何故、その名前なのか、銀時は二人には説明しない。というより出来なかった。後で沖田からの説明では、土方が名付けたと言うのだが、理由は誰も聞いていない。土方に聞けばいいのだが、銀時はおろか、誰も聞けないでいた。夏が過ぎ、秋が来て茂った葉も落ち、植木屋がやってきて芽の様子を確認した。
「花芽、ついてますよ、副長さん」
「そうか」
「ただし、花の数は少ないですよ、まだ木が若いし、植えたばかりなので、木の力も弱いですからね」
「今後の世話は」
「そうですねー、花が終わるとすぐ葉が出ますからその時の虫に気をつければいいでしょうね、それにしてもいい木を手に入れましたね、あっしも根付くか心配でしたが、元々力があったんですかねぇ、こいつは」
「山里からもらったんだが、江戸の空気で大丈夫か」
「それは心配いりやせん。こいつと同じ種類、大名屋敷にもありやすよ」
「そうか」
「公園で咲いている種類とは違うんで驚くかもしれやせんよ」
「親木が咲いてるの、見た。薄紅色が濃い花だった。そう言えば、小さかったな、花は」
「ええ、この種類は花は小振りです」
植木屋はそう言って、微笑んだ。植木屋の領収は土方の名前だ。近藤は真選組でいいと言ったが、譲らなかったのだ。
休みの日、万事屋に土方は行ってみた。
「おー飯の軍資金が来た」
銀時の声に一発殴る。
「このくされ野郎、たかるんじゃねえ」
「銀ちゃん、まるでヒモ、ネ」
「うっせ」
神楽の言葉に銀時が文句を言う。電話が鳴った。
「はい、万事屋銀ちゃんです、え、あー仕事、はい、承りました、はい、解りましたー」
電話を切ると銀時は新八と神楽に声をかけた。
「仕事だ、仕事―落ち葉の始末」
それもでかい屋敷らしいぜーと言った。
「お、そーだ、土方君、留守番お願いね」
「かまわんが」
三人は嬉しそうに出かけていった。
「また楽しそうに出かけるな」
台所に行ってみた。相変わらず貧相な食糧事情だ。スーパーまで行って食糧を買いたし、事務所の電話から銀時の携帯にかけてみた。
「昼飯はどうするんだ」
「あー戻るよー、飯代ケチりやがった」
「そうか」
電話を切り、四人分よりかなり多めの昼食を作る。戻ってきた銀時はかなり驚いたが、独身でうろうろしていりゃこんなものだろ、と言って納得させた。午後もまた出ていく三人を見送り、新聞を読んでいた。
電話が鳴った。
「はい、万事屋銀ちゃんです」
「誰だ、てめえ」
「おまえこそ誰だ」
「ちん助だ」
「ふざけんな」
「銀時はいねえのか」
「もしかして…おめえは」
「高杉だ」
「おまえが高杉か…」
「だからどうした」
「満足か」
「何だ」
「あいつは吉田先生の夢を見て毎晩泣いていた、これで満足か、高杉」
「先生の夢…おまえは」
「真選組副長、土方だ」
「てめえが…」
「あいつに謝れよ、いくら幼馴染みでもやっていいことと悪い事ぐらいあるだろが、満足か、高杉、あいつは…」
「すまなかったと伝えてくれ」
静に話す方が威圧感があった、そう高杉は思った。切った電話を見つめ、溜息をついた。先生の夢を見て、泣いた。それを知っていながら、何故、土方は、奴を容疑者扱いしないのだ…。解らない。どうしても解らなかった。
「なあ、何これ、ちん助、すまなかった、って」
「さあな。そう名乗ったんだ、変なやろうだったぜ」
「あいつ、か」
「多分、そうなんだろ、またな、銀時」
帰って行く土方の腕を引いた。
「何だよ、今日で休みは終わりだって」
「そ、そうだけど…」
抱きついてきた銀時の背中にそっと手を回す。
「次の休みにどこか行こう」
「…うん」
泣きたいけど、それは出来ないよな、と銀時は思う。いくら神楽は押し入れに入ってしまった後とは言え。
「あのさ」
「桜の件はきかんぞ」
「後で理由、聞かせてよ」
「ああ、話せたら、な」
「え」
「自分でもよくわからない」
あっそ。そっと唇に触れてみた。
「銀時」
「何」
「おやすみな」
「うん」
あのさあ、もっと色気…男同士で何してんの、俺、と思いながら見送った。下に降りても手を振る彼に苦笑する。なんとなく解った気がする、「銀時桜」の理由を。
「でー、なんで捕まってんの、あんた」
制服を着て、土方は取り調べ室で溜息をついた。
「さあ、よくわからんが」
しかも、平隊士の足に躓いて、原田のハゲに手錠かよ、と桂に言うと流石の桂も肩をひそめた。
「手配書だが」
「ありゃちょっと失敗した。銀時があまりオバQと言うモンだから、つい」
目撃したのは土方だったので、エリザベスの手配書を作製したのはいいのだが。修正液で直した痕跡がある、頭に。
「毛を三本書いてしまった…」
にっこり笑ってウィンクの意味が解らない、と桂は言う。
「印象というものは恐ろしいもんだな、と言うこととそれと先入観」
「そういうことか」
溜息。
「アレは治外法権になるから捕まっても本星におくり返されるだけだ。といっても本人に母星の記憶がどこまであるか不明だが」
「そう言えば、聞いたことないな」
飼い主だろう、と聞いたが要領を得なかった。
「まあ、いいだろう」
住所不定で名前を書き込んで、終わらせた。
「銀時はどうしている」
「普通に暮らしている」
「あいつの指名手配はないのか」
「ない」
「ずいぶんきっぱりと言うものだな、出身から考えても、あり得そうだが」
「奴はその師匠の言うことが全て正しいとは思わない、と言った。それはどういうことか、聞けば、幕府に反抗する意志はねえんだと。師匠が反抗したい、反政府主義を掲げても、一概に賛成したくはないそうだ。師匠には考え方の違いを指摘した事があるそうだ、で、師匠は」
「なんて答えた」
「そこまで考えて君が行動するのであれば、私は師匠として嬉しいし、君を非難するつもりはない、と言われた事があるそうだ。ならば、今の事態もそれと同じようにしたいと言った」
「なびかないわけだな、戦争参加は、どういうつもりだったんだ、あいつは」
「ただのノリだろ、あれは後先考えない人間だから、よく総悟にまでそう言われて勝手に落ち込んでたりする」
「なるほどな」
「やつの生まれ故郷に行ってみた。あいつの実家の従者だったじじいに桜の若木をもらった。坂田の桜の子孫だそうだ」
「桜か」
「樹齢七百年の大木で、神木にもなっているそうだ、その若木をもらった」
「銀時が」
「いや、俺が」
「…あ。」
「なんであの爺にばれたんだろうな、桂」
「…なるほどな、時々、奴が残酷なまでに天然ちゃんって言っていた意味やっと解った…」
「んで、せっかくだから、その桜、この屯所の庭に植えた」
「そうか」
「銀時桜って名前つけたら、奴がすげえ嫌がって…あれ、桂、どうした?」
桂小太郎は椅子から転けていた…。
「本気で天然ちゃんだ…いたたたた」