01. 雪の降る日に
ぶるっと震えて、布団から這い出ると、外気はきんと冷えていた。
「寒っ」
裸体にはきつい寒さだった。そばにあった物をたぐり寄せ、肌につけると、大きかった。
「ちっ」
先ほどまで総悟の身体を求めた男のものだ。布団にくるまって眠っている。
「いい気なモンだなぁ」
人を女みたい扱って。そう思ったら、涙がこぼれた。女じゃないのは解っていた。女扱いなら、遊郭にでも行けばいい。実際、土方は商売女のところにも行く。罪悪感で出かけていくことを総悟は知っている。近藤に知れてしまってから、ろくなことはない。けれど、近藤は黙っている。沈黙が怖い。
「神は沈黙する…」
どこかで聞いた言葉を口にした。
「総悟」
「へい」
起きているヘビースモーカーは布団の中で煙草を吸っていた。
「寝たばこ禁止ですぜ」
「そうだな」
そんな忠告など聞いた試しなどない。現に先ほどまで入っていた布団は上下とも焦げた痕がある。
「何度言ったら…直るんですかぃ」
大きな土方の寝間着と丹前をまま、引っかけて、縁側の障子を開けてみた。
「通りで…」
表は雪景色になっていた。雪は総悟の親には格別の思いがあったけれど。総悟本人にはない。
「奥州の雪ってさらさらって本当なんですかねぇ」
先祖の土地の雪。一生、見ることなどあるまい、と総悟は思っている。
「雪の重みで枝が折れるっていうのは…越後か」
それも遠い知らない土地だ。引き裂かれ、悲鳴をあげて折れる枝を総悟の耳は感じていた。
「雪椿だ」
隣で抱き込んだ男が庭の一隅を指さした。罪人の様に赤い椿が、白い雪の上に落ちていた。
「はねられた首のようだな」
ああ、と思う。武士の嫌う椿の落花。
「あれみたいになれたら」
「おまえ」
何でもないです…と言うしかない。俺はいらない存在にでもなれますから。そんな言葉は言えない。言ったら…怒るのだろうか。口づけを受けながら、総悟は思った。
「去年、枯れた、サザンカあったろ、薄桃色の」
「はい」
「おまえにゃあっちの方が似合う」
消えてしまったサザンカの跡地には、まだ何もない。サザンカの亡霊を追いかけて総悟は視線を庭にさまよわせた。ただ、こんもりとした白い小さな山があるだけだった。綿菓子の様な、白い白いもの。雪明かりと言うけれど。
「こっち来てあったまろうなー」
いやだ、と言おうと思ったが、その前に布団に引きずり込まれてしまった。それでも、サザンカの亡霊を総悟は追いかけていた。雪の中にあるのか知らないけれど。
…サザンカの花びらは…総悟の棺には間に合わなかったけれど、万事屋が海外の花までなけなしの金をはたいて買い付けてぎっしりと詰め込んでいた。
「苦しそうだぞ、花ばかりで。万事屋」
「血と爆薬のにおいじゃミツバさんもご両親もたまんねぇでしょーが、だから、フローラルブーケの香りにしてやるんでね」
花の中の花。フルールドフルール。そう名付けられた香水のミドルノートにも似て、むせかえった土方はそこで泣き崩れていた。花ならいくらでもくれてやる、おまえが欲しいものなら何でも。だから…何故、あのとき、俺と近藤さんをかばったんだ…。そんな繰り言を繰り返す。
「土方氏、あんたの涙はいらねえらしいぞ」
万事屋はそう言った。いつも総悟にくれてやっていたらしい、チョコレートを万事屋はかじっていた。
「食い過ぎはまた調子崩すんだよなぁ」
「よこせ」
「やだよ、これは半分は沖田君のだもん」
そう言いながら、今度は総悟の顔に化粧を施している。土気色の見たくない顔色を変えようとしているのか、盛んに何種類ものファンデーションを混ぜ合わせたりしていた。いい色が出来たのか、それを顔に塗り、睫毛や眉毛についてしまったものを落としてから、また違う化粧ブラシで、頬の色を整えていた。
「何して」
「あーら知らないのぉ、土方氏、死に化粧っていってねぇ、みだしなみよぉ」
ふざけた言葉なれど、銀時は口紅を混ぜ合わせて、紅筆に取った。うす紅色を形のよい花びらの様な唇に塗りながら、言う。
「こうするとねぇ、まるで生きてるみたいでしょー」
目蓋にも色をさし、少女の様な顔。
「キスしちゃだめよぉー」
「するか、クソバカ」
もうすぐ、葬儀なんだぞ、ふざけやがって。が、銀時が施した化粧はまるで安らかに眠っているように見えた。いつものように交情をかわした後に寝入った顔。それによく似た顔色だった。
「どこで覚えたんだ、おまえ」
「人生いろいろだからねぇー、そうでしょーそうちゃん」
冷たい頬に銀時が触れた。殴ってやろうかと思ったが、やめた。それも多分、欲しくないンだろうな、おまえは。そう思えたから。この身体も指も。あげますよ、と微笑んだのはいつだったか、土方は思い出せなかった。
フルールドフルールとはとっくに廃盤になってしまったニナリッチの香水。花の中の花という意味です。いやーほんまに花花花花といった香りでした。つんたは同じく廃盤のニナをよー使ってます。かせてもしらないよ、な古さです。笑。山だのスキーだので色気ない癖にごくたまーにつけたりして。一度付けると三日は抜けなくて自分で苦しんだりして。布団のなかでいい香りと言うより前に「くせぇ」はやはり女としてどーかと・・・。
「寒っ」
裸体にはきつい寒さだった。そばにあった物をたぐり寄せ、肌につけると、大きかった。
「ちっ」
先ほどまで総悟の身体を求めた男のものだ。布団にくるまって眠っている。
「いい気なモンだなぁ」
人を女みたい扱って。そう思ったら、涙がこぼれた。女じゃないのは解っていた。女扱いなら、遊郭にでも行けばいい。実際、土方は商売女のところにも行く。罪悪感で出かけていくことを総悟は知っている。近藤に知れてしまってから、ろくなことはない。けれど、近藤は黙っている。沈黙が怖い。
「神は沈黙する…」
どこかで聞いた言葉を口にした。
「総悟」
「へい」
起きているヘビースモーカーは布団の中で煙草を吸っていた。
「寝たばこ禁止ですぜ」
「そうだな」
そんな忠告など聞いた試しなどない。現に先ほどまで入っていた布団は上下とも焦げた痕がある。
「何度言ったら…直るんですかぃ」
大きな土方の寝間着と丹前をまま、引っかけて、縁側の障子を開けてみた。
「通りで…」
表は雪景色になっていた。雪は総悟の親には格別の思いがあったけれど。総悟本人にはない。
「奥州の雪ってさらさらって本当なんですかねぇ」
先祖の土地の雪。一生、見ることなどあるまい、と総悟は思っている。
「雪の重みで枝が折れるっていうのは…越後か」
それも遠い知らない土地だ。引き裂かれ、悲鳴をあげて折れる枝を総悟の耳は感じていた。
「雪椿だ」
隣で抱き込んだ男が庭の一隅を指さした。罪人の様に赤い椿が、白い雪の上に落ちていた。
「はねられた首のようだな」
ああ、と思う。武士の嫌う椿の落花。
「あれみたいになれたら」
「おまえ」
何でもないです…と言うしかない。俺はいらない存在にでもなれますから。そんな言葉は言えない。言ったら…怒るのだろうか。口づけを受けながら、総悟は思った。
「去年、枯れた、サザンカあったろ、薄桃色の」
「はい」
「おまえにゃあっちの方が似合う」
消えてしまったサザンカの跡地には、まだ何もない。サザンカの亡霊を追いかけて総悟は視線を庭にさまよわせた。ただ、こんもりとした白い小さな山があるだけだった。綿菓子の様な、白い白いもの。雪明かりと言うけれど。
「こっち来てあったまろうなー」
いやだ、と言おうと思ったが、その前に布団に引きずり込まれてしまった。それでも、サザンカの亡霊を総悟は追いかけていた。雪の中にあるのか知らないけれど。
…サザンカの花びらは…総悟の棺には間に合わなかったけれど、万事屋が海外の花までなけなしの金をはたいて買い付けてぎっしりと詰め込んでいた。
「苦しそうだぞ、花ばかりで。万事屋」
「血と爆薬のにおいじゃミツバさんもご両親もたまんねぇでしょーが、だから、フローラルブーケの香りにしてやるんでね」
花の中の花。フルールドフルール。そう名付けられた香水のミドルノートにも似て、むせかえった土方はそこで泣き崩れていた。花ならいくらでもくれてやる、おまえが欲しいものなら何でも。だから…何故、あのとき、俺と近藤さんをかばったんだ…。そんな繰り言を繰り返す。
「土方氏、あんたの涙はいらねえらしいぞ」
万事屋はそう言った。いつも総悟にくれてやっていたらしい、チョコレートを万事屋はかじっていた。
「食い過ぎはまた調子崩すんだよなぁ」
「よこせ」
「やだよ、これは半分は沖田君のだもん」
そう言いながら、今度は総悟の顔に化粧を施している。土気色の見たくない顔色を変えようとしているのか、盛んに何種類ものファンデーションを混ぜ合わせたりしていた。いい色が出来たのか、それを顔に塗り、睫毛や眉毛についてしまったものを落としてから、また違う化粧ブラシで、頬の色を整えていた。
「何して」
「あーら知らないのぉ、土方氏、死に化粧っていってねぇ、みだしなみよぉ」
ふざけた言葉なれど、銀時は口紅を混ぜ合わせて、紅筆に取った。うす紅色を形のよい花びらの様な唇に塗りながら、言う。
「こうするとねぇ、まるで生きてるみたいでしょー」
目蓋にも色をさし、少女の様な顔。
「キスしちゃだめよぉー」
「するか、クソバカ」
もうすぐ、葬儀なんだぞ、ふざけやがって。が、銀時が施した化粧はまるで安らかに眠っているように見えた。いつものように交情をかわした後に寝入った顔。それによく似た顔色だった。
「どこで覚えたんだ、おまえ」
「人生いろいろだからねぇー、そうでしょーそうちゃん」
冷たい頬に銀時が触れた。殴ってやろうかと思ったが、やめた。それも多分、欲しくないンだろうな、おまえは。そう思えたから。この身体も指も。あげますよ、と微笑んだのはいつだったか、土方は思い出せなかった。
フルールドフルールとはとっくに廃盤になってしまったニナリッチの香水。花の中の花という意味です。いやーほんまに花花花花といった香りでした。つんたは同じく廃盤のニナをよー使ってます。かせてもしらないよ、な古さです。笑。山だのスキーだので色気ない癖にごくたまーにつけたりして。一度付けると三日は抜けなくて自分で苦しんだりして。布団のなかでいい香りと言うより前に「くせぇ」はやはり女としてどーかと・・・。