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- 夏が来たよ
暮らしも楽になってきた 魚は跳ねて 綿の木も伸びる
父ちゃんは金持ちで 母ちゃんは美人
だから坊や 泣かないで
今に ある朝
おまえは歌いながら立ち上がり
翼を広げて 大空へ飛ぶだろう
でも その朝が来るまでは
おまえを傷つけるものは何もないよ
父ちゃんと母ちゃんが いつも ついてるからね
いつもの様に駄菓子屋で沖田と出会って、いつもの様に団子をおごってもらって別れるはずだった。が、どこでこうなってしまったのだろう、銀時はそう思った。
目の前にいるのは、高杉だ。
「実験台になってもらうぜ」
その言葉の意味を知ったのは、ずっと後だった。斬りつけられて、傷ついた沖田を連れて、逃げ回る。銀時の肩も傷着いている。それがじんじんと熱い。沖田の傷は深い。抱きかかえて表通りに出る。真選組のパトカーを見付けた。乗っていたのは原田だった。
「おい、ハゲ、開けろ」
蹴飛ばして注意を促した。腕の中の沖田に気付いて原田はドアを開け、叫んだ。
「乗れ、万事屋」
サイレンを鳴らし、屯所に向かう。うずく傷。意識のない沖田を抱えて、銀時は溜息をついた。
「実験って何なんだよ…」
そう呟いた。その後の事は覚えていない。屯所で何があったのか、土方がなかなか話してくれないのだ。
「なんで、だ」
視界はせまいし、喉はかれているし、かなり消耗している。横になっている自分がよく解らない。土方はただ、黙っていた。私服に着替えて、沈黙を守っている。
「沖田君は」
「あいつはまだ意識が戻らないが、近藤さんがついてる」
疲れ切った顔をしている。溜息をつく土方は煙草を吸っていなかった。
「水、飲め」
吸い口で飲ませる。起きあがれない。力がまるで入らない。
「すぐ回復する。ガキどもには志村の家に行っているように連絡した」
土方は沈痛な顔をしている。
「沖田君、やばいの」
「命に別状はねえよ。総悟じゃない、おまえがやばいんだよ」
「なんで」
「身体がやばいんじゃない」
そう言ったきり、土方が黙る。
「なんで、目が…まさかガキじゃあるまいし、大泣きしたとか」
そう言った時、土方が顔をそらした。したのか、俺。銀時はぼんやりと思う。普通の部屋じゃない。そう気付いた。
「ここ、どこだ」
土方はやはり黙っている。
「どこなんだよっ」
「屯所にある蔵の中だ」
蔵の中。なんで、何で蔵の中に。
「蔵…」
「麻薬でやられた奴らとか、重罪のテロリストとかを閉じ込めておく所だ」
「俺、そんなにひどかったの」
土方は何も言わない。黒い着流し。
「隊服は」
「洗濯中だ。これは寝間着みてぇなもんだ」
何で寝間着なんだよ、と呟いた。
「飯、食うか、おい」
「そう言えば腹減った」
土方の手を借りて起きあがる。そしてまた手を借りて屯所の縁側まで歩いた。
「おい、飯、もってこい」
縁側のそばにいた山崎に土方は声をかけた。定食を箱膳に入れて山崎が持ってきた。蓋を開けると味噌汁から飯、煮魚、漬け物、煮物がついた定食が現れた。
「すげえ」
「老人食にちけぇけど、疲れた身体にはいいだろう」
「ふうん」
確かに柔らかめに炊かれた飯、豆腐とわかめの味噌汁、口当たりのいい煮染め。
「沖田君は」
「まだ目が覚めていません」
山崎がそう言った。
「そっか」
肩の傷がじくじくと痛む。
「縫ったけど、まずかったのは刃に毒が塗ってあったことだな」
「でも生きてる」
「解毒剤が効いた。総悟もそれで助かった。まあ傷跡は残るかも知れんが」
「沖田君に、傷」
「ああ」
「傷はあんの、あの子」
「そんなにねえよ、痕跡になるような傷はなかった」
けれど、今回のは仕方ないらしい。
「流石だな」
「万事屋」
「なんだよ」
「何も聞かないで欲しいんだが、無理か」
「うん、まあ…」
「そうか」
土方はそう言うとまた黙り込んだ。
「おまえが屯所に来てから一週間になる」
告げた言葉に銀時は驚いた。
「昨日じゃないの」
「違う」
「やっと薬が抜けてきたところだ、おまえは」
「沖田君、まだなんだろ、心配じゃ…」
「命に別状はねえよ、ただ、意識が戻るのには、時間がかかるそうだ」
「そんな」
「ただなあ、おまえに使われたものと総悟に使われたものは違うんだ、総悟には意識障害と高熱、おまえには…」
煙草を取りだし、くわえる動作が震えていた。
「幻覚系のやつだった…だから蔵に閉じ込めて、俺が面倒見ると決めた」
「幻覚ね…」
「悪夢の形をとるやつだと医者が言った」
銀時はそれで悟った。