鐘・第九章
手を伸ばして銀時の顔に触れる。沖田の手は爪もきれいに切りそろえてあり、手荒れとは無関係だ。だが、竹刀だこはある。知っている、この子供が努力を欠かさない事を。どんなときも覚悟を決めて。
 「まさかあんな事言われるなんて夢にも思いやせんでした」
 「なんて・・・言ったの、あのお馬鹿は」
 「知ったことねーって・・・」
 「何、それ」
 「姉上にもそう言って、別れたんですよ、あの二人」
 「変なときに残酷だねえ、あの馬鹿」
銀時は沖田の額、髪を優しく撫でた。
 「旦那、俺ね、真選組、最初から参加していたんじゃねえんですよ」
ぴたりと銀時の手が止まった。
 「えーっと・・・君らって」
 「五年前に出来たんですけどね・・・俺は」
 「今、十八だよね・・・」
 「幼すぎるって」
 「何してたのよ・・・」
沖田は微笑んだ。
 「やばいところにいやしたよ」
笑いながら話してくれた過去はある意味、壮絶だった。


 「ちぃ、何か音がしなかった」
 「しているよ、御用改めだってさ」
金庫から取りだした札束を手にしていたあいつは溜息をついた。
 「じゃあ、それ持ってトンヅラは無理か」
 「真選組みたいだから」
刀を手に立っていた俺は苦笑した。
 「そいつぁ、すげえや」
乗り込んできた黒服の男達。幹部制服の男は知っている。土方のヤローだ。
 「総悟」
あのクソヤロウはそう呟いた。
 「知り合いなの?」
ちぃが聞いた。
 「同じ田舎の仲間だった奴」
 「そうちゃん、なんで、一緒にいなかったのさ」
 「いらねえって言われたんでぃ」
 「ガキだから」
 「そう言うこと」
着物の身ごろを押さえている手に気付いて、ちぃはその辺に落ちていた腰ひもを渡した。
 「ありがとよ、計画はおじゃんだな、どうするよ、ちぃ」
 「どうもこうも、ねえよ、どうせ、ここは岡場所だ、公認じゃねえからよ、売春の容疑がかかるだけだろ」
 「強要の場合は無罪だぜ」
 「そうちゃん、それじゃまずいんだ、金送らねえと妹どもがおまんま食いパグレだぜ」
「だけど、この金は押収だぜぃ」
 「とんだ貧乏くじだな、おい」
あのヤロウは俺たち二人のやりとりに絶句した。六人の男達が斬られて絶命しているというのに。
 「押し込みしたのか」
 「何言ってんだよ、おにーさん、ここは売春宿だってえの、稼ぎが悪いって虐待しやがるからよ、すきみて逃げ出すつもりだったんだよ」
その少年は俺は源氏名は千鶴、本名は黒岩雪人っての、と名乗ったが。
 「金も奪ってか」
 「当然じゃん。まさか攘夷志士だなんて・・・知らないってわけじゃねえけど通報したら殺されるのはこちとらだかんな、出来ねえよ、んなこと」
 「あーわかった」
土方さんはそう言ったよ。すれっからしめ、と呟く。
 「涼香ちゃん、客は」
 「あーあいつなら逃げた。奴は斬る必要ねーもん。それにこいつ、貸してくれたしよ」
 「貸したねえ」
 「置いていけと脅した」
 「やっぱそっちか」
 「まあね」
ちぃは親分だった男の遺体に近付いて思い切り蹴飛ばした。
 「ざまあみろ、いつまでも甘い汁すすってんじゃねえや」
 「ちぃ」
 「何だよ」
 「おまえ、怖くねえの」
 「恨みの方が強いからよ、そんなんでもねえよ」
 「あーそうですか」
土方はやっと近藤さんに連絡を取った。やってきた近藤さんを見て、俺はふいっと視線をそらした。
 「いらねえ、か」
千鶴という源氏名の少年が呟く。
 「収めなよ、それ。間違われるのが嫌ならさ」
 「そうだな」
びゅんと血糊を飛ばし、着物のたもとで拭い、鞘に収めた。そして鞘ごと土方に投げた。
 「抵抗はしねえよ、土方さん」
 「どう報告したらいいんだ、こいつは」
頭が痛い。
 「飼い犬に噛まれた馬鹿とでも言えば、副長さん」
千鶴がそう言った。
 「おまえな」
 「検分すりゃわかるけど、薬、飲ませておいたから。そいつら」
 「やっぱり」
 「腰が抜けるようにね、酒にひとたらし」
 「ちぃ、おまえ相当悪だな」
俺はそう言った。
 「いつか、見ていろと思っただけだよ、安く叩きやがってよ、ざまあみろってんだ」
 「怖いねえ」
 「そっちこそ。計画に乗ったくせに」
土方さんと近藤さんは絶句している。
 「でー、どうするの、真選組のおえらいさん」
千鶴はそう聞いた。
 「そうだな、とりあえずは屯所に来てもらおうか」
土方さんがそう言って、俺の馬鹿な生活は終わったんだ、旦那。



あのとき、つるんだ少年は小間物屋で働いている。飾り職人として。沖田はそう言って昔話をやめた。
 「旦那とやった後はねー、久しぶりだったからつらかっただけ」
嘘だろう、そう思った。
 「嘘つきだね、沖田君は」
髪を撫でてやりながら、銀時はそう言った。なんで、嘘だってわかるんでぃ、と沖田はつぶやき、銀時の胸に顔を埋めた。
 「沖田君、震えてたもん」
銀時は空間を見つめていた、攘夷戦争の頃をふと思い出した、あのとき、俺の腕の中にいたのは、高杉だった・・・。
 「俺の事、よく知っている人と寝たくなんかなかったんでぃ」
沖田の言葉に、やっぱりね、と思った。
 「なんで、あんたなのかって考えやせんでした?」
 「忌々しいけど、あんたの言う馬鹿と似ているから、かな」
大当たり、と言って沖田は笑った。自嘲。そういう笑い方だった。



- 続く -

2010-10-04

作者名・つんた

フォントの色が変わっている部分は実は未発表未完成過去ねつ造の小説からの転用です。もったいないからこっちに使いました。