・・・」
ラトクリフは離れた席で二人を見ていた。
「あのさー、同席してくれないかなー、迷惑なんだけどー」
「陛下・・・私は」
「そばにいるなら同じテーブルについてくれ」
「はい、陛下」
「これ、なんとかなんないかしら」
ラトクリフを示して言うとレイモンドは苦笑して、首を振った。
「無理ですね」と。
おしまい
このタイトル、何故つけたのか、本人も解らない。誰か説明して・・・(^^)