-
-
無事、開業した白薔薇亭。設計からして大もめにもめたが、それはまた後ほど。
「なんでこーなったんだ・・・」
その昔、リチャード三世オタクの非難の的になったクロスビーホール改造後の様なデザインに、当人たるリチャード三世が爆笑したのは、いいとして。 テューダー朝の建物風にしたのは、どこの誰だ。ローン払い終わったら、絶対、名前に似合う麗しい館に改造してやるとオーナーのエドワード四世は思ったのだが。
もう一人のオーナー・ウォリック伯爵・リチャード・ネヴィルは料理以外一切タッチしようとはしない。
ぼっけり庭を歩いていたら、エドワードはずぼっと穴にはまってしまった。
「誰だ、こんなところに穴なんか掘ってっ」
「すみません、料理長が、掘っておけと言いましたので」
ウェイター兼ソムリエとして雇ったスタッフがそう言う。
「料理長が穴・・・?」
「第一号のお客さん、もうすぐ到着するそうですよ、オーナー」
「へ」
「クラレンス所長のところのラボに研究のために招いた御方で・・・」
「ジョージが」
「ええ、なんでもガーターがどーのこーのって」
「靴下止めがどうしたって?」
「さあ、何の事やら・・・」
「兄上っ、大変ですっ、ウォリック伯を止めて下さいっ」
見かけ年齢十二歳なんていう変な目にあい、ジョージの友人の所に養子に行った末弟、リチャードが駆け込んで来た。
「・・・何したんだ」
「いいから、その穴からさっさと出て下さい」
「どうやって、だ、さっきからがんばっているのだが、出られないんだ」
「え」
「ロープ持ってきます、待っていて下さい、オーナー」
ウェイターの彼が走り去っていく。
「何をしようとしているんだ、あいつは」
「すっごくいいタロ芋とバナナの葉が手に入ったって喜んでいるんです」
「そーか、それは良かったな」
「よくありません」
「何故だ」
「だって、ガーター騎士団創立のお歴々なんですよ、かの有名なブラックプリンス・エドワード殿下とそのおとり巻きなんですよ・・・」
「・・・マジかよ」
「だから、早く、ウォリック伯を止めて・・・」
リチャードの頭をちょんとつつく人。
「あ・・・」
「・・・この人がここのオーナーなのか」
「そうです、エドワード殿下」
「君さ、話に聞くとエドマンドのひ孫だろ、そして王位にも就いたという」
「・・・僕たちは・・・その殿下と違って、えーっとその・・・上手く説明出来ない、兄上―」
「・・・俺も出来ないんだよな、何故父上が挙兵したのかチンプンカンプン・・・」
「いつまで、その穴にいるつもりなのさ、エドワード君は」
「・・・さあ・・・」
「すいません、オーナー、はしごがありましたっ」
はしごを使ってエドワードが穴から復帰してきた。土まみれだった。
「兄上、その格好では」
「わかった、リチャード、殿下を頼むな」
「えーっ・・・殿下・・・」
「何かな」
「何が出てきても堪えて頂けますか」
「は」
「今晩の食事です。何が出てきても我慢して下さい・・・ごめんなさい、ここのシェフ、へんちくりんなものにはまっちゃって・・・滅多にフレンチのフルコース出てこないんです」
「・・・変なものって食べられないものじゃないよね」
「虫とか蛇とかトカゲとか蛙とかは止めましたから、大丈夫ですっ」
「それ、食べものじゃないよ」
「いえ、地方によっては立派な食べ物です」
「ああ、そう・・・」
「辛いものは駄目でしたら、今のうちに・・・あー今日は大丈夫かな・・・」
「今日は・・・って」
「ウォリック伯ってどーも、兄上に一物あるみたいで・・・」
「ウォリック?」
「あートマス殿の子孫、アンの婿で、ネヴィル家の人です」
「そう・・・なんかいやな予感が・・・」
「部屋にご案内します」
「君はスタッフじゃないの?」
「違いますよ、近所の大学に通っている学生です」
「そう・・・」
案内した部屋は天蓋付きのベッドや従属した部屋のある一番豪華な部屋だった。
「ここで、おくつろぎ下さい」
「ありがとう」
「・・・堪えて下さいの意味、やっと解った・・・」
バナナの皮に包まれて蒸し焼きにされた食材をサバイバルナイフ片手にもち、切り分けて、手づかみで食事をする黒太子の姿にヨーク三兄弟は頭を抱え込み、ウォリック伯リチャード・ネヴィルはご機嫌だった。
「でも・・・結構いける・・・コレ」
「お願いですから、元に戻ってもこの料理が食べたいなんて言わないでくださいよっ、聞いてますか、殿下っ」
ウォリック伯・トマスの忠告は・・・届いたかどうかは知らない。
二晩目。ブラックプリンス一行は暫く宿泊するという。ポリネシアンの次は何が出されるのか、それは解ったものじゃない。
リチャード・ネヴィルはレシピをあーでもないこーでもないとやっていた。それこそ近寄るな、下手に近寄ると張り倒すぞ、のオーラを全身くまなくまといながらも。
「恐ろしい・・・」
エドワードはそうつぶやいた。計算すると大学側から払われる代金は・・・少し足りない。
「くそージョージに請求したる」
おもてなしは国王時代、いやって言うほどやってきた。事実大好きだ。客人をもてなし、楽しむのは。
だが・・・料理人がアレだと、おもてなしなのか拷問なのか理解に苦しむ。頼りにした末弟は一日目が終わった時点で、いなくなっていた。大学の講義とテストがあるとか言って、白薔薇亭から自宅に戻ってしまった。
頼りにしたい所だが、ジョージもリチャードもかつての世界では舅にあたるウォリック伯を恐れてか、もう嫌だ、と言ってさっさと失せてしまった。
「よしっ、決めたっ、日本料理でいこうっ」
ただし、マタギ料理・・・。
「これ何」
「イナゴです。佃煮にしました」
「虫は出ないって・・・」
「あー・・・南方ジャングルの木食い虫の生とまむしの蒲焼きと・・・トカゲの丸焼きはやめておきましたから」
出す気だったんかいっ、あんたは。
「立派な蛋白源です。栄養もたっぷり。精力もつきますが・・・従弟がとめましてね」
「あ、そ・・・」
ええい、ままよっとイナゴの佃煮を・・・お気の毒なブラックプリンスは口にしてみた。
「アレ・・・これ、エビみたいだね」
「結構、いけますでしょ」
では、この鍋料理をどうぞと差しだそうとしたが、エドワードが横からさらって、スタッフルームに持っていってしまった。
「あーせっかくの熊鍋っ・・・」
「へ、熊っ・・・熊って言いませんでしたか」
トマスがそういう。
「はい、言いました、ちっ仕方ねーなー、猪の鍋にするか、まったく」
「こ、こわい・・・この宿・・・」
どうみてもその辺の葉っぱの天ぷらにしか見えない天ぷら、実は山菜と野草の天ぷらだ、に、訳のわからない白い和え物、イナゴの佃煮、キノコご飯・・・に獣肉の鍋。
「殿下っしっかり、いったいどうしたのですかっ」
「あ、いけね、ピーマンと青唐辛子、間違えた・・・」
リチャード・ネヴィルのつぶやき。そして火をふくよーな激辛に悶絶するブラックプリンス。すかさず、ネヴィルはマンゴーのジュースを差し出し、手渡した。
「アレ、治った・・・」
「すみませんねー、コレはオーナーのものと交換してきますね」
サラダのボールをとり、キッチンに彼は引っ込んだ。スタッフ用に取っておいたサラダと変えた。変える前にピーマンをつまみ食いして確認してから、であるが。
「このスープ、結構いける・・・」
「殿下・・・お願いですから・・・」
材料になる味噌・醤油・タロイモ・バナナの葉は十四世紀イングランドにはない。それをトマスはふとした事で知ってしまっていた。
「え、なんで、駄目なのか、結構・・・」
「ここでしか食べられません」
「シェフ、頼みがあるんだけど」
「何ですか」
「夕べの料理、もう一度食べたいんだけど・・・出来るかな」
「あー明日でよろしかったら」
「え。あの穴ならもう埋めてしまいましたよ、オーナーが」
ウェイターの言葉。びきっ。リチャード・ネヴィルは食堂から去るとスコップ片手にオーナーの部屋へと走っていった・・・。
「・・・エドワード君、無事だと思う、トマス」
「無理ですね・・・あの様子では」
「リチャードーーーーっ、てめーーーーっ宿潰す気かーーーーーっ」
エドワードの絶叫が響いていた。
「うるせーーーっ、とにかくあの穴、もう一度、掘れっ。リクエストでポリネシアン、出すんだからなっ」
ドタバタ。
「賑やかですね」
「楽しそうだね、エドワード君」
「いえ、アレは・・・」
その後には何が出るか。ガーター騎士団ご一行様は非常にびくついていた。さて、どうなるか。
トマスは出かけた。どこに出かけたかは誰にも告げなかった。コロニー内には様々な衣装を着た人々がいる。時間移民たちはかつての衣装を着ていたりする事もある。ここは大学だ。さて。
「どこにいるか・・・スキップ学生と聞いたが・・・」
小学生がここにいる事はあまりないだろう。大学の構内には小学生みたいな体格の学生はほとんどいなかった。片っ端から当たってみようと思ったその時。
「マイクー、今度の・・・アレ、たしか・・・」
小さな子がトマスに気付いてくれた。
「どうしたんですか、殿下お一人にして大丈夫ですか」
「五人ほどで来てますから、お気になさらずに」
エドワード殿下の弟の直系子孫。だから、トマスの言葉使いは丁寧だ。
「もしかして・・・またネヴィルの」
「そうです・・・今日のメニューはタイの宮廷料理だそうです」
「あー、それならトロピカルフルーツジュースと交互に飲んだり食べたりすれば、何とかなりますよ」
「・・・止めて下さらないんですか」
「それは正直言っていやですねえ。あの二人の喧嘩に巻き込まれるのは目に見えていますし・・・それに・・・思ったよりも殿下はお強いと私は思いますけど」
「でも」
「これでも精一杯、つとめましたよ、虫・・・イナゴはともかく、蛇とトカゲと蛙は出ませんから。蜂の子とかサソリの唐揚げとか、コオロギの唐揚げは阻止しましたでしょ」
「・・・勘弁して下さい」
「無理ですよ、あの人は僕にとっては育ての親なんです。義理の父でもありますし」
「兄上の事は」
「義父と楽しんでるんでしょ、ほっとけばいいんですよ、どうしても食べられなかったら、大学のカフェテリアに逃げ込んで・・・請求書をクラレンス所長にまわしてください。それ以上は無理です」
「楽しんで、ねえ」
「食の限界に挑戦しているんですよ、あのシェフは」
「楽しまれても困ります」
「僕は義父が人生を楽しんでいる事をよろこばしく思ってます。それよりも・・・殿下はどうされてますか、朝食がまともなのは知ってますが」
「・・・殿下」
トマスは戻って行った。
「ここの食事、結構楽しいよ、大丈夫。それより、あの二人、面白いよね」
そう言って指さす先にどつき漫才繰り広げているエドワード四世とウォリック伯・リチャード・ネヴィルがいた。
「いい加減にしろよ」
「俺はコレでも二度目の人生を楽しんでいる。世界には色んな飯があって実に楽しい」
「いい迷惑だ」
「客に聞けよ」
「殿下」
「ね、楽しいだろ」
「・・・そうですね」
はあ。駄目だ、こりゃ。
「帰ってもここの料理懐かしくなりそうだ」
「そんなもんですかね」
そしてそれは口コミをよび・・・人気を泊することになる。そして、もう一点。リチャード・プランタジネット、リチャード三世元国王が勝手に作ったサイトにはこの文句が・・・
「あなたの運を試しませんか、素敵なディナーに巡り会えた御方はとても素晴らしいことが今後あることでしょう」と。
「あんの、馬鹿がーーっ」
エドワード四世はそのあおり文句にも、怒鳴り声を上げていた。それを見たリチャード・ネヴィルは・・・
「いいキャッチコピーだな、言い得て妙だ」
「アンタがあんな料理提供するからーーーっ」
「またやってる・・・トマス、楽しそうだね」
「はあ・・・」
私の子孫はとんでもない男と結婚したんだなと・・・トマスは思った。