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    • 「マジ、でか」
      ジョージの抱えるスタッフにはたまにとんでもない事を言い出す者もいる。
       「だかーらーなんで靴下止めなのか、聞きたいんですよ」
       「・・そんなん・・・」
       「円卓なのも聞きたい」
       「・・・碌な答えないと思うけどな・・・」
      わが先祖ながら、嘆かわしい、と思ったかどうかは知らないが。面白いから、許可しちゃえ、相変わらず少々軽はずみなジョージ・クラレンス、旧姓プランタジネット、第三代ヨーク公爵の公子。成人し、なおかつ結婚まで出来た三人の公子のうちの一人。エドワード三世の五男エドマンドの次男のひ孫、であった。つまりはエドワード三世から見れば玄孫である。

       「エドワードに聞いてはいたが・・・」
      白い薔薇が香る庭。
       「あーーーっそこは危ないですっ、陛下っ」
      ずぼっ。
       「陛下っ」
      横にいた王妃も声をあげた。
       「大丈夫ですかっ、陛下っ」
      黒髪の少年がそう声をかけた。
       「なんとか。この穴は何なんだ」
       「今日のディナーのための穴です、陛下」
       「は、ディナー・・・」
       「留守番いいつかりました、ここの主と料理長に。私はリチャード・リースと申します」
       「そうか」
       「申し訳ありません。お怪我はございませんでしたか」
       「いや、ないが・・・フィリッパ」
      王妃が苦笑していた。
       「はしご持って参ります。少々お待ち下さい」
      そうは言うが、リチャードの手にははしごは無理だった。仕方なくあのウェイターがまたはしごを持って走ってきた。
       「ソムリエとウェイターのために雇われたのに、何故、一月に五回ははしご運びなんだろう・・・まあ、落ちるのはいつもオーナーなんだけどな・・・」
      はしごを設置するとエドワード三世が這い上がってきた。
       「泥だらけですね、陛下、お召し物が」
       「そんなに汚れたか、フィリッパ」
       「ええ、まあ・・・」
       「ここで大概の人が来ている品物を当面にお使い下さい。ご用意整ってございます」


       「どうだ、フィリッパ、似合うか」
      見せた妻も現代的なスーツに着替えていた。膝下から脚が見える。
       「それは」
       「このリース君のお母様にお借りしましたの、ここの人達がみんな着ているそうですわ。似合いますかしら」
       「脚がその・・・」
      そうもにょもにょ言っているとある扉から出てきた初老の夫人も膝から下を出していた。
       「あーその、ここでの婦人たちはみなそうなのか」
       「はい、陛下」
      その婦人は軽く片足を引いて、挨拶をした。


       「これが噂のディナーか」
      サバイバルナイフ片手にエドワード三世王がタロイモや豚肉、鶏肉、野菜を食べている。それを切り分けては横の更に盛りつけては、妻に渡していた。
       「・・・さすがというのか・・・動じないなー」
      ミネラル成分が高いという岩塩と薫り高い黒胡椒だけの味付けだが、素材の味が生きていて割合美味だった。  「で、これはどこで作ったものか、料理長」
       「はっ、あの申し上げにくいのですが、陛下が落ちたあの穴で蒸し焼きにしたものでございます」
       「ほーあそこか」
      くすくすとフィリッパが笑う。
       「よくオーナーが落ちてますけどね、あの穴は」
      料理長が言う。
       「・・おまえが穴の位置掘る度に変えるからじゃないか」
      ぼそっとエドワードが言う。
       「うるさいぞ」
      はたと気付くとエドワード三世とその妻が期待に満ちた目で見ていた。エドワードとリチャード・ネヴィルは二人とも固まっていた。
       「・・・なんだ、これでおしまいか、エドワードに聞いたが延々楽しそうだったとか」
       「ええ、そうですわね」
      何を両親に言ったんだ、あのブラックプリンス殿はっ。


       「うーーーーっ」
      辛い。とてつもなく辛い。舌が、口全体が痛いほど辛い。酸味もある。それに不思議なうまみも。
       「これは何だ」
       「トムヤンクンと言いまして、東洋のスープです、陛下。あー我慢出来ない場合はそのジュースをどうぞ」
      グラスに入った不思議な色の飲み物。口にするとあの辛みが嘘のように消えていた。串焼きも炒め物も辛い。サラダの上には当然の様に青唐辛子。
       「腫れ上がりそうだな」
      でも飲み物を口にするとその辛みが消えていく。
       「なかなか面白い味だった」


      褒美をとらせようと彼は言う。顔を見合わせるオーナーと料理長。
       「ここでは爵位はいらないというが、私が進ぜよう、伯爵で、どうか」
       「へ」
       「領地の名前が付けられぬのなら、そなたのソレにちなんだらどうか」
      台所の棚を指さしていた。
       「あーこれは香辛料の棚ですが、陛下」
       「これなど、どうだ、ジンジャー・・・ターメリック・・・」
       「ジンジャーターメリックでいかがでしょう、陛下」
      エドワード四世がそう言った。
       「おお、それでいい。ジンジャーターメリック伯爵。よい名前だ」
      どこがやねん・・・。リチャード・ネヴィルはそう思った。少しアホで天然なのは・・・さすがだけど。


      翌日から掲げられたその称号にリチャード・ネヴィルはちょっとだけ落ち込んだが、翌月には立ち直り、スパイシーな料理の研究にますます励むのであった。
       「リチャードーっ、てめー、ポリネシアンの穴の位置、いちいち動かすなよっ、危ないじゃないかっ」
      オーナーが今日も穴の中からわめいていた。


       「そこに落ちるのは何故かエドワードって名前持ってる人間だけなんだよなー、さすがにブラックプリンスは落ちなかったけど」
      ぼそりとリチャード・リースとジョージ・クラレンスは言う。ちなみに今まで落下したエドワード君は・・・、三世王、四世王、五世王、ミドラムのエドワード、そしてプランタジネットの名字ではないエドワードが数人だった。


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