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- 「指名手配犯が検挙された、だと」
土方は煙草を消し、説明を促した。
「白夜叉と呼ばれる攘夷志士ですが・・・それが」
「ん、どうした」
「松平長官が探していた子と特徴が一致すると言って、猶子扱いにして手元に引き取ってしまったそうです。名字は、その、戸籍上は松平、通称は今まで通りという形にしたそうです」
「そうか、それで」
「その御方をこちらでお預かりせよ、と命じられまして、近藤局長とともにみえられるそうです」
「わかった、それで」
「その御方の私物をこちらで調べ上げて、危険がない場合は当人に返すように言いつかっております、副長」
「ご苦労」
部下を帰すと、土方は白夜叉、かと呟いた。多分、あの万事屋の阿呆だろう。頭痛いな、なんでとっつあんが奴を引き取るんだろう・・・。
「副長」
押収した白夜叉の私物を調べ始めるが。収支決算に並ぶのは赤い数字。人件費も真っ赤。万事屋銀ちゃん出納帳・・・。そして、一冊のノート。
「何だ」
隊士が変なノートをめくり始めていた。
「このノート、何ですかね、土方君ってずいぶんがさつな彼女なんですねえ」
「・・・」
「えーっと、初めて行った居酒屋の箸袋、初めておごってもらった団子の串、それから、誕生日に買ってもらった赤ベコ、さるぼぼ、それから・・・」
「もういい・・・」
どう見ても、あの馬鹿の持ち物だ。こんな恥ずかしいもの、なんで大事に持っていやがるんだ、まったく。すべて酔っ払ってやってしまった事だ。赤ベコも、さるぼぼも押収物の中にちゃんとある。見事に見覚えがある品物だ。誕生日とクリスマスプレゼント寄こせとごねられて、仕方なく出張先で買ってきた品物だ。嫌みを込めてかなり大きい。
「大きいですね、この赤ベコもさるぼぼも」
くそっ。捨てろ、あの馬鹿。土方は黙って調べあげ続ける隊士の様子を溜息ついて眺めていた。
「あ、ついた模様です、副長」
玄関先の物音に、別の隊士が告げる。くだらない品物を検品するのにも飽きた頃だった。飽きた、と言うよりもあきれた、と言うべきか。
案の定、あの馬鹿だ。手錠を外す近藤が苦笑していた。
「なんで、俺、ここ預かりなん」
「とっつあんの養子に無体な事は出来んからな。おまえの指名手配消すのに、あの親父、むちゃくちゃしやがったな」
「よくわかんね」
「親友だったそうだ、吉田某とかいう学者先生。助けようとして、実の親父ぶん殴って謹慎処分食らったそうだ、とっつぁん」
「・・・どえええっ」
「おまえ、あんな過激な男、よく忘れていられたな、おい」
「あっそう、やっぱり、あの過激なおっさん、あのおっさんだったんか」
土方がやってきた。いきなりかかと落としが炸裂した。うずくまっている銀時の頭にもう一発拳骨。
「なんで、殴るんっ、しかもいきなりー」
「殴るに決まってるだろが、あんな恥ずかしいもん、さっさと捨てろ」
「やだよ、記念品じゃん、俺たち二人の・・・」ふごっ。みぞおちにもう一発。おいおい、と近藤が笑う。
「何やってんだ、トシ、それに銀時」
「こりゃ痴話喧嘩にもなりまさ。近藤さん、見てごらんなせぇ」
沖田が持ってきたノートには「愛のメモリー」なんて恥ずかしいタイトルがついている。
「見るなよ、恥ずかしいっ」
「証拠品ですぜ、旦那」
「ちくしょー」
愛って重さが変わるものなのね。。。
居酒屋の箸袋に団子の串、ケーキについてるハトロン紙とアルミ。チョコケーキによく刺さっているケーキやの小さなマーキング。饅頭をくるんでいたビニール、お菓子屋の包み紙の切れ端。そんなものが日付とともにノートにしっかり貼り付けてあるのだ。保存に適するようにきちんと洗って乾かして・・・なんてめんどくさい作業まで施した上で。
「すげえや」
沖田があきれるそばで顔を隠して恥ずかしがる銀時と、それに向かって鉄拳をお見舞いしている土方。
「このくだらねえゴミ、どうしたんだよ、万事屋」
近藤の質問に銀時はきちんと返事する、土方の繰り出す鉄拳と振り回す刀をよけながら。
「だって土方君が買ってくれたもんなんだもん、記念に取っておいてどこが悪いの」
「捨てろ、この腐れヤロウっ」
二人のばかばかしい喧嘩の横で、沖田がでっかい赤ベコを抱えて、ちょんちょんとつついていた。
「お、沖田くーん、その赤ベコ、銀さんの宝物なんだからね、壊さないでよ」
「ぶっ壊して捨てろ、総悟」
「近藤さん、屯所、壊れますぜ、どうしやしよう」
「放っておけ。給料から引いておけと勘定方に告げておけよ、総悟」
「近藤さん、そりゃねーーーっ」
「坂田副長の初任給はなしだな」
クスクスと笑って沖田が赤ベコをつつく。赤ベコが「んだ、んだ」と頷いていた。