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「その顔で表に出て来るな、これでもうちは客商売なんだぞっ」
料理長に怒鳴られ、オーナーはスタッフオンリーの部屋に逃げ込む。泣きはらした顔はいただけない。それは解るのだが。
目を閉じると相変わらず小さな身体で自分を罵る弟の姿が現れては消える。バーカ、と罵った後に、兄上、大好き、と言っては笑った顔。どうやって立ち直ったらいいのか、解らない。今度こそ見守ろうと愛そうと誓ったはずなのに。その弟は…いない。
「失礼するよ」
弟の養い親だった人が入ってきていた。
「ご心配かけまして…」
「知らせないで、と言った言葉」
「ええ、私には受け止められません」
「君と私では親権争ったら…この世界では君は私には勝てない」
「…知りませんでした」
「あの子がミドラムのエドワードの親権を主張することは出来ません。この世界では幼くして時間移民した場合は養父母の権限の方が実際の親よりも強い」
「強い、ですか」
「条件が厳しい、衣食住、教育、愛情、子供を育成するのに一つでも欠ければ、養子縁組は解消されるシステムだ。それでも実の親には引き渡すことはあまりあり得ない」
「では…私とあの子は」
「この世界のシステム上では赤の他人」
「厳しいですね」
「料理長の顔、見たかね」
「知ってます」
「なら、顔を洗って無理でも笑いなさい。君のその姿、あの子が知ったら、どれだけ罵るか想像がつくだろう…」
解っている、へっぽこクソ兄貴と呼ぶだろう。
「…ありがとうございます、リース副学長」
「たいしたことではないですよ、ジョージも気にしてます」
はっとする。この穏やかな紳士はもう一人の弟、ジョージの親友でもある男。
「お気にかけていただいて申し訳ありませんでした」
リース氏は古い布をエドワードに渡した。
「これ…」
「あの子の旗手が持っていた軍旗です、あの戦場から直接持ってきました」
ひろげると猪と白薔薇の軍旗。それを抱き締めてエドワードは誓う、今度こそ笑って過ごせる人生を送ると。