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    • 「リチャードはどこに出かけたって?」
      リース夫人に聞くと彼女はにっこり笑って答えた。
       「カンタベリーよ」
       「なんで、また」
      エドワードは不審そうな顔をした。
       「マークス元帥の後釜が決まったのよ。その御方がカンタベリーにいらっしゃるの」
       「なんで、あいつがその人の相手を」
       「あら、この方面の防衛本部長よ、あの子。前線には出られないけど。予備役だけど、このあたりは要請がなければ、平和でしょ」
       「宇宙軍に籍あったのか」
       「一度、コニーと練習機に乗ったことがあってね、割合、撃墜率が高かったのと作戦理解度が高かったため、マークス元帥が組み込んじゃったのよ、身体の事があるので、前線には出られない事は幹部も承知しているわ」
       「そりゃまあ、あれも軍人だったし・・・でもいいのか」
       「地球上なら発作は起きないわ。それはレイモンも確認しているし、ここならあの子、自分の身は自分で守れるわよ」
       「・・・それって」
       「コニーが教え込んだもの」
       「恐ろしい」
      コニーは戦闘能力が一段と高いと評判の女でリチャードの義理の姉でもあり、リース夫人の実娘である。


      カンタベリー。大聖堂の中。その人は長いマントをしていた。宇宙軍の礼服をまとっている。その礼服には豪華な刺繍が施してあり、袖、肩には最高位の将軍のみが着装を許された章がある。
       「ここではないはずだ」
       「無理ですよ、あなたの人気では・・・無理です」
       「君も無理だったのか」
       「僕のは五百年後の国民が願いを叶えてくれました。北部よりの町ならレスターでもヨークでも構いません」
       「北部より、か」
       「僕の故郷ですから。妻と子ども達と暮らした懐かしく平和なひとときを過ごせたところですから」
       「その制服は」
       「ええ、同じ宇宙軍のものです。ただし、僕は佐官に過ぎませんが」
      マントと制服は同じだが、肩と腕の章は違っているし、刺繍は肩から胸にかけてのみ。
       「私に出来ると思うか」
       「あなたなら出来ます」
       「リチャード三世、だったな」
       「ええ、それが何か」
       「いいのか」
       「僕はイングランドも、この大地も好きですよ。あなたは・・・違うのですか」
       「違わない・・・でも、いやなものだな」
       「守る為だけの軍隊です。閣下」
       「守る為・・・か」
       「人民の暮らしを守る為だけのものです。仮想敵国も敵国もありません。ただ、中に抱え込んだ問題・・・のためとご理解頂ければ」
       「同胞に向けて矢を放つのか、それは苦しい事だな」
       「力無き庶民をわけもなく殺すのは同胞とは考えたくありません」
       「そうだな」
      彼はカンタベリーに葬られているかつての英雄、百年戦争での有能な指導者でもある黒太子の墓標にそっと触れた。
       「複雑な気分だ」
       「お気持ち、お察しいたします」
      リチャードはそっとその場を離れていった。
       「あと暫くしたら、白薔薇亭にも行く。兄君たちにもよろしく伝えてくれ」
       「はい、閣下」
      聞き慣れない「閣下」の呼び名に彼は眉をひそめ、そしてふわりと笑った。
       「ここでは身分は・・・ないのだな」
      頬に長い黒髪が揺れた。聡明な顔を上げ、彼は大聖堂の窓を見上げていた。

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