• INDEX
  • 第1章
  • 第2章
  • 第3章
  • 第4章
  • 第5章
  • 第6章
  • 第7章
  • 枝垂桜
    •  第1章
    • 夏が来たよ
      暮らしも楽になってきた 魚は跳ねて 綿の木も伸びる
      父ちゃんは金持ちで 母ちゃんは美人
      だから坊や  泣かないで

      今に ある朝  
      おまえは歌いながら立ち上がり   
      翼を広げて 大空へ飛ぶだろう

      でも その朝が来るまでは 
      おまえを傷つけるものは何もないよ   
      父ちゃんと母ちゃんが いつも ついてるからね


                         

      いつもの様に駄菓子屋で沖田と出会って、いつもの様に団子をおごってもらって別れるはずだった。が、どこでこうなってしまったのだろう、銀時はそう思った。

      目の前にいるのは、高杉だ。
       「実験台になってもらうぜ」
      その言葉の意味を知ったのは、ずっと後だった。斬りつけられて、傷ついた沖田を連れて、逃げ回る。銀時の肩も傷着いている。それがじんじんと熱い。沖田の傷は深い。抱きかかえて表通りに出る。真選組のパトカーを見付けた。乗っていたのは原田だった。
       「おい、ハゲ、開けろ」
      蹴飛ばして注意を促した。腕の中の沖田に気付いて原田はドアを開け、叫んだ。
       「乗れ、万事屋」
      サイレンを鳴らし、屯所に向かう。うずく傷。意識のない沖田を抱えて、銀時は溜息をついた。
       「実験って何なんだよ…」
      そう呟いた。その後の事は覚えていない。屯所で何があったのか、土方がなかなか話してくれないのだ。
       「なんで、だ」
      視界はせまいし、喉はかれているし、かなり消耗している。横になっている自分がよく解らない。土方はただ、黙っていた。私服に着替えて、沈黙を守っている。
       「沖田君は」
       「あいつはまだ意識が戻らないが、近藤さんがついてる」
      疲れ切った顔をしている。溜息をつく土方は煙草を吸っていなかった。
       「水、飲め」
      吸い口で飲ませる。起きあがれない。力がまるで入らない。
       「すぐ回復する。ガキどもには志村の家に行っているように連絡した」
      土方は沈痛な顔をしている。
       「沖田君、やばいの」
       「命に別状はねえよ。総悟じゃない、おまえがやばいんだよ」
       「なんで」
       「身体がやばいんじゃない」
      そう言ったきり、土方が黙る。
       「なんで、目が…まさかガキじゃあるまいし、大泣きしたとか」
      そう言った時、土方が顔をそらした。したのか、俺。銀時はぼんやりと思う。普通の部屋じゃない。そう気付いた。
       「ここ、どこだ」
      土方はやはり黙っている。
       「どこなんだよっ」
       「屯所にある蔵の中だ」
      蔵の中。なんで、何で蔵の中に。
       「蔵…」
       「麻薬でやられた奴らとか、重罪のテロリストとかを閉じ込めておく所だ」
       「俺、そんなにひどかったの」
      土方は何も言わない。黒い着流し。
       「隊服は」
       「洗濯中だ。これは寝間着みてぇなもんだ」
      何で寝間着なんだよ、と呟いた。
       「飯、食うか、おい」
       「そう言えば腹減った」
      土方の手を借りて起きあがる。そしてまた手を借りて屯所の縁側まで歩いた。
       「おい、飯、もってこい」
      縁側のそばにいた山崎に土方は声をかけた。定食を箱膳に入れて山崎が持ってきた。蓋を開けると味噌汁から飯、煮魚、漬け物、煮物がついた定食が現れた。
       「すげえ」
       「老人食にちけぇけど、疲れた身体にはいいだろう」
       「ふうん」
      確かに柔らかめに炊かれた飯、豆腐とわかめの味噌汁、口当たりのいい煮染め。
       「沖田君は」
       「まだ目が覚めていません」
      山崎がそう言った。
       「そっか」
      肩の傷がじくじくと痛む。
       「縫ったけど、まずかったのは刃に毒が塗ってあったことだな」
       「でも生きてる」
       「解毒剤が効いた。総悟もそれで助かった。まあ傷跡は残るかも知れんが」
       「沖田君に、傷」
       「ああ」
       「傷はあんの、あの子」
       「そんなにねえよ、痕跡になるような傷はなかった」
      けれど、今回のは仕方ないらしい。
       「流石だな」
       「万事屋」
       「なんだよ」
       「何も聞かないで欲しいんだが、無理か」
       「うん、まあ…」
       「そうか」
      土方はそう言うとまた黙り込んだ。
       「おまえが屯所に来てから一週間になる」
      告げた言葉に銀時は驚いた。
       「昨日じゃないの」
       「違う」
       「やっと薬が抜けてきたところだ、おまえは」
       「沖田君、まだなんだろ、心配じゃ…」
       「命に別状はねえよ、ただ、意識が戻るのには、時間がかかるそうだ」
       「そんな」
       「ただなあ、おまえに使われたものと総悟に使われたものは違うんだ、総悟には意識障害と高熱、おまえには…」
      煙草を取りだし、くわえる動作が震えていた。
       「幻覚系のやつだった…だから蔵に閉じ込めて、俺が面倒見ると決めた」
       「幻覚ね…」
       「悪夢の形をとるやつだと医者が言った」
      銀時はそれで悟った。

  • NEXT
  • TEMPLATE PEEWEE