06. ある晴れた日に
けれどそれは私には終わりの日
それは美しい日…
窓側の桜のつぼみを見る。まだふくらみは硬い。この施設に移されてから、もう半年。見舞いに来るものは月日が経つ毎に減っていき、近藤さえも訪れるのが稀になった。土方は…一月に一度しかやってこない。
「待っているなんて嫌いだ」
新八に八つ当たりしてみるけれど。
「沖田さん」
「旦那は…どうしている」
「あの人は変わらないですよ」
「船で来るしかないんだよね、ここ」
ぽつんと言う。
「窓の向こうに港が見えるんだ、知らねえだろ」
「え」
立ち上がって窓によると港が見えた。
「あそこから来るんだよ、あんたも見えたんだ、あそこからはしけが見えて…奥に泊まっているのが、本船。見舞いには泊まりがけになるんだ、あの本船のがすと」
「そうですか」
「だから、もういいよ」
「はい、ありがとうございます」
窓の外を見たまま、彼は振り返らない。新八はそのまま、そっと帰って行った。
「どうだった」
「待っていますよ、誰かを」
銀時は溜息をついた。
「明日にでも行くように説得するよ」
「そうしてください」
「俺は行かない」
「行くって返事しちまった」
「万事屋っ」
「いいから、いいから」
副長を引きずって万事屋は屯所から出て行く。そして港に向かう。三時間、船に乗った先に、あの島がある。
「どの顔して会えばいいんだ」
「医者から連絡があってね…いまのうちに会わせたい人に会わせておいておけって」
その言葉に目を見張る。
「危ないんだって、もう」
「そうか…」
空気が綺麗なところだから、と送り出して、半年。結局回復が叶わない。
「船だ…」
「そうね」
看護婦はそう言った。
「桜も咲いたし、いいことあるかなぁ」
少女のような顔立ちの、亜麻色の髪を持った人が伏せたまま、言う。
「ね」
「ああ、船の名前なら…」
その日に到着する船の名前を言うと、彼は笑った。
「土方さんが来てくれた」
ずっと待っていた人の名前。初めて聞いた名前。
「どうしよう、もっとちゃんとしなきゃ」
くしゃくしゃになった髪を手で整え、それだけでも、彼には大変な苦痛を伴うのだが、構わない。
「鏡、鏡見せて」
渡すと溜息をついた。
「やつれたなぁ…」
「大丈夫よ、今日は顔色いいから」
すっと鏡を取り上げ、看護婦は枕元の花瓶の花を生け変えに外にでた。そこで銀時と土方に出会い、彼女は微笑んだ。
「お待ちですよ」
フリージアや水仙。柔らかな春の花を生け、彼女は病室に戻った。
「みえられましたよ」
うれしそうに笑った。看護婦は花瓶を置いて、静かに立ち去った。あまりにやつれた顔に土方は動揺した。
「桜、咲いたよ、土方さん」
外の桜を指し示す。やっと二輪ほど開花したばかりの桜が見えた。
「この花が咲くまでに来てくれるって言ったから待ってた…」
「ごめんな、遅くなって」
首を振る。それが最後の力だった。最後の日だった。春の日差しは美しく、桜を照らし、花瓶の花をも照らしていた…。
ある晴れた日
海のはるか彼方に
煙が一筋見え
船の姿が現れる真っ白い船が
港に入ってくる…
新しい一日が訪れるたびに
あなたの約束は薄らぐけれど
ある晴れた日に
それは叶う
でも、それは私には終わりの日
それは美しい日…。
マダムバタフライより
後書
蝶々さんは夫のために座敷に春の花を飾り、花びらをまいて帰りを喜ぶのですが、夫は彼女を裏切り、誇りを傷つけ自害させてしまうのでした…。彼女は弔いの花を自分自身で用意したのです。それとは知らずに。侍女と春の花を飾り付けながら、花の二重唱を歌うのですが、いじらしいのう。この待つ女ってミツバさんなんだけどね、イメージとしては。