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・・・・ 今ひとたびの みゆき待たなむ
夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづくに 月宿るらむ
夢のように素敵なお伽噺が突然私におとずれた
町中が私にほほえみかける
唯一度、二度はない
金色の輝きがわたしをてらしだす
ただ一度二度はない これは多分きっと夢
そう、春は二度とこない 夢のようなひととき・・・
「今一度、行きたいところがあるんだ」
「でも、兄上の今のお身体では」
「願えば叶えられるものではないけれど・・・招かれなければ行くことは叶わない・・・」
「兄上」
「あの時はトマスがいた。今度はエドマンド、おまえと二人だけで行ってみたいんだ・・・私はもう二度と・・・あの地を夢見ることさえ出来なくなるのだから」
「無理ですよ、そんな場所には」
エドマンドは首を振る。
扉が開く。ジョージが立っていた。
「二日間だけ、機会を与えましょう、殿下」
「ありがとう・・・」
「二日間だけですよ、もう六月なのですから」
「解ってる・・・」
「大学ってのは気楽に出来ているな」
エドワードは創立祭で司会進行を引き受けたという末弟の扮装に溜息をついた。
「仕方ないじゃん。くじ引きなんだもん」
「でー、そのドレスは何なんだ」
「シェークスピアの悲劇のヒロインのだとか」
「あーそう・・・なのになんでこの歌なんだよ、訳がわからないな」
「ところでウォリックの義父上はどうしたのさ」
「なんだか知らんが、新しい料理の研修しに行くとか言って出かけた」
「泊まり客来たらどうするつもりなのさ」
「俺だって調理師免許はあるんだぞ」
「兄上の料理―、パンやお菓子はともかく、まともなの作れるの、マジで」
「うるさいよ」
レイチェルがピアノの前にいた。
「ねえ、この曲でいいの、えーっと唯一度、だっけ」
「そう、それ」
唯一度、二度はない
あまりに美しい 金色の輝きが・私をてらす
ドレスの裾を持ってくるくる踊りながら、それを歌う少女に見える人。扉が開いた。
「ホントに来られるなんて、思わなかった」
笑顔を浮かべてその人がいた。エドワードもドレス姿の人も最敬礼をもって彼を出迎えた。
「何の歌、リチャードくん」
「ああ、これは・・・唯一度って・・・いう・・・」
「そのまま聞かせてくれるかな」
「はい、殿下。えーっと、コレ、お祭りなので、お芝居するから、こんな格好、ちょっと恥ずかしいな」
「そう、エドマンドと二人だけなんだ、今回は」
「えっ・・・」
おいでと手招きされた人。
「弟のエドマンドだよ、君達の先祖になるね」
「え・・・兄上、この人達・・・」
「おまえのひ孫だよ。二人男の子が生まれてね、二人目の子の・・・孫になるんだ。三代目ヨーク公の子ども達」
「じゃあ、ここは未来の」
「不思議野って呼ぶ・・・それでよろしいでしょうか、ひいおじいさま」
おなじ年くらいにしか見えない人にそう言われてエドマンドは戸惑う。
「ごゆっくりおすごしください。ひいおじいさま」
「うふふ、エドマンド、不気味かな、もしかして」
「いいえ・・・不思議野なのでしょう、ここにもう一度来たかったって兄上」
「いい思い出があるんだよ、あの時はトマスもいたんだ、父上もここに来たことあるんだよ」
微笑んで彼が立っていた。
「二日間だけ、健康を取り戻すことになります。お望みの食事はございますか」
「それはもちろん、あのポリネシアの、蒸し焼きがいいな」
ブラックプリンスの柔らかい微笑み。
「かしこまりました」
エドワード四世がそう返事をした。
ジョージが兄のエドワードに話しかけてきた。
「これが最後なんだよ、ネッド」
「ジョージ・・・」
「亡くなる寸前の殿下だよ」
「・・・解った・・・ただ、あいついないから碌なものじゃないけど」
「いやーいない方が平和だろ」
「そりゃ言えてるな」
二人の視線の先、末弟リチャードが笑っていた。
「もう一度、これでいいのかな」
「この曲、おもしろいね」
唯一度、二度はない
おそらくは夢か
明日には消えている
夢のような・・・ひととき・・・
リチャードと黒太子が二人で歌っていた。皮肉な歌詞だ、とジョージは思う。金色の輝き・・・と夢とそして・・・帰らない過ぎた日々。
ポリネシアの料理と快適なベッド、焼きたてパンを提供する朝食を味わった後、彼らは帰っていった。
六月のカレンダーが揺れていた。
ブラックプリンス、逝去。六月八日に。
金色の輝きが私をつつむ
ただ一度、二度はない・・・
春は二度とない、夢のようなひととき・・・
歌は
1931年ドイツ映画「会議は踊る」より 唯一度だけ より