04. ボディ&ソウル(沖神)

04. ボディ&ソウル(沖神)


身も心もあなたのもの…



 「ねーマジでその格好するの」
 「んー、おかしいですかぃ」
おかしいと言うべきか。キュロットにペチコート、パフスリーブの半袖ブラウスの姿で、鏡片手にメイク中。
 「神楽、どっちがいいと思う、レイヤードのと、なんもねーのと」
 「こっちネ」
神楽がレイアードスカートを差し出す。色は白。ペチコートがペールグリーンだ。張りのある素材のためか、ふわりと広がっている。形のいい脚が見える。
 「よし、おしまい」
 「化けたねぇ」
 「エクステンションとってくんな、神楽」
 「アイ」
付け毛というもの。フリルのついたリボンをついでに付けた。手には日傘。フリルとリボンたっぷりの。
 「護身用にはなるかなー」
そう言って、振り回してみた。
 「駄目だなぁ、ところで新八」
 「何ですか」
 「差物だけは屯所に届けておいてくんねえかな、銀の旦那でもいいけど」
 「わかりました…」
手袋をしながらそう言った。フリルのついたリボンが飾りについてる手袋だ。
 「あっと、もう一つ」
箱から革製の品物を取り出し、ブーツに付けた。制服のブーツに、だ。
 「神楽―、おまえはできたんだろーなー」
 「待ってネ」
 「んー、なんか、パンチにかけんなぁ、そうだ、これ着ちまおうっと」
制服のベストを羽織った。サッシュベルトを腰に巻き付け、立ち上がり、また飾りが一杯のバッグを持った。
 「…デートといいませんでしたか、沖田君」
 「デートでい」
何で女装なんですか、総悟くん。告白受け入れて付き合うと言い出したのはいつだったか。なのに、何故。あの格好に…。
 「目立つなって言ったのは万事屋の旦那でぃ」
 「目立ってるよ…」
唖然。
 「でも、これなら真撰組の沖田ってわかんねぇでしょ」
 「まあ、そうだけど…」
 「ああ、そういうことね」
どういう思考回路しているんだか。



 「なんで、あんなこと言うネ」
 「そりゃーこの格好だからだぜぃ」
 「そうかー」
 「ん、駄目かー」
神楽は首を振った。
 「じゃ、行くか」
差し出した手に手を重ね、歩き出した。仲の良い女の子二人がはしゃいでるように見えるが。片方は美人の癖に口が悪く、片方は可愛いのに訛りが強く、で黙っていてくれ、と願う人たちもいた。見た目はそりゃあ、もう。



 「ん」
 「どした」
もそもそもそ。
 「この手だっ、てめーっ、痴漢だなーっ」
ぼきっ。ぎゃーっ。
 「あ、いけね」
 「おまわりさーん、この人、痴漢ネ」
地下鉄の駅で突き出す。手首の折れた男を。
 「それは気の毒でした…って折れている。事情を聞いていいかな、お嬢さん」
 「う…」
 「総悟」
 「仕方ねえよ、行こう、神楽」
駅の警備隊の事務所。男は連れられていった。
 「太ももに触ってきたんで、手首、ひねったら折れちまったんで」
 「はあ、(力持ちだな、この美人、見かけによらず)身分証、ご呈示願いますか」
 「ああ、はい、ちょっと化けてるからわかりづれーかな」
 「え」
警察手帳。しかも、テロリスト専門特殊部隊、真撰組の。
 「一番隊所属…沖田総悟警部」
つまり、隊長。
 「あの」
 「プライベートで、外出中なんでい」
 「ああ、そうですか、お疲れ様です」
うっそ。この美女が。いや、さっきの痴漢、手首で済んで良かったね、と言いたくなった。
 「神楽に触ってたら、手首ぐらいじゃおさまんねーな、差物なくてよかったよな、あのおっさんも」
 「総悟、はやくしないと、定食や、しまるネ」
 「ああ、そうだ、はやくしねぇとな。五人前食べたら、タダだもんなー、神楽」
 「うん」
 「じゃ、何かありましたら、ここに、お願いしますねぃ」
土方の連絡先をわざと置いていった。
 「あの神楽って…いったい?」
手をつないで二人、去っていく。大きな疑問を残して。
 「あと、もう一着くらいさ、服買っておこう、ワンパターンじゃ飽きちまう」
 「そうネ」
定食やで、大盛りを食べてタダにしてもらい、デパートに入り、外国製のスーツを三着買う。勿論、女物。
 「これで、バリエーション、楽しめるぜぃ」
 「うん、ありがとネ」
神楽のも買った。届け先は万事屋銀ちゃんになっている。代金を払って、近場まで戻ると…。
 「ほー、こいつぁ美人だ、それにいい服着てる、人質になりそうだな」
十人ほどの男達に囲まれてしまった。
 「神楽」
 「アイ」
 「屯所まで差物とってくらぁ、その間、頼めるか」
 「アイ」
 「よし」
日傘を武器に総悟は走り抜けた。神楽は男達を交わしながら、屯所へ近付いていった。
 「あの、女っ」
 「こっちが相手ネ」
ばしっ。が、男達は人数が増えていた。そこへ総悟が戻ってきた。
 「神楽、預かっていてくれっ、俺には近付くなよっ、おめーまでやっちまうかもしんねーからよ」
 「アイ」
神楽に刀の鞘を投げ渡し、構える。
 「もういい、邪魔になんねーところにいろ」
 「アイ」
 「え」
目にもとまらぬ太刀筋。
 「なんだぁ、この女っ」
取り囲んでいた男達は大方切り伏せられていた。そして、御用の声がした。一番隊の面々だ。
 「てめーらっ、おせーぞっ」
げっ、隊長。一番隊の隊士はそう思った。が。が。なんちゅー格好しているんじゃ、わが隊長殿は。仁王立ちで白刃片手に、啖呵を切るのはいいのだが。
 「総悟、無理アル」
ふわんと香るのはいったい何。もしかして、香水?
 「それ、制服ないアルネ」
 「ああ、そうか、神楽、鞘くれ」
 「アイ」
愛用の刀の鞘を神楽が差し出す。何分、刀を下げるものが今、総悟が着ている服にはない。なので、鞘を神楽に預けたのだ。
 「ありがとよ」
チン、と刀を鞘に収める。
 「神楽、おめー何人、やっちまったんだぁ?」
 「五人」
 「そっか、こいつら、只者じゃねえ、人相、確認しといたほうがいいみてーでぃ」
 「総悟、民間人ねらう、あれアルか」
 「多分な。一応、俺等二人、ふつーの女の子にみえっからよ」
はあ。しかし。何ちゅー格好。
 「ブーツのほういいアルか、足元ネ」
 「そうだな、これは隊服のなんでぃ」
 「うそっ」
 「ここが、別口」
ふくらはぎの半分まで覆っている革製の飾りを指さす。レギンスと言うのだが。ふくらはぎが見えていると言うことは…その服は。
 「ふーん」
 「わりぃけどな、屯所まで付き合ってくんねーか」
 「うん」
フリルたっぷりのパフスリーブの白いブラウス、黒のベスト、レイアードの膝丈のスカートはペチコートでふくらませてある。それにレギンス付きのブーツ。日傘。神楽は手にリボンのついたウィッグを持っている。なんて想像したくないのにー。なんてこったい。
 「イヤリング、ついてるか」
自分の耳を指し示す、総悟。フリルとリボンのついた手袋をしていた。
 「うん」
 「そっか。これ高かったもんな」
そんなことより説明してください、隊長、万事屋のチャイナとなんで、そんな事してんですか…とは言えなかった。何か言いたそうにすると、睨むのだ、この隊長殿が。
 「さてと…」
屯所の広い受付に神楽と総悟は一番隊隊士と入ってきた。居合わせた土方は、間抜けな顔をさらした。
 「なにやってんだ、おまえは」
 「デートだよ、休みなんで、神楽と買い物行って楽しんでたら、巻き込まれちまってよ」
 「男の服着て行けよ」
 「それは駄目。俺だってわかっちまったら、神楽が大変だから」
 「大変…こいつがかぁ?」
 「俺の女だと解ったらねらわれる、いくら神楽でも毎日、テロリストの標的にされちまったら大変だからな」
今、なんて。言いました、総悟ちゃん。
 「ん、どした、俺、なんか変なこと言ったか」
 「ううん、ふつーアル」
 「だよな、ああ、そうだ」
 「何だ」
 「ふつーの警察から連絡来ると思うけど、よろしくな、土方さん」
 「電車の中で痴漢、いたアル、総悟、触られたネ。手へし折ったネ」
 「太ももなでくりまわしやがってよ、つい、力入れすぎちまって、仕方ねーから名乗っといた」
 「その格好で電車乗ったのかよっ」
 「デパートまで買いもん、行った、神楽と」
…。こいつらの思考回路って。
 「総悟、男の子しないほーいいアル、わかんないアルネ」
 「万事屋の旦那にも言われたんでさぁ」
 「なんて」
 「出来れば、目立つなって」
目立つなって…。方向性が違うんでないかい。
 「真撰組の沖田が女連れと言うより、女二人の方が目立たねーからな」
 「そうだけど、おまえ…」
鏡見たのか。すげー美女に化けとるぞ。
 「何だ、騒がしいな、総悟、デートじゃなかったのか」
近藤がやってきて、当たり前にそう聞いてきた。
 「それがさぁ、絡まれちまって…んで、一暴れしてきたんでさあ」
 「そいつは災難だったな」
 「まったくでぃ。神楽、送っていくで」
 「いいアルか」
 「うん、照会すんだみてぇ。おめーのやっちまったの、武闘派の奴らだ」
 「え」
 「だからお咎め無し。民間の協力、感謝、な」
 「うん」
にっこり。ところで、チャイナも格好が違うんですけど。コットンプリントのワンピース着て、髪も長く垂らしている。いつものお団子ではない。それに帽子を持っている。
 「さ、行くか。制服、万事屋に置きっぱなしだしよ、取りにいかねえとな」
 「え、おいっ」
 「やめとけ、トシ」
近藤がそう言った。
 「一週間前から付き合うことにしたんだとよ、あの二人」
 「はあああっ?」
なんで、また。そう言うしかなかった。



万事屋。総悟はそこで、制服に着替えていた。
 「しかし…まあ…また届いたぞ、この箱ら、おまえさんのかよ、沖田君」
 「そうだよ」
 「女ものですよ、銀さん。神楽ちゃんには大きい」
新八が唖然として言うのだが。
 「俺が着るんで」
沖田がそう言った。
 「デートに見えないけど、いいの」
 「うん、いいと思う」
脱いだはずの黒いベストをもう一度身に付ける総悟を見て、あれと首を傾げると。
 「制服流用でぃ」
 「とったアルよ、レギンス」
 「サンキュ」
しっかり制服。隊長の制服を身につけ、いつもの差物、それにリボルバーを上着のホルダーに差し込んだ。
 「これで、よしと」
 「なー」
 「屯所から女装はお断りでぃ」
 「あーやっぱり」
 「神楽、今度は記念写真撮りに行くから。場所はここな」
 「アイ」
渡されたメモ。
 「お化粧するから、化粧落としもってこいや。それから、肌の調子、整えておけよ、一生モンなんだから」
 「うん、総悟」
ちょっと、ちょっと。二人いつからーーっと叫びたい男二人置いて、目の前で平気でキス交わして。
 「じゃあな、旦那、銀の旦那、よろしくな」
 「あ、ああ…」
 「ばいばーい」
カンカンカンと降りていく靴音。
 「神楽ちゃん」
嬉しそうに見えない。
 「何でもないアル」
銀時は流石に気付いていた。
 「神楽、いったい、あいつ」
 「あきらめろ、言ったアル、でも、嫌ネ、総悟、神楽のネ、神様にだって渡さないネ」
 「神楽ちゃん」
 「一年ネ」
 「一年って」
 「総悟、遠くいく、ネ。その前にお嫁さんになるネ、総悟の。総悟死ぬアル」
 「写真って…」
 「お嫁さんの写真ネ」
ほらと指輪を見せる。もう指にはめている。銀時は神楽の耳元で聞いた。
 「まさかと思うけど」
 「そのまさかネ、神楽、結婚したネ」
ぴっきーん。
 「ホテル行ったネ」
 「おとうさんはゆるしませーんっ、じゃなかった、銀さんは許しませーんっ」
 「銀ちゃん、みっともないアル」
ふいっと自室に入る神楽。



 「はい、こっちを向いて。笑ってーあー歯は見せちゃ駄目ですよー、ほら旦那さん、そこでいい加減笑いやんでくださいよー」
 「へーい」
写真屋の前で、ウェディングドレスを着た神楽に真撰組の制服、しかも正装の制服を着た総悟。
 「もう一枚、撮るか、お色直しの」
 「うん」
 「チャイナドレスあるってよ」
 「うん」
フラッシュの中。幸せだと思った。
 「お会計、俺がします」
 「あ、はい」
 「二セット、お願いします」
 「かしこまりました」
幸せだと。
 「泣いちゃ駄目でぇ」
 「解ってるネ」
ハンカチで押さえるけれど、神楽は泣きやまない。
 「一生モンだぞ、なぁ、神楽」
 「うん」
すがりついて泣く神楽は本当に普通の女に見えた。



 「まだ平気か」
 「うん、平気」
今度は川の土手でお弁当を食べている。二人の後ろに定春がねそべっていた。
 「でも咳がふえたからもうキスなしな」
 「嫌」
 「うつるから駄目」
 「嫌」
 「神楽」
 「嫌」
 「解ったよ」

定春に二人乗っかって出かけたり、電車に乗ってデパートに出かけたり。でも、格好は…。女二人にしか見えない。



ある日、屯所に神楽はやってきた。あわただしく捕り物の用意の真っ最中だった。
 「銀ちゃんにもらったネ」
 「何を」
 「出動か、総悟」
神楽は石を二つ手にしていた。カチカチと、それは火打ち石。
 「ご武運、おいのりして、えーっとネ、おりますネ」
 「ありがとう」
びっくり顔をした総悟。まさか、してもらえるとは思っていなかったらしい。
 「気をつけるネ」
神楽はそう言って微笑んだ。
 「ああ、行ってくる」
ひよいと、神楽にキスした。
 「えへ」
シーン…。こんなときにあてられた。なのになのに、平然と。この二人はーーーっ。これがもしかして…。ずっと続くのか。出動というと神楽はやってきて、火打ち石をならす。そして、言う。ご武運をお祈りいたしております、と。それだけは不思議な訛りがなかった。必死で練習していたらしい。
 「ちゃんと帰って来るアルネ」
 「解ってるよ」
…。唖然。呆然。
 「副長―っ、いいんですかっ」
 「いいも、悪いも、ないんだよ」
とにかく出動。帰ってみると、神楽は待っていた。総悟の顔を見ると帰って行った。
 「何故ですか」
副長の机に上に写真。
 「これ何ですか」
革張りの写真ケース。ひろげると。
 「ええっ」
白いウエディングドレスを着た神楽を椅子に座らせ、正装にと用意された飾りの多い制服姿の総悟が刀を手に立っていた。もう一枚のはチャイナスタイルで。
 「結婚写真だとよ」
納得しきれないけどな。理由は二人とも言わない。けれど…。



半年後、総悟入院。
 「嫌ネ、つきそうネ」
 「完全看護だから、駄目だって」
 「嫌ネ」
泣いて、泣いて。
 「俺は平気だから、帰れよ」
こくんとやっと頷く。
 「奥さんですか」
看護婦がそう聞いた。
 「はい、可愛いでしょう」
にっこりと笑ってそう返事した。
 「羨ましいわ」
一年と言ったが、入院しなかったため、無理をした結果、衰弱が激しい。



 「総悟、痩せたネ」
 「そうか」
銀時は複雑だった。屯所に行くと神楽は言う。
 「用意してネ、アルネ、持って行け、て」
 「ふーん」
屯所に行くと土方が出迎えていた。
 「何だ、チャイナ」
 「総悟が神楽にネ、渡したい、言うアル」
 「総悟が」
 「うん」
 「解った、こっちだ」
総悟の個室に案内する。持ち主はいない。
 「んーと、箪笥」
引き出しをあける神楽。
 「これネ」
黒い着物。
 「おまえら」
 「奥さん、やるネ、だから着るアル」
紙のつつみに包まれた黒い喪服一式が入っていた。草履からバックから用意されてあった。
 「そんなに悪いのか」
神楽が頷いた。
 「俺たちは聞いてないぞ」
 「内緒ネ。妻の勤めネ。」
 「どういう意味だ」
 「総悟、神楽にしか言わなかったネ」
 「なんだって」
 「他の人言ったら駄目、言ったネ」
 「なんだって…」
 「神楽強いから、平気ネ。そう言ったアルよ、でもそれ嘘ネ」
 「嘘って」
 「ほんとは嫌ネ、神様だって渡さないネ、総悟、私のアル」
 「チャイナ、おまえ」
 「総悟に嘘ついたネ」
健気に。そう言う言葉が似合わなかったはずのチャイナガール。いつの間にか女の顔。



葬式の時。神楽は妻の席にいた。
 「嘘ってなんだ」
 「赤ちゃん、いるかもしれないネ」
 「おい」
 「いいネ、総悟、歌歌ってたネ。身も心もあなたのもの。だから神楽、もらうネ」
黒い喪服なんか似合わなかった。棺の中の総悟にキスした。
 「三ヶ月ぶりネ。うつる駄目、言ったアル。でも笑わないネ。いつも笑うネ、なんで…起きて笑わないネ」
そう言って抱きしめる人。
 「神楽ちゃん…」
 「奥さんやる、言ったネ、大好きネ…」
泣いていた。奥さんやると言って。



だって身も心もあなたのものだもの。





後書

一言。あれえ…?なんでこのカップリング?最初はイロモノで、最後はこれかい…。でも二人は真剣にデート楽しんでたのよ。

NEXTは、これのきっかけ話。女装の理由とか。続きか、前の話なのか。タイトル「恋とはどんなもの」です。