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「今度こそお守りする・・・」
トマスはそう誓っていた。白薔薇亭のとんでもない料理から。うっかりしていたら、殿下が先に・・・という悲劇を何度も味わったのだ。
「トマス殿」
リチャードが話しかけてきた。
「何ですか、何か用ですか」
少しつっけんどんになってしまうのは、どうにもならない。
「もしも・・・いえ、辞めておきますか」
「そんなにあのネヴィル家の人が怖いですか」
「まあ、それもありますけれど、兄があまりにしょぼくれているので、あの料理長の肩持つのやめました」
「・・・それはまた・・・」
「でも、今晩の料理は・・・あなたが身体はってくださいね。激辛なんです。青唐辛子どころじゃない・・・、なので殿下をお借りします。殿下にはあの料理は無理だと僕、思いますし、最後の晩くらいまともな料理を・・・とさすがの僕さえ思いますので」
「は」
「殿下をお借りしますね」
そう言うとリチャードはエドワード黒太子を連れてどこかに行ってしまった。
「トマス、大丈夫かな」
「殿下だけでも守れますから。ここなら大丈夫ですよ、ねえ、母様」
「・・・そんな高貴な御方にお出しするような料理作れませんわよ」
「白薔薇亭のシェフより母様の方がまともですもん」
「・・・それは確かにね」
「イナゴ、出しちゃったんですよ、母様」
「・・それは災難だったわね、まずはこれをどうぞ」
アフターヌーンティーセットをジゼルはテーブルに並べた。
「綺麗・・・」
「半分以上、買ったものですけどね、スコーンとクッキーは私の手作りですのよ、あとサンドイッチ・・・これ、ですわね」
「これ・・・ですか」
「キュウリのサンドイッチね、では、お茶をどうぞ」
マイセン風の華麗なティーカップ。
「紅茶といいましてね、元々は東洋の飲み物なんです。普通はアフターヌーンには出しませんけれど・・・この紅茶の銘柄はプリンスオブウェールズと言いますのよ」
「プリンスオブ・・・では、これ」
「イギリスの風習です。殿下の時からそう三百年以上経ってから生まれたものですわ」
「ありがたくいただきます、夫人」
にっこりと微笑んだ百年戦争の英雄はジゼル・リース夫人も魅了していた。
さて、その頃の白薔薇亭。
「殿下は・・・どちらに」
エドワードの言葉にトマスは小さく囁いた。
「弟君に預かって頂きました。明日の朝まで戻りませんから」
「今夜が最後だと聞いたけれど」
「ですから、余計、なんです、私が何とでもいたしますから」
「まー頑張ってね・・・」
リチャード・ネヴィルが張り切って出した料理にガーター騎士団ご一行様は悶絶し・・・何せ激辛のエスニック料理・・・。
「これは何ですか」
「モモといいましてね、餃子みたいなもん」
「こっちは・・・」
「いわゆるパスタ料理・・・」
「オーナーは何をしているんです」
「明日のパン焼いてますから」
「あーそうですか・・・」
「ツァンパ(麦焦がし)、もう少しいかがです、それとこのチャン(どぶろく)も・・・」
「はあ・・・」
トマスはお腹を壊した。チャンは・・・慣れないとくだしやすい、と言う。特にヒマラヤ地方で現地民に好まれるものは慣れない人間には・・・疫病にかかったかと思われるほどの・・事になる。それを率先して飲みまくったのだから・・・当然と言えば当然だったのかも知れない。
「え、二晩トマスだけ延びちゃったの・・・」
「一緒に戻れなくてすみません、殿下・・・」
ベッドの中で大泣きのトマスをどう慰めていいのか、黒太子は顔をしかめていた。
「殿下はご無事ですか」
「まあ、その・・・リッチー君の養子先のお母上って御方、料理上手でね・・・なかなか快適だったけど・・・まさか、ねえ」
リース家の客間もまた実に快適だった。それはトマスには言えない。質素だが清潔な家。朝食もアフタヌーンティーも夕食も見事なものだった。
「予定通りお戻り下さい。殿下、陛下も心配なさるでしょうし・・・いててて」
「んーでも・・・」
「セッティング出来ました、殿下、お戻りを」
クラレンスラボのスタッフの声がする。十四世紀に戻る時が来たというのだ。
「トマス、ごめんね」
「うーーーー」
お腹抱えて呻いていたが・・・点滴と抗生物質でトマスは全快し、やっとこさっとこ戻って行った。
「トマス」
「何でしょうか」
「ポリネシアのあの料理、もう一度食べたいなあ・・・」
「勘弁して下さい・・・」
白薔薇亭は二度と行きたくないです・・・私は。