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       「兄上」
       「冷えるぞ」
      小さな弟を抱き上げ、城に戻るとやはり、焦っていた母の顔が見えた。
       「いましたよ、母上。また何かに熱中していたみたいで」
       「しょうがない子ね、早く休ませて。また熱でも出されたら…」
      はらはらと美しい母の頬に涙が落ちる。
       「はいはい」
      少し熱い身体をぎゅっとエドワードは引き寄せた。
       「おまえ、なあ…あまり丈夫じゃないんだから、変な事するなよ」
       「うん、ごめんなさい」
      ぎゅっと抱きついた幼い弟。その感触にエドワードは目を細めた。


       「夢か…」
      白薔薇亭のオーナーの自室。昔の夢を見た。細くてちっちゃくて頼りなかった弟の身体。手をひろげてみてもその感触は遠い。憎まれ口ばかりたたくリース家の息子。さて、とエドワードは笑った。
       「行ってくるか」


       「失せろ、クソ馬鹿兄貴っ」
      そう罵る弟を無理に抱き上げ、エドワードは大きな声で笑った。
       「昔の夢を見たんだよ」
       「いつの」
       「フォザリンゲーだ」
      ぴたりとさっきまで暴れていた弟が動きを止めた。
       「父上は」
       「達者だった頃の、だ」
       「そう」
      ぎゅっと抱きついてきた手にエドワードは微笑んでいた。
       「母上が心配していつも泣いておられた頃だ、おまえの身体を案じて」
       「うん…」
      覚えているのか、と聞こうと思ったが、やめた。父親の顔も覚えられなかった現実に心が重くなるばかり…。
       「兄上」
       「何だ」
       「花の香りがする」
       「ああ、咲いているよ」
       「何」
       「百合、かな」
       「ふうん…」
      大輪の百合が大学の庭に揺れている。
       「見事だ」
      当分、下ろすつもりはないな、と弟は思う。こうなるとこの兄は…暫く駄目だろう…。ならば、この状態に甘えてしまおう、弟はそう思って、なお兄にしがみついた。



      イラストは
      http://flowerillust.com/photo.html  より

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