鐘・第一章



夢を見た。晩鐘の響く夢だった。




 「いつまで寝こけてやがる、総悟っ」
スパーンと襖を開け放ち、土方が叫んだ。くわえ煙草の上、片手には書類をつかんでいる。座った目、切れそうなこめかみ。ぽかんと見上げると、土方はもう一度、文句を口にした。
 「なんでぃ、土方さんかい、もう一回寝よ」
 「こらこらー」
布団を引きはがし、土方は無理矢理、総悟の腕をつかむと起こした。
 「仕事だ、この野郎」
ちぇっと舌打ちをし、仕方なく、布団から出た。夢。夢を思い出した。
 「ねえ、土方さん、革命って必ず流血が必要なんですかねぃ」
 「あー?」
 「だから・・・」
 「阿呆が下手な知恵使うな、知恵熱出るぞ」
そう言って、土方は持っていた書類を持ち直すと出て行った。


 「知恵熱ねえ」
思想犯の取り調べの書類にもきな臭い事はいくらでもあった。
 「でも、女子供の血って必要とは思えねえんだけどな」
内勤は大嫌いだが、ここ最近はテロリストも大人しく、実働部隊の一番隊も暇と言えば、暇だった。仕事と言っても書類整理だ。総悟の大嫌いな。学がないから、嫌いだと言ってしまってもよかったが、あいにくと学のある人間は真選組にはいなかった。仕方なく、報告書を作成し、沖田の判子を押す。隊長格の人間の机は同じ部屋に並んでいる。副長や局長の机はそこにはない。十並んだ机とは離れた位置に勘定方や観察のトップの机がある。観察の机で山崎もペンを手にしていた。
 「沖田さんも内勤ですか」
そっとお茶を入れてくれた山崎は駄菓子もお茶請けに付けてくれた。別段取り立ててうまいわけでもない、大袋に入った小分けのカステラだ。
 「つまんねーけどな」
 「そうですね」
山崎は他の隊士らにもお茶を入れていた。原田とは談笑している。仲がいいのは知っていた。気づけば、よくつるんでいる。他の隊長達は必ず「さん」をつけて呼ぶのに、原田だけは「さん」がなく、時にはうーちゃんとか適当な呼び名を使っていた。

昼休みになり、総悟は屯所から出て行った。昼飯を外で食べようとしたのだ。昼の食事は各自、自由にとってもよい。決まっている訳ではないが、ストレス解消やその他の理由で外での食事は届け出さえ出していれば、許可されていた。内勤の仕事はまだ続いていたので、制服のまま、飲食店の多いかぶき町に向かった。その途中に最近、気に入っている店がある。が、今日は運悪く定休日だった。仕方なく、かぶき町のスナックではあるが、昼食時は定食屋にもなるお登勢の店の暖簾をくぐった。
 「おや、めずらしい」
 「上の旦那は」
上を指し示すとお登勢は苦笑していた。
 「今日は珍しく仕事だそうだよ」
 「へえ」
お登勢は何にするかい、と言う。
 「今日のランチ」
 「あいよ」
定食は日替わりで、今日は一夜干しの焼き魚と野菜の和え物に味噌汁と白飯、それにお登勢特製の漬け物。半分ほど食べ終わった時、銀時が帰ってきた。
 「家賃」
 「顔見た途端、そりゃねえよ」
カウンターに腰掛け、銀時がぼやく。
 「子供達はどうしたい」
 「奴らなら、別口」
 「そうかい」
そして、食事中の沖田を銀時は見た。
 「何、総一郎君、昼飯、ここー?」
 「総悟でさ」
 「屯所じゃねえの」
 「内勤でしたけど、息詰まるから」
 「あっそ」
お登勢は銀時にも同じ定食を出した。
 「いいの」
 「またまともに食ってねえんだろ」
 「うーん、そうだけどさあ」
銀時はそう言った。
 「いいからお食べ」
お登勢はそう言って苦笑していた。
 「ありがとよ、ババア」
銀時は気兼ねなくそう答えていた。
 「なあ、ばあさんよおー」
 「また何かあったかい」
 「俺はいいと言われちまったよ」
 「また何か余分なこと言ったんだね」
くすくすと沖田は笑っていた。
 「笑わないでくれる、傷つくから」
 「旦那、ちょっと聞いてほしいんですけどね」
 「んー、依頼かな」
 「そうとってもいいでさ」
 「わかった」
いやな予感が、ちりりと銀時の神経に触ったけれど。




-続く-