鉄輪・ゴトウサンのコンワク
後藤恒永君は狂言師である。狂言の家には生まれていないが、伯父が狂言の家の人である。後藤君達の若手の会には、鼓方の斉藤、シテ方のホープ、錦木理智、襲名して錦木六郎がいる。襲名しても若手なので、理智は大御所達の会の中にはあまり参加していない。地方公演や能楽堂でちょこちょこと公演したりしている。でも、名跡・錦木なので、呼び出されて大御所の中で半泣きだったりしているらしい。その時は少しでも仲間が欲しいのか、ご指名したりする。斉藤と後藤を、だ。
 「おっ、やったね、今度はホテルの部屋割り別だ」
ハートマークや音符が飛び散りそうな言い方で、斉藤が言った。
 「へ、じゃあ・・・」
 「後藤君が一緒だよ」
 「ああ、そう・・・」
残念な事に後藤君は霊感があった。それも斉藤よりも強力な霊感である。姿形はもちろん、声も、聞こえるし、言いたい事や意志も伝わってしまうという残念な体質であった。言語が違っても後藤には理解出来るのだ。ただ、彼は見たくないときはシャットアウト出来る能力もあるため、案外平然としていたりもした。ただ、今回ばかりはどうにも出来ない様な気がするのだ。
 「斉藤くん、どんなの、なの」
 「存分に味わって下さい」
そう言って斉藤は部屋に行ってしまった。結構Sな性格なのかも知れないサイトウサンであった。


 「存分に、って・・・」
隣のベッドの中の理智はもう夢の中だ。後藤のベッドの足下に座っているのは誰だ。よく見ると少年だ。にっこりと笑った。結構愛らしいけれど、いかんせん・・・着ているものが古い。ヨーロッパのルネサンスの頃の衣装だ。黒髪のほっそりした顔をしていてグレーの瞳が印象的。
 「なんで・・・だ」
 「遊んでよ」
その少年がそう言って、また笑った。
 「みんな連れてきたんだよ、特別に」
 「へ」
よく見ると似たような男の子達が何人もいた。
 「あのねー、こっちが僕のお父さんのリチャード、で、こっちの金髪なのが甥っ子のリチャード、で、こっちの黒髪が僕の子のリチャード」
 「は」
 「えへ。みんなリチャードなの、よろしくね、ゴトウサン」
 「よ、よろしくされたくないです」
 「だよね・・・」
金髪のリチャードが言う。
 「んでね、みんな名字がね、プランタジネットって言うの。よろしくね」
 「え」
なんじゃ、そりゃ。一族の中に何人いるんじゃ、そら。後藤はそう思った。
 「見てよ、リシィ、ぐっすりだよ」
理智を見て黒髪のほっそりとしたリチャード君が言う。
 「気楽なものだな、まったく」
何故かとっても偉そうなリチャードが言う。
 「父上」
一番最初に出てきた男の子がその偉そうなリチャードに呼びかけていた。
 「叔父上」
金髪の子がほっそりした黒髪のリチャードに呼びかける。
 「ねー何して遊ぶー、ねーゴトウサン」
 「あ、遊びたくないです・・・」涙。


 「あのさ・・・リチャード・プランタジネットって何人いるんだ」
 「おや、後藤君がヨーロッパの歴史に関心持つとは明日は槍でも降るかな」
和泉がそう言った。
 「だって・・・夕べ・・・」
後藤はそう言った。
 「薔薇戦争の時は・・・第三代ヨーク公とその末子とエドワード四世の次男と、そのリチャード三世の庶子にクラレンス公の次男もリチャード、ただし赤ん坊で亡くなったとか」
理智の言葉だ。
 「赤ちゃんもいたんだよ、理智さん」
 「おんや、まあ、揃いもそろって・・・出るなんて」
 「ここは大阪ですよーーーっ、なんでそんなーーーっ」
 「エドワード四世の次男ってロンドン塔の王子様だよーん」
理智がそう言った。
 「ロンドン塔の王子様がなんで大阪のホテルで俺と鞠つきしなきゃなんねえのーっ」
 「・・・鞠つき」
 「だって、手鞠あったでしょ、あの部屋の壁の絵に」
 「後藤さん、この次も同部屋」
 「ぜってーーーっいやだっ」
 「だよな」
泣いてるよ、うん。そりゃ当然だよな。うん。理智と理智の後ろにいる王様はそう頷いていた。
 「他の子はどうしてたんだよ」
斉藤が聞いた。
 「夜中だからと言っておはじきとお手玉とあやとり教えた・・・」
 「後藤さんってお人好しだなあ、でも、それどこにあった・・・」
理智がそう言って肩をすくめていた。
 「おもしろがっていたよ、東洋の遊びは楽しいとか何とか。おはじきやお手玉は下の土産物屋から偉そうなリチャードさんが持ってきたんだよ、バックの中に偶然毛糸もあったし・・」
 「でも、みんな女の子の」
 「しかたないじゃん、真夜中だよ、丑三つ時だよ、お相撲だのチャンバラだの出来るわけないだろっ。影踏みも絶対無理だし」
 「何故に影踏み」
 「影あるの俺だけだもん」
 「そりゃそうだ・・・」
 「次はエドワードさんのそろい踏みだったりして」
 「もうやだ・・・(涙)」
エドワードも実は何人もいる。しっかりとそれを聞いていたエドワード(四世王)がいたことを後藤君は知らない。


        原案・Gさんとつんた。