• 白薔薇亭へようこそ・外伝INDEX
  • 白薔薇亭のお客様
    白薔薇亭の料理長
    白薔薇亭のお客様・ラストダンスは私に
    白薔薇亭へようこそ・白薔薇亭のお客様・ファランドール(王様の行進)
    もしも私の望みが叶うとしたら
    ベクトル
    カテドラルの窓
    疎水(抜粋)
    唯一度の
    • 白薔薇亭のお客様・ラストダンスは私に
    • 「今度こそお守りする・・・」
      トマスはそう誓っていた。白薔薇亭のとんでもない料理から。うっかりしていたら、殿下が先に・・・という悲劇を何度も味わったのだ。
       「トマス殿」
      リチャードが話しかけてきた。
       「何ですか、何か用ですか」
      少しつっけんどんになってしまうのは、どうにもならない。
       「もしも・・・いえ、辞めておきますか」
       「そんなにあのネヴィル家の人が怖いですか」
       「まあ、それもありますけれど、兄があまりにしょぼくれているので、あの料理長の肩持つのやめました」
       「・・・それはまた・・・」
       「でも、今晩の料理は・・・あなたが身体はってくださいね。激辛なんです。青唐辛子どころじゃない・・・、なので殿下をお借りします。殿下にはあの料理は無理だと僕、思いますし、最後の晩くらいまともな料理を・・・とさすがの僕さえ思いますので」
       「は」
       「殿下をお借りしますね」
      そう言うとリチャードはエドワード黒太子を連れてどこかに行ってしまった。


       「トマス、大丈夫かな」
       「殿下だけでも守れますから。ここなら大丈夫ですよ、ねえ、母様」
       「・・・そんな高貴な御方にお出しするような料理作れませんわよ」
       「白薔薇亭のシェフより母様の方がまともですもん」
       「・・・それは確かにね」
       「イナゴ、出しちゃったんですよ、母様」
       「・・それは災難だったわね、まずはこれをどうぞ」
      アフターヌーンティーセットをジゼルはテーブルに並べた。
       「綺麗・・・」
       「半分以上、買ったものですけどね、スコーンとクッキーは私の手作りですのよ、あとサンドイッチ・・・これ、ですわね」
       「これ・・・ですか」
       「キュウリのサンドイッチね、では、お茶をどうぞ」
      マイセン風の華麗なティーカップ。
       「紅茶といいましてね、元々は東洋の飲み物なんです。普通はアフターヌーンには出しませんけれど・・・この紅茶の銘柄はプリンスオブウェールズと言いますのよ」
       「プリンスオブ・・・では、これ」
       「イギリスの風習です。殿下の時からそう三百年以上経ってから生まれたものですわ」
       「ありがたくいただきます、夫人」
      にっこりと微笑んだ百年戦争の英雄はジゼル・リース夫人も魅了していた。


      さて、その頃の白薔薇亭。
       「殿下は・・・どちらに」
      エドワードの言葉にトマスは小さく囁いた。
       「弟君に預かって頂きました。明日の朝まで戻りませんから」
       「今夜が最後だと聞いたけれど」
       「ですから、余計、なんです、私が何とでもいたしますから」
       「まー頑張ってね・・・」
      リチャード・ネヴィルが張り切って出した料理にガーター騎士団ご一行様は悶絶し・・・何せ激辛のエスニック料理・・・。
       「これは何ですか」
       「モモといいましてね、餃子みたいなもん」
       「こっちは・・・」
       「いわゆるパスタ料理・・・」
       「オーナーは何をしているんです」
       「明日のパン焼いてますから」
       「あーそうですか・・・」
       「ツァンパ(麦焦がし)、もう少しいかがです、それとこのチャン(どぶろく)も・・・」
       「はあ・・・」
      トマスはお腹を壊した。チャンは・・・慣れないとくだしやすい、と言う。特にヒマラヤ地方で現地民に好まれるものは慣れない人間には・・・疫病にかかったかと思われるほどの・・事になる。それを率先して飲みまくったのだから・・・当然と言えば当然だったのかも知れない。


       「え、二晩トマスだけ延びちゃったの・・・」
       「一緒に戻れなくてすみません、殿下・・・」
      ベッドの中で大泣きのトマスをどう慰めていいのか、黒太子は顔をしかめていた。
       「殿下はご無事ですか」
       「まあ、その・・・リッチー君の養子先のお母上って御方、料理上手でね・・・なかなか快適だったけど・・・まさか、ねえ」
      リース家の客間もまた実に快適だった。それはトマスには言えない。質素だが清潔な家。朝食もアフタヌーンティーも夕食も見事なものだった。
       「予定通りお戻り下さい。殿下、陛下も心配なさるでしょうし・・・いててて」
       「んーでも・・・」
       「セッティング出来ました、殿下、お戻りを」
      クラレンスラボのスタッフの声がする。十四世紀に戻る時が来たというのだ。
       「トマス、ごめんね」


       「うーーーー」
      お腹抱えて呻いていたが・・・点滴と抗生物質でトマスは全快し、やっとこさっとこ戻って行った。


       「トマス」
       「何でしょうか」
       「ポリネシアのあの料理、もう一度食べたいなあ・・・」
       「勘弁して下さい・・・」
      白薔薇亭は二度と行きたくないです・・・私は。

  • BACK
  • NEXT
  • TEMPLATE PEEWEE