鐘・第六章
庭のベンチに腰掛けた少女。清楚なドレスを着て、長い金髪を波立たせて、その皇女、皇女と言っても差し支えはなかろう、は一人座っていた。見るからに高級そうなブラウスと裾の長いスカート、アクセサリー。それでその少女の身分がひとかどの者ではないことを立証していた。その前に沖田はいつもの制服、そして刀を腰に差して立ち尽くしていた。


あなたは自分で言うように腹黒ではないわ、黒い服の隊長さん。本当に腹黒い人はね、不用心に振る舞うと殺されてしまうものなのよ。お母様の信頼を集めていた、あの変わったお坊さんのようにね。


金色の髪を豊かに伸ばした少女は微笑みながら、そう告げた。


でも、人の心なんてわかりゃしませんぜ、御姫様


・・・・・・内親王殿下、どちらにおいでですか、皇后陛下がお探しです。


その侍従には沖田の姿が見えないらしい。そして沖田には彼女の名前が聞き取れなかった。


ここよ。少し、遅くなるとお母様に伝えて。夕べのお祈りの時間には間に合わせるから。


かしこまりました。


あいつはお付きの者ですかい、御姫さん


そうよ、隊長さん。悪い人ではないのだけれど、私はどちらかと言えば、どちらかと言えば嫌いよ。


なぜ


ああいう人たちはね、左様で御座いますか、としか言わないのよ。お母様のやり方は正しい事とは思えないの。お母様は皇后で、国母であられる事をお忘れなのよ。私たちや・・・・・の母親で、お父様の妻である事ばかり大事になさるのは、国のためにはよくないわ。それがおわかりにならないの。なのに、左様で御座いますか、しか言わないのは、怠慢だと私は思うのよ。


怠慢、御姫さん、あんた・・・


私はきっと、あの変なお坊さんのような死に方をするわね。だって国民に恨まれているんですもの。


え、そんな・・・なんで、あんた・・・


その少女の微笑は異様だった。




 「沖田君」
銀時の腕の中、ゆっくりと目を開ける。
 「誰かと一緒なら見なくても済むとばかり思っていたのに」
 「誰と一緒だったの」
 「御姫様と」
沖田はそう言って、苦笑した。
 「特に美人ってわけじゃねえんですよ、小柄で、なのに猫背で、歩き方もおかしかった。外反母趾というのかな、変な形の足をしていて・・・」


私の血は止まりにくいの。結婚して、男の子が生まれたらきっと、お母様のように苦しむわ。その前に消えてしまいたいと時々思ってしまうの。お母様のような苦しみを味わいたくないの。お父様のような悲しみを相手の方に与えてしまうのなら、死んだほうがましだわ。ふと、そう思うのよ。姉様方は普通に結婚して家庭を持って・・・と夢見てらっしゃるけど、私たちは貴族か王族の人でないと結婚出来ないのよ。大事な跡取りに何かあっては、大変だと思うのなら、私たちのような遺伝の病を抱えた女を娶るのはどうかと思うわ・・・。内親王殿下なんて呼ばれていても、ね。生まれた子が男の子なら血が止まらなくなって死んでしまうもの。あの可哀想な私の弟のように苦しんで。打ち身だってあの子には命取りなのよ。あなたも男ならわかるでしょう、あの子は兵隊さんごっこさえ出来ないのよ、可哀想に。


彼女の告げた言葉を思い返し、沖田は銀時の腕にすがった。
 「身体の弱い弟をずっと彼女は」
 「気遣っていた・・・」
俺が姉上を気遣っていたのと同じように。そう呟いた。
 「ふーん・・・」
それでも、その姫君は・・・。
 「幸せじゃないと思った?」
 「いいえ、不幸だなんて思えなかった」
 「なんでよ、沖田君」
沖田の髪を撫でながら、聞いた。
 「微笑みが・・・悲しそうには見えなかったから」


でも、姫さん、あんたは幸せそうに見えやす


ふふ、こんなきれいなドレス着て、読みたい本も読んで・・・教育も受けられて、食べ物にも不自由もしていないわ。それが不幸なわけないじゃないの。私は幸せよ。見て、これで写真、撮ったりしているの、お父様と一緒に。世の中にはこんなことさえ出来ない人、たくさんいるもの。私の不幸なんてものの数には入らないわ。

誰と話しているのです、不審な者と口をきくなんてそれが皇女のすることですか。

お母様・・・

立ち去りなさい。そこの黒服のものよ。ここをどこだと思っているのか。

この人は迷子のようなものよ。お母様。触れることも出来ないわ。

何を言っているの・・・

扇をかざし、沖田に向かって振り上げ、振り下ろした女は驚愕した。


ね、お母様。この方に私たちは触れられないの。この方もそうよ。私に触れてご覧なさいな、黒い服の隊長さん。

彼女の金髪に手を伸ばし、すり抜けてしまう自分の手を沖田は見つめて、目を見開いた。

なぜ、そなたはここにおる。


わかりません、皇后陛下。


わからぬ、か。ならば、そなたは悪霊か。

違います。


ならば、聖霊ならば、我が子の・・・

それは出来ません、陛下。出来ないのです。

そうか。許しておくれ。私は、私は・・・あの司祭が殺されてから心の安寧がないのです・・・。でも私はこの国の母なのです・・・。この国が荒れ果てようとも逃げることなど・・・。



 「旦那」
 「んー」
 「衞るって難しいですね」
沖田の肌はどこか冷えていた。
 「そうかもしんない。けどさ、沖田君、誰のために・・・いるの」
旦那、と笑って沖田は綿菓子のような銀時の髪に手を入れた。
 「あまりくしゃくしゃにしないでよ、悲惨なんだから」
 「勝手な方向にすっ飛んでますからねぃ」
沖田はそう言って笑った。








な、なんかここだけ妙に難解。。

- 続く -

2010-09-28

作者名・つんた

ここに出てくる遺伝疾患は現代では特殊な薬のため、通常の生活は営めます。が、20世紀初頭では不治の病でした。
その特殊な薬に特殊なウイルスが含まれていたため、別の悲劇が発生したのは記憶に新しい事です。
なお、この王室に遺伝してしまった病に冒された王族・貴族は子孫を残さず死に絶えているそうです。
配慮に欠けているかも知れませんが、他意はありません。