「で、銀ちゃんはどこに行ったアルか」
「そこまでは知らねえ。ただ、ちょっと北の方に出かけるとか…」
「北って…」
新八はそこで黙った。
「北海道、かもな」
土方の言葉に二人は怪訝な顔をしていた。
「なら、私も行くアル」
「待て。旅費はどうするつもりだ、チャイナ」
お説ごもっとも。じり貧生活の中で、そこまで行く旅費は皆無だ。
「旅費…」
「言っておくが、定春に乗っていこうとしても無駄だからな。あれだって疲れるだろう」
「駄目アルか」
「仕方ねえな、ちょっと来い」
土方はそばにあった本屋に立ち寄り、地図をひろげて見せた。
「ここが江戸だ。北海道はここ。江戸の大きさはこの本だとゴマつぶの大きさ。解るか」
「すっごく遠い…」
「そうだ」
「銀ちゃん」
「仕方ねえな、新八君、チャイナは俺が預かる。そう姉貴に伝えておけ」
「でも」
「こいつの食費」
「う…」
その指摘には絶句するしかない。ぽんと神楽の頭を撫で、土方は笑った。
「あのでかい犬ごと来い」
「うん…」
何故か、神楽は土方の言うことは割合素直に聞く。銀時には、必ず一言逆らう癖に。逆に総悟が銀時には素直だ。どっちが保護者ですか、と言いたくなる。新八はそう思って苦笑した。
「面白いね、神楽ちゃんは土方さんの言うことなら頷くんだ」
「へ」
「銀さんには一言言い返すんですよ」
「なーるほど」
土方は苦笑していた。
「総悟が万事屋には素直だ」
「んなところ、なんでサド丸なんかと一緒アルね」
「気にするな。チャイナ、屯所、壊すなよ」
「わかってる…」
しょんぼりと神楽が言う。
「あのクソガキと遊び過ぎるなよ」
「うん」
ばかでかい犬を連れ、神楽は屯所にやってきた。神楽の言いつけを護るのか、その犬は土方にはかじりつかなかった。総悟にもけしかけなかった。仕事の内容を神楽は知っている。怪我をさせて、無事にすむわけがない。
「大人しいな、おい」
「仕方ないアル、多串君に迷惑かけられないアル」
「土方の野郎のせいかよ」
「だって…」
気付いてる。銀時以外、神楽の頭を撫でる大人など土方くらいしかいない。総悟はそれに気付いて笑った。
「確かにあのヤローはうちのおかあちゃんだからなぁ…」
「へ」
「ああ、旦那がそう言ったんでさぁ」
「銀ちゃんが」
「まあ、いいや。好きにしてろぃ、チャイナ。あの人は面倒見るのが好きなんでぃ」
「ふうーん」
思ったよりも優しい人。短気に見えるけれど。
「本気で怒ったのは見たことあまりねえよ」
総悟の言葉に神楽は驚いた。
「本気で怒ったら、俺等が一番怖いのは」
「ゴリラ、アルか」
「んー、そうだな」
父親という感じ。確かに本来の年齢よりも、近藤は親父然としている。度量も。だから、なのか、神楽がいても、彼は変わらなかった。いい子にしているんだぞ、とさも言うかのように、彼は振る舞う。
「チャイナさん、食事」
原田というハゲの男がそう声をかけた。
「飯―」
いいもん、食ってアルね、と神楽は言う。神楽がいる分、余分に作られた食事。それに食堂のおばちゃんはゼリーもおまけにつけてくれた。
「これ」
「いいの、いいの、おまけよ」
見ればゼリーがあるトレーは総悟のものだけ。
「ふーん」
「何だよ」
「何でも」
子供扱い。まだ未成年の総悟を気遣っているらしい。それを新八に言ったら、新八は笑った。
「流石の沖田さんもあの中じゃ子供なんだね」と。
銀時からの連絡はない。どうやら万事屋の仕事ではないらしい。それは神楽が持っていた手紙で解った。
「まんまと乗ってしまったのか」
高杉からの呼び出し。脅迫状にはおまえの知り合い全て殺してやる、とあった。それで、北に向かったのか。
「黒モジャが北にいるらしいって言ったアルよ」
「黒モジャ、ねえ」
黒モジャの特徴を聞けば、坂本辰馬らしい事が解った。
「変だな、そいつは中道の立場のはずだ」
「え、黒モジャ、なんかしたアルか」
「いや、快援隊の首領なら、足を洗って長い。攘夷志士どもに関わるわけがないんだがな」
知っている。神楽はそう思った。
「どこまで銀ちゃんのこと…」
「子供が心配するな。あいつは大丈夫だよ」
根拠のない大丈夫に神楽が納得するだろうか、少し不安になったが。
「過去は過去だ。恩もある。ただの一般市民だ。胡散臭いがな」
「胡散臭い、じゃなくて親父臭い…」
「それは銀時が傷つくぞ」
ケラケラ笑いながら、土方がそう言った。
「そうアルか」
「決まってるだろ、野郎だって若いはずだ。よく知らねえが」
「多串君、助けてよ」
情けない電話に、一瞬、切ってやろうかと思ったが。北海道警からの電話には、そうそう無視もしていられない。
「何してやがる。おまえは」
「高杉とやってたらさあ、踏み込まれてさあ…仲間と間違われたのー」
「一生間違われてろ」
「んなこと言わないで助けてよ」
溜息をつく。
「万事屋、本部長と交われ」
「頼んだよーーー」
深呼吸をして、北海道警の本部長との電話に土方は出た。
「本当に無関係なんでしょうか。木刀の他に刀も持ち合わせておりまして…」
「状況は」
「高杉とおぼしき人物と交戦中で、相手は逃げおおせたのですが、この、坂田という男は」
「逃げなかったのか」
「怪我をしていましてね、手当はしてありますが、一般人だと言い張りまして」
「で、拘束の理由は」
「噂の「白夜叉」に酷似しているという事です」
「白夜叉は指名手配者ではなかったはずだが」
「あの戦争の参加者は一応、リストには」
「なるほどな。が、その噂の戦士なら、戦争終了後、消息は絶えたはずだが」
「ええ、思想に危険性がないか、確認中なのですが、どーにもこーにも。それで、そのうち、そちらの名前を言い出しまして」
「解った」
「申し訳ないのですが、お引き取りに来て頂けませんか。無一文の上、危険性の疑いは消えておりませんので」
「了解した」
そのやりとりを聞いていた銀時は溜息をついた。
「こら、おまえ、副長直々にお迎えだそうだ、たいしたもんだな」
「えっ」
流石にその言葉に銀時は驚いた。
「なんで、無罪放免じゃなかったの、俺」
「江戸にどうやって帰るつもりだ」
「あ」
無一文。ここまでくるのがやっとだった。それを思い出す。
「帰れるとは思わなかった…」
「ん?」
「なんでもないでーす」
それでも留置場なのね、と銀時は呟く。まあ、ホテル代もないのだから、ありがたくいるしかない。不本意だが。
「顔見た途端、笑わないでくれる、多串君」
警察の集まりでも土方の笑い声は北海道警の本部長は聞いたことがなかった。
「無理言うな。それで、決着はついたのか」
「ついてねえ…」
「おまえ、バカ?」
「かもしんない…」
「まあ、いい。行くか」
手錠のままなんですけど。そう銀時が言うが。
「被疑者として護送なんだよ、残念だったな」
飛行場までだ、と土方は小声で囁いた。
「ちえっ」
そのやりとりにも本部長はきょとんとしていた。
「あの、これ…」
「ああ、こちらで詮議する。もしも攘夷志士なら、うちが専門だろ」
「ああ、はい」
銀時が目を見開く。
「あり、ひょっとして多串君、偉いの」
「どういう目でいるんだ、おまえは。近藤さんの地位は警察長官であるとっつぁんの下。次は俺だ。全国の地域別の本部長はその下になる。名目上はな。実際は同等に近いが。江戸市内は俺等の他に見廻組があるが、それは都会だから、だ。警察の位で言うとうちの幹部は全員警視クラスだよ」
「知らんかった…」
「まあ、知らなくてもいいことだがな」
「でも、なんかピンとこねえ」
「んーそれについてはフォローの仕様がねえな」
土方がまた笑った。本部長がその度に驚く。
「なー」
「会議で、にこにこなんかしてられっかよ」
「そっか」
ぽりぽりと銀髪をかく。
「まあ、日帰りじゃねえから、文句言うなよ」
「へ」
「そこまでは知らねえ。ただ、ちょっと北の方に出かけるとか…」
「北って…」
新八はそこで黙った。
「北海道、かもな」
土方の言葉に二人は怪訝な顔をしていた。
「なら、私も行くアル」
「待て。旅費はどうするつもりだ、チャイナ」
お説ごもっとも。じり貧生活の中で、そこまで行く旅費は皆無だ。
「旅費…」
「言っておくが、定春に乗っていこうとしても無駄だからな。あれだって疲れるだろう」
「駄目アルか」
「仕方ねえな、ちょっと来い」
土方はそばにあった本屋に立ち寄り、地図をひろげて見せた。
「ここが江戸だ。北海道はここ。江戸の大きさはこの本だとゴマつぶの大きさ。解るか」
「すっごく遠い…」
「そうだ」
「銀ちゃん」
「仕方ねえな、新八君、チャイナは俺が預かる。そう姉貴に伝えておけ」
「でも」
「こいつの食費」
「う…」
その指摘には絶句するしかない。ぽんと神楽の頭を撫で、土方は笑った。
「あのでかい犬ごと来い」
「うん…」
何故か、神楽は土方の言うことは割合素直に聞く。銀時には、必ず一言逆らう癖に。逆に総悟が銀時には素直だ。どっちが保護者ですか、と言いたくなる。新八はそう思って苦笑した。
「面白いね、神楽ちゃんは土方さんの言うことなら頷くんだ」
「へ」
「銀さんには一言言い返すんですよ」
「なーるほど」
土方は苦笑していた。
「総悟が万事屋には素直だ」
「んなところ、なんでサド丸なんかと一緒アルね」
「気にするな。チャイナ、屯所、壊すなよ」
「わかってる…」
しょんぼりと神楽が言う。
「あのクソガキと遊び過ぎるなよ」
「うん」
ばかでかい犬を連れ、神楽は屯所にやってきた。神楽の言いつけを護るのか、その犬は土方にはかじりつかなかった。総悟にもけしかけなかった。仕事の内容を神楽は知っている。怪我をさせて、無事にすむわけがない。
「大人しいな、おい」
「仕方ないアル、多串君に迷惑かけられないアル」
「土方の野郎のせいかよ」
「だって…」
気付いてる。銀時以外、神楽の頭を撫でる大人など土方くらいしかいない。総悟はそれに気付いて笑った。
「確かにあのヤローはうちのおかあちゃんだからなぁ…」
「へ」
「ああ、旦那がそう言ったんでさぁ」
「銀ちゃんが」
「まあ、いいや。好きにしてろぃ、チャイナ。あの人は面倒見るのが好きなんでぃ」
「ふうーん」
思ったよりも優しい人。短気に見えるけれど。
「本気で怒ったのは見たことあまりねえよ」
総悟の言葉に神楽は驚いた。
「本気で怒ったら、俺等が一番怖いのは」
「ゴリラ、アルか」
「んー、そうだな」
父親という感じ。確かに本来の年齢よりも、近藤は親父然としている。度量も。だから、なのか、神楽がいても、彼は変わらなかった。いい子にしているんだぞ、とさも言うかのように、彼は振る舞う。
「チャイナさん、食事」
原田というハゲの男がそう声をかけた。
「飯―」
いいもん、食ってアルね、と神楽は言う。神楽がいる分、余分に作られた食事。それに食堂のおばちゃんはゼリーもおまけにつけてくれた。
「これ」
「いいの、いいの、おまけよ」
見ればゼリーがあるトレーは総悟のものだけ。
「ふーん」
「何だよ」
「何でも」
子供扱い。まだ未成年の総悟を気遣っているらしい。それを新八に言ったら、新八は笑った。
「流石の沖田さんもあの中じゃ子供なんだね」と。
銀時からの連絡はない。どうやら万事屋の仕事ではないらしい。それは神楽が持っていた手紙で解った。
「まんまと乗ってしまったのか」
高杉からの呼び出し。脅迫状にはおまえの知り合い全て殺してやる、とあった。それで、北に向かったのか。
「黒モジャが北にいるらしいって言ったアルよ」
「黒モジャ、ねえ」
黒モジャの特徴を聞けば、坂本辰馬らしい事が解った。
「変だな、そいつは中道の立場のはずだ」
「え、黒モジャ、なんかしたアルか」
「いや、快援隊の首領なら、足を洗って長い。攘夷志士どもに関わるわけがないんだがな」
知っている。神楽はそう思った。
「どこまで銀ちゃんのこと…」
「子供が心配するな。あいつは大丈夫だよ」
根拠のない大丈夫に神楽が納得するだろうか、少し不安になったが。
「過去は過去だ。恩もある。ただの一般市民だ。胡散臭いがな」
「胡散臭い、じゃなくて親父臭い…」
「それは銀時が傷つくぞ」
ケラケラ笑いながら、土方がそう言った。
「そうアルか」
「決まってるだろ、野郎だって若いはずだ。よく知らねえが」
「多串君、助けてよ」
情けない電話に、一瞬、切ってやろうかと思ったが。北海道警からの電話には、そうそう無視もしていられない。
「何してやがる。おまえは」
「高杉とやってたらさあ、踏み込まれてさあ…仲間と間違われたのー」
「一生間違われてろ」
「んなこと言わないで助けてよ」
溜息をつく。
「万事屋、本部長と交われ」
「頼んだよーーー」
深呼吸をして、北海道警の本部長との電話に土方は出た。
「本当に無関係なんでしょうか。木刀の他に刀も持ち合わせておりまして…」
「状況は」
「高杉とおぼしき人物と交戦中で、相手は逃げおおせたのですが、この、坂田という男は」
「逃げなかったのか」
「怪我をしていましてね、手当はしてありますが、一般人だと言い張りまして」
「で、拘束の理由は」
「噂の「白夜叉」に酷似しているという事です」
「白夜叉は指名手配者ではなかったはずだが」
「あの戦争の参加者は一応、リストには」
「なるほどな。が、その噂の戦士なら、戦争終了後、消息は絶えたはずだが」
「ええ、思想に危険性がないか、確認中なのですが、どーにもこーにも。それで、そのうち、そちらの名前を言い出しまして」
「解った」
「申し訳ないのですが、お引き取りに来て頂けませんか。無一文の上、危険性の疑いは消えておりませんので」
「了解した」
そのやりとりを聞いていた銀時は溜息をついた。
「こら、おまえ、副長直々にお迎えだそうだ、たいしたもんだな」
「えっ」
流石にその言葉に銀時は驚いた。
「なんで、無罪放免じゃなかったの、俺」
「江戸にどうやって帰るつもりだ」
「あ」
無一文。ここまでくるのがやっとだった。それを思い出す。
「帰れるとは思わなかった…」
「ん?」
「なんでもないでーす」
それでも留置場なのね、と銀時は呟く。まあ、ホテル代もないのだから、ありがたくいるしかない。不本意だが。
「顔見た途端、笑わないでくれる、多串君」
警察の集まりでも土方の笑い声は北海道警の本部長は聞いたことがなかった。
「無理言うな。それで、決着はついたのか」
「ついてねえ…」
「おまえ、バカ?」
「かもしんない…」
「まあ、いい。行くか」
手錠のままなんですけど。そう銀時が言うが。
「被疑者として護送なんだよ、残念だったな」
飛行場までだ、と土方は小声で囁いた。
「ちえっ」
そのやりとりにも本部長はきょとんとしていた。
「あの、これ…」
「ああ、こちらで詮議する。もしも攘夷志士なら、うちが専門だろ」
「ああ、はい」
銀時が目を見開く。
「あり、ひょっとして多串君、偉いの」
「どういう目でいるんだ、おまえは。近藤さんの地位は警察長官であるとっつぁんの下。次は俺だ。全国の地域別の本部長はその下になる。名目上はな。実際は同等に近いが。江戸市内は俺等の他に見廻組があるが、それは都会だから、だ。警察の位で言うとうちの幹部は全員警視クラスだよ」
「知らんかった…」
「まあ、知らなくてもいいことだがな」
「でも、なんかピンとこねえ」
「んーそれについてはフォローの仕様がねえな」
土方がまた笑った。本部長がその度に驚く。
「なー」
「会議で、にこにこなんかしてられっかよ」
「そっか」
ぽりぽりと銀髪をかく。
「まあ、日帰りじゃねえから、文句言うなよ」
「へ」