05. 恋とはどんなもの

恋とはどんなものか
狂おしいこの思いが恋
とても不思議で誰かこの謎を解いてくれないか
僕を愚かにさせるものだから



 「恋なんて、一度もしたことねえや」
 「誰も好きにネ、ならなかったアルか」
 「うん、たぶん」
 「寂しいネ」
好きって。
 「近藤さんも、万事屋の旦那も好きだよ」
 「一等賞は誰ネ」
 「一等賞…」
情けなくなった。神楽に呼び出されて河原で言われた言葉は。
 「好きな人いるか」だった。
 「恋ってしたことアルか」
ないって言うのが哀しいな、と思った。でも、ないって言った。
 「神楽はアルネ」
 「え…」
 「沖田、好きネ」
ど、どうしよう。そう思った。氷が溶けるような。顔の赤いチャイナガール。顔を見合わせれば、臨戦態勢で。そう言えば。
 「俺って気に入った人間、いじめんの、好きだな」
 「え」
 「そういえば、いじめたの、女はおめーしかいねぇな」
気に入ってるんだ、このチャイナガールが。参ったな。でも。
 「神楽」
初めて名を呼んだ。
 「俺は…一年したら死ぬよ」
神楽は驚いていた。
 「誰にも言うなよ」
 「うん」
 「それでも、いいのなら」
 「うん」
女は泣かせるモンじゃない。その言葉をしみじみ味わう瞬間だった。
 「泣くなよ」
 「うん」
思ったよりも神楽は小さかった。あんなに馬鹿力なのに。なんで。生まれて初めて愛おしい、という感情が理解できた。



ただ、制服で出会って、話したことに後悔した。決して街中で、普通の人を殴ってはいけないと教えられている神楽。それを承知でつつきまわす男達。
 「真撰組の奴とでれでれしてる女だ」
その言葉を物陰から聞いて、泣きそうな神楽を見てしまった。そしてどつかれても何も出来ない神楽。
 「何とかしねえと…」
ショーウィンドウにあった外国のドレスが目に飛び込んで来た。
 「よし、決めた」
店に入って、即座に言った。
 「このドレス、くだせい」
 「えっ」



それで…試してみるって言うのか、このお人は。銀時は頭痛と最前線で奮闘した。
 「旦那ぁ、お化粧ってどーやるん」
はあっ?
 「せっかくだからあ、やってみようかなって、変?」
外国製のドレスを着て。ペチコートでふわんと広がった膝丈のタフタのスカート、サテンシルクのブラウス、幅広のベルト。かぶるつもりなのかウイッグを神楽が整えていた。
 「し、しなくても、充分綺麗」
 「そっちじゃなくてー沖田に見えるかっての」
 「み、見える」
 「なら、化けるしかねーじゃん」
ど、どういう思考回路なんだ、このにーちゃんは。
 「近藤さん、あんた、どういう育て方したんだよ」
 「そんなこと言われてもなあ」
呼び出されて、局長は唖然。万事屋のチャイナと付き合うことにしたからという総悟の言葉に驚いたばかりなのに。こうきたもんだ。
 「これなら、俺だってわかんねぇよな」
くるり。お化粧していた。化けた。すごい美人に化けていた。
 「なんか悔しいネ、総悟の方が美人ネ」
 「俺とでれでれ歩いてると神楽がひどい目に遭うぜ。制服着ていたり私服着てたりしてでも、残念ながら、俺目立つから」
 「うん」
 「これなら女二人が歩いてるだけに見えるぜ、デートって感じにゃ見えねえけど」
 「どーして、嫌くないか」
 「このくらい、どうってことねーよ。おまえ普通の人間殴れねーじゃん、あんな顔されるのは、彼氏として不本意だぁな」
 「見てた、か」
こくんと頷く総悟。
 「真撰組の沖田の女となりゃーいくらでも火の粉来るぜ、少しはガードしとかねぇとな」
 「これで褒めてやっていいのか、すげえ複雑、彼女を護るなんて偉いぞと言ってやっていいものか、この手段じゃ…」
近藤と銀時は顔を見合わせてそう言った。化粧顔の総悟も、近藤は見慣れてしまった、そのうちに。



 「よし、これで屯所行って試してみよー」
 「何を、ですか、総悟くん」
 「俺かどーかわかるかってとこ」
ちょっと行ってくらあ、と行ってしまった。
 「わからないほーに千円」
 「トシはわかるんじゃねーかな」
 「鬼の副長は除く」
 「賭けにならんな」
 「みてーだな」
 「大丈夫アルか、総悟」
 「たぶん…」



門番からして、こう来たもんだ。
 「なんだぁ、女、何の用だ」
あっそ。それでも振り切って中に入ると、残念ながら山崎まで解らないときたものだ。
 「ここをどこだと思ってる、用がないなら出て行け」
一番隊で、一番の側近…までが。で、副長。
 「何やってんだぁ、総悟、気色悪い」
 「ふーーーん、そう来たか、死ねっ土方っ」
どっこーんっ。
 「え、えっ沖田隊長、うそーっ」
大騒動没発。



解らないほーだったよ、と総悟が言う。
 「うーん…それはそれで頭痛がするな」
と近藤。
 「土方さんだけ解った」
 「トシだけか」
こくん。まだあの格好のままだ。
 「総悟、膝」
神楽に言われておっぴろげていた脚を閉じた。
 「ふーん…態度からも女に見えねえとまずいか」
 「そうネ」



それはそうだけどね。練習するなーっ、屯所の中でーっ。しかも、段々ヒールの高い靴など履いたりして。じろじろ見ると怒るし。見取れると気持ち悪いと切れるし。
 「差物下げらんねーのが不便だぁな」
その格好で下げる方が…西洋人形の様なのに。何故かお気に入りはペチコートで広がったスカート。それとミニタイト。それもどこか、アンドロイド風の。よくわかんないよ、このお人。それなのに。
 「総悟」
 「おー」
窓越しであのチャイナと談笑。何か受け取ったり、渡したり。うっかり聞き耳たてて聞いてしまった山崎曰く。
 「彼氏と彼女の会話でした」
ええええっ。



そのスカート姿のまま、机で鼻歌を歌うけど、恋歌ばかり。恋とはどんなもの、という歌詞が聞こえたり。お赤飯ものなのか、と近藤は言うけれど。
 「神楽、屯所に来るなら一人で来るなよ、定春に乗ってこいよ、あいつがいれば、変なの近よらねーだろ」
 「解ったアル」
 「気をつけろよ、前にも言ったけど、俺等はあまりよく思われてねーんだ、俺に危害を加えたければおまえを使わねえってことはねえんだからな」
その言葉、言うのはいいけれど。お化粧して、そこらの美人モデルよりも美しく装った顔で真顔になられても。なんかね、
 「うん、またネ」
キス。制服だろうが、女装だろうが、構うこっちゃない。
 「うう、俺も彼女欲しいなあ…」
気の毒な隊士達の言葉。それをくすっと笑って余裕をかます一番隊隊長殿。
 「欲しけりゃつくれば、いいじゃん」
超弩級美人に化けたまんま言われても。なんか、ねえ。



けれど、その美人は半年後、病院に入院した。しかも屯所からではなく、万事屋で具合が悪くなって、銀時に連れられて入ったという。
 「見舞いに来るな、そうですよ」
万事屋がそう言った。
 「チャイナは」
 「付き添っているよ。そばにいるんだとさ」
 「そうか」



病気の事は万事屋のチャイナにしか、言わなかった。それが近藤と土方にはショックだった。
 「内緒ネ、妻の勤めネ」
そう万事屋のチャイナは言う。神楽と名前を呼んでいた。そう思い出す。今はもう誰も座らなくなった席に、花束の飾られたあの席にあの美人に化けて鼻歌を歌っていた細い背中を思い出す。



恋とはどんなものかしら
狂おしいこの思いが恋というのかしら
誰かこの不思議なものの謎を解いて
何故こんなに愚かになってしまうのかしら



私はこの佳き日にあなたと出会ったの
あなたは私の心をとっていってしまったの
神様、恋とはどんなものかしらと訪ねたい
日の元でみんなに聞きたいの

どんな時にも聞きたいの
恋とはどんなものかしら