• 枝垂桜の咲く里INDEX
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    駄菓子屋で万事屋三人は団子を食べていた。その背後にそっと座ったのは、笠を被った男だった。派手な身なりで、煙管をもっていた。
     「銀時」
     「え」
     「こっちを向くな」
     「何の用かなー」
     「この間はすまなかった」
    それだけ言うとその男は立ち去った。その直後に土方と沖田が現れた。
     「旦那、こんにちはー、今日は裕福そうですねぃ」
     「何か引っかかるんだけど、まあいいか」
     「どうした、しけた顔して」
     「しんちゃんがね、謝ったよ」
     「そうか、で、どっちに行った」
     「さあ、知らね」
     「そうか…おい、団子、一皿じゃなくて、二皿だ」
     「買い食い禁止じゃねえの」
     「勤務時間はさっき終了した。かまわねえよ」
    駄菓子屋の店先に腰をおろし、自分たちの団子を土方は待った。
     「あの桜、もうすぐ咲くらしいぜ」
     「銀時桜ね」
    沖田に言われるとやはり、改名してくれと言いたかった。


     「銀ちゃーん、トーシローがねーお花見しに来いだってー、銀時桜、咲いたアルよー」
     「もうやめて…お願い」
    薄紅色の枝垂桜。植木屋が後ほど調べて解ったのは、その銀時桜は既に樹齢二十数年を超していたと言う。
     「だいたいおまえと同じ年くらいだってよ、これ」
     「なんかやけにひょろこく見えるんだけど」
     「成長が遅いんだとさ。気にするな、百年もすれば見応えはあるだろう」
     「百年後まで生きてるつもりなわけ、土方君は」
     「いや」
     「じゃなんでそういうのさ」
     「おまえ、結婚する意志あんのか」
     「ねえよ」
     「俺もない」
    薄紅色は鮮やかに目に映る。その近くでシートを敷いて、銀時の手作りの弁当と屯所の台所から持ってきた酒で一杯やっている。神楽は結局新八に連れられ、公園の花見に行ってしまった。屯所には留守番に当たってしまった一番隊だけが残っていたが、隊長の沖田以外はこの二人のそばには近付かなかった。沖田は銀時の膝を枕に一升瓶を抱いて寝息を立てている。その背中に羽織をかけてやったのは土方だ。
     「子孫は残らない、つか、残す事も出来ねえだろうな、俺は」
    土方はそう言った。
     「ここの規約は基本は独身だ」
     「え」
     「許可制だよ、結婚は。俺は…したいと本気で思った女はもういないからな、それに…今のは、出来ない相手だし」
     「そりゃま」
     「だから、この桜におまえの名前つけたんだ」
     「あ、やっぱり」
     「そう、こいつが俺たちの子供で、俺たちの里になるんだよ」
     「そうだったの、知らなかった」
     「あの里は枝垂桜が見事だった。それと同じ風景をずっと見ていたい、とつい、思ってしまったんだよ」
     「つい、ね」
     「これも一種のノリかもな」
     「そういうノリはすげえ恥ずいんだけど」
     「この間捕まった桂に名前言ったらさ」
     「やな予感」
     「あいつ椅子から転げ落ちてしまってなあ、驚いた」
    やっぱり、こいつ、変な時に天然ちゃんだよな、そう思う。膝の沖田が身をよじり、目をこすった。
     「ん、沖田くん」
     「あれ、綿飴だー」
     「総悟、それは万事屋だ、ちがう、むしるなっ」
    慌てて羽交い締めにして離す。また目をこすった沖田。
     「なーんだ、旦那かあ、つまんねーの」
    ぽてっとまた寝てしまった。
     「なんか傷つく寝ぼけ方ね」
     「気にするな、それとも、綿飴、欲しいか、銀時」
     「うん、欲しいかも」
    一番隊の隊士に小遣いを持たせ、公園の出店の綿飴を頼んだ。
     「というか、こいつもそーとー…」
    ぶつぶつ言うと唇に何かかすめて離れていった。
     「こいつやっぱり変な天然ちゃんだわ」
    そう呟きながら、土方をぐいっと引き寄せ、銀時は幸せなのか、不幸なのか解らない恋愛模様に頭痛を覚えていた。優しく桜の枝を揺らす小さなささやかな風。
     「こいつ、でかくなれたらいいよな、なあ、銀時」
     「うん、そーね」
    銀時桜の名前はやっぱり少しだけ、納得出来ないけれど。仕方ないのかも。いいけど、今夜は泊まっていってもいいよね、と囁いた。


     「だからって仕事手伝わせるなんてどういうつもりよっ、しかも、こんな格好させてっ」
     「仕方ねえだろ、よそもんに書類触らせていると思われるのはまずい」
    幹部制服を着せられて、銀時は書類整理を手伝っていた。
     「時給千円にのった癖に」
     「だって、ガスやられたらお風呂困るもんっ」
     「さっさとやれ、七百円に減らすぞ」
     「どうでもいいけど、一番隊の隊長さんの認めが異常に少ないんですけどっ」
     「あの馬鹿、引き摺ってきて、認め印を押させて、報告書書かせるのも仕事だが、銀時」
     「やらなければ、駄目かな…」
     「時給二百円に減らすぞ」
     「いってきまーすっ」
     「頼んだぞ」
    やりとりを見ていた隊士らは…。
     「土方さんってやっぱ鬼だ、しかも万事屋の旦那の鬼嫁ってのが信じられないけど…なあ、すげえよな」
     「うん」
     「でも万事屋の旦那、妙に幸せそうだけど」
     「放っておこうぜ、またやり合われたらかなわねえから」
    なーんて言い合って、その場から離れていったのであった。


    銀時桜がいつまで残ったか、それは解らない。幕府が倒れ、江戸が東京に変わった後も、なのか。

     「桂さん、この桜は伐採しますか」
     「いや、それはやめておけ」
    屯所は新政府の警察機関の建物に建て替えられていた。
     「銀時桜って名札が刺さっていました」
     「ああ、それか」
    枝垂桜の若木。
     「ずっと、その木は残しておくように手配しておけ」
     「はい」
     「ずっとだ。きっと東京の、この町の護りとなるだろうから」
     「手配します」


    名前の大元は相変わらず、ぐうたらで愚図な生活をしていた。名前をつけた男の行方は知れない。時々、銀時という名前の男の元によく似た男が現れていたと言うが。



                   完







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