「お許し下さい・・・お守り出来ずに・・・」
涙を流す老臣に幼い兄弟二人は首を振る。
「ううん、あなたは充分にやってくれたよ、感謝している」
敵方に差し出せば、職は解かずにおいてやろう、と言う申し出に頷いた彼を優しく見守ると、彼は悔し泣きをしていた。
「兄上」
ぎゅっと兄の手を握りしめると兄は笑う。
「ずっと一緒にいてやるから、大丈夫だよ、ずっと一緒だよ・・・」
兄の手の温かさに無邪気に頷いた。
そして刑場に引き出されたところで目が醒めた。
「な、何・・・」
手を見ると大人の手。おかしな格好をしていた家臣はいない。起きて、衣服を身につけ、宮殿の中を歩く。そして・・・灯りのついている部屋にそっと入り込んだ。
「リチャード、どうした」
執務が終わらないのか、エドワードが書類を見ていた。黙って近づき、兄の手に触れてみた。
「違う・・・」
「今、転た寝していてな・・・おかしな夢を見た。馬鹿な夢だ」
「どんな夢を・・・見たのですか」
怖いと思ったが聞いてみた。
「小さな子どもになっておまえと二人・・・逃げ切れなくなって敵方に」
「敵方に引き渡されて・・・」
「殺される夢だ」
同じ夢だ。そう思った。
「それ・・・私も見ました」
「怖がるおまえを必死でなだめて・・・一緒だから大丈夫だと言ってる癖して自分も怖かった・・・馬鹿な夢だ」
「兄上」
「なんだ」
「その兄の名前に・・・春の名前、ついてました」
こつんとエドワードの肩に額をつけて言う。
「春の王という名前だったな、そういえば」
この兄弟が生まれる前に死んでいった遠い東洋の幼子の名前とは二人とも知らない。
「おまえ・・・」
「首刎ねられる寸前で目が醒めたんです、怖かった」
そこまでは見ていなかったエドワードは少し震えている弟に気付き、しっかりしろと言う言葉を口にすべきか迷った。十歳年下の弟はまだ若く、北部での執務もきつい事だろう。二十歳にもなっていない事に気付き、ふっと息を吐く。
「情けないですね、夢の中の剣は・・・そりがあってとても恐ろしいけれど・・・美しかった」
「美しかった・・・」
「刃にね、模様があって、それが花びらみたいで、綺麗だったんですよ、それが目の前にきらめいて、上にふりかぶったところで目が醒めたんです」
「おまえ・・・」
「十くらいの子どもでした・・・」
その言葉にエドワードはぞっとした。
「子ども・・・」
「多分・・・領主か身分のある人の子どもで・・・男子なので死ななければならなかつたんでしょう・・・戦の常でしょう」
「忘れ・・・られないか。おまえも私も」
「そうですね」
知らない子どもの魂が突然飛び込んできた気がする。遠い遠い国から、突然に。ぐいっと引き寄せて、エドワードは弟を抱き締めた。
「一緒だから大丈夫だ・・・」
夢の中と同じ言葉を口にする。生きるために、口にする。けれど、彼らは・・・東洋の子どもと同じになることはなかった。ただ一人、弟だけが同じような道を辿った。
足利家分家・足利持氏の子息・春王丸と安王丸が登場してます。12歳と10歳くらいで処刑されたそうです。父が起こした反乱は制圧され、幼い兄弟は処刑とのこと。1441年の事。
涙を流す老臣に幼い兄弟二人は首を振る。
「ううん、あなたは充分にやってくれたよ、感謝している」
敵方に差し出せば、職は解かずにおいてやろう、と言う申し出に頷いた彼を優しく見守ると、彼は悔し泣きをしていた。
「兄上」
ぎゅっと兄の手を握りしめると兄は笑う。
「ずっと一緒にいてやるから、大丈夫だよ、ずっと一緒だよ・・・」
兄の手の温かさに無邪気に頷いた。
そして刑場に引き出されたところで目が醒めた。
「な、何・・・」
手を見ると大人の手。おかしな格好をしていた家臣はいない。起きて、衣服を身につけ、宮殿の中を歩く。そして・・・灯りのついている部屋にそっと入り込んだ。
「リチャード、どうした」
執務が終わらないのか、エドワードが書類を見ていた。黙って近づき、兄の手に触れてみた。
「違う・・・」
「今、転た寝していてな・・・おかしな夢を見た。馬鹿な夢だ」
「どんな夢を・・・見たのですか」
怖いと思ったが聞いてみた。
「小さな子どもになっておまえと二人・・・逃げ切れなくなって敵方に」
「敵方に引き渡されて・・・」
「殺される夢だ」
同じ夢だ。そう思った。
「それ・・・私も見ました」
「怖がるおまえを必死でなだめて・・・一緒だから大丈夫だと言ってる癖して自分も怖かった・・・馬鹿な夢だ」
「兄上」
「なんだ」
「その兄の名前に・・・春の名前、ついてました」
こつんとエドワードの肩に額をつけて言う。
「春の王という名前だったな、そういえば」
この兄弟が生まれる前に死んでいった遠い東洋の幼子の名前とは二人とも知らない。
「おまえ・・・」
「首刎ねられる寸前で目が醒めたんです、怖かった」
そこまでは見ていなかったエドワードは少し震えている弟に気付き、しっかりしろと言う言葉を口にすべきか迷った。十歳年下の弟はまだ若く、北部での執務もきつい事だろう。二十歳にもなっていない事に気付き、ふっと息を吐く。
「情けないですね、夢の中の剣は・・・そりがあってとても恐ろしいけれど・・・美しかった」
「美しかった・・・」
「刃にね、模様があって、それが花びらみたいで、綺麗だったんですよ、それが目の前にきらめいて、上にふりかぶったところで目が醒めたんです」
「おまえ・・・」
「十くらいの子どもでした・・・」
その言葉にエドワードはぞっとした。
「子ども・・・」
「多分・・・領主か身分のある人の子どもで・・・男子なので死ななければならなかつたんでしょう・・・戦の常でしょう」
「忘れ・・・られないか。おまえも私も」
「そうですね」
知らない子どもの魂が突然飛び込んできた気がする。遠い遠い国から、突然に。ぐいっと引き寄せて、エドワードは弟を抱き締めた。
「一緒だから大丈夫だ・・・」
夢の中と同じ言葉を口にする。生きるために、口にする。けれど、彼らは・・・東洋の子どもと同じになることはなかった。ただ一人、弟だけが同じような道を辿った。
足利家分家・足利持氏の子息・春王丸と安王丸が登場してます。12歳と10歳くらいで処刑されたそうです。父が起こした反乱は制圧され、幼い兄弟は処刑とのこと。1441年の事。