「もう一度だけ」
エリザベスの言葉にリチャードは彼女の顔をぼんやりと見つめていた。彼はまだ成人の身体を手に入れていなかった。が、すでに教授の職を得ていた。
「まだ子どもなのね」
「テュークスベリイの時と同じですよ」
「お父様と一緒に戦った時・・・の」
「体型は変わらなかったので、最後の決戦もその時の甲冑を身につけてました。まだありますよ、それは。王冠も」
「でも、今は・・・」
「もう着られません、体つきが変わってしまったから。身長も高くなりましたし・・・それでも、今のあなたよりは幼い」
「幼い・・・それって」
「結婚許可がおりません、この世界では。職業が職業でも・・・母の許可がなければ、格式のあるホテルには泊まれませんし、夜間の外出も制限されてます、未成年ですからね、身体は」
「私は三十八歳だわ・・・二十歳も違う」
「よく移民を承知しましたね」
「別の世界があるのなら行ってみたかったの、私、王女は嫌だった、王妃になるのも嫌だった。母がどう言っても、母の一族がどう動いても・・・私は・・・あの宮殿でアン叔母様のそばにいるときが一番好きだったわ」
「アンの・・・」
「叔母様はお母様よりお母様をして下さったわ。私・・・出来れば叔母様の娘に生まれたかったわ・・・」
「それでも・・・あなたは」
「ええ、初恋だったの。無邪気だったわ。娘なら諦めもつくけれど・・・姪では無理だったの。どっちでも近親相姦なのにね・・・馬鹿だと思ってらっしゃる・・・今でも」
「いいえ」
「叔父様は・・・違うのね」
「ここに来てから変わったと思いますよ、レイモンド博士のおかげかも知れませんが」
「あの天才は何を言ったのかしら」
「・・・生まれてきた理由を教えてくれました」
「生まれてきた理由」
「様々な人に出会い、愛し、憎み、また愛し・・・そうするために生まれてきたそうですよ、どんな人もね・・・」
「叔父様」
「だから・・・あなたもその一人です。あなたのお父様も・・・ね。母が許さないんですけどねえ、困ったことに」
「それは無理だわ。ジゼル・リース夫人は素晴らしい人よ。聖母のような御方だわ、お父様を許すわけないわよ」
「そのうち落ち着きますよ、母様も」
「叔父様、響きが優しいわ」
「尊敬してますし、優しいいい人です。自慢の母ですよ」
そこまで言った後、エリザベスの夫とジゼルが戻って来た。
「母様」
「私はタクシーで帰るわ。あなたはゆっくりしてらっしゃい。ケイツビーさん達に送ってもらうのよ、忘れないでね、今のあなたは未成年なのだから」
「はい、母様」
キスを交わし、リース夫人は帰っていった。
「ちょっと・・・いらついてますね、母様」
「そうみたいね・・・何かあったのかしら」
「雪美、部屋へ戻ろう。リース教授ももう遅いでしょう・・・」
エリザベスの夫がそう声をかけてきた。
「ええ・・・叔父様、これ・・・お願いしますね」
手紙を二通リチャードに彼女は手渡した。テーブルの紅椿を手に取るとリチャードは外に出た。懐にしまった手紙は出発の時に渡そうと思う。そして・・・紅椿。
「まるで血のようだな」
そうつぶやき、外に出るとヘンリーがいた。紅椿を手渡し、東洋では嫌うと話し、その場をケイツビーらと立ち去った。凍り付いたようなヘンリーを見て、気の毒な事だな、とふと思った。
もう一度だけ