09. ショコラ・デ・ショコラ
 「どーしろって言うんだよ」
そうふてくされても。沖田は胸にまいたサラシが気になった。新八が横にいる。
 「どうかしたんですか、沖田さん」
彼は丁寧な言葉遣いをする。躾の厳しい武家育ち。
 「あー、奥借りていいかな」
 「え、ちらかってますけど…」
志村の家だ、ここは。
 「うん、ちょっとだけ…姉御は」
 「います」
 「邪魔するぜぃ」
すたすたと沖田は中に入っていった。
 「すいやせん、姐さん、ちょっと…」
 「何、私は別に用は…」
 「ちょっといいですかぃ」
そっと耳元に沖田は囁く。
 「え、あなた、そっ…」
 「すいやせん」
 「解ったわ、こっちよ」
涙目を見て、妙は溜息をついた。
 「待ってね、これ使って」
箪笥を開けて、それを沖田に差し出す。
 「え、でも」
 「ないと困るでしょ、早くしなさい、汚れるわよ、もっと」
 「あ、失礼します」
生理用ショーツだった。
 「トイレの引き戸に入ってるから」
 「ありがとうございます」
溜息をつく。頭をかきむしって、妙は庭にいるであろうストーカーを呼び出した。
 「どういうことよ、答えなさい」
 「あいつがそう願ったんでね、お妙さん」
 「常識に外れているわよ、月のものの真っ最中の子にやらせる事じゃないでしょう」
どっかーんとゴリラもとい近藤をはり倒した。
 「月のものって…なんですか、姉上」
 「しんちゃん…、ああ、そうだ、沖田さん」
弟をはねのけて、奥の部屋へ妙は走った。
 「汚れていたのね」
 「どうしやしょう…」
 「仕方ないわ」
妙は自分の着物を取りだした。
 「メリンスでモノは良くないけど、我慢してね」
長襦袢に帯。
 「さっ着替えて」
隊服を脱がし、一式女物の着物を着せ、帯を文庫に結んだ。
 「これでよし、と」
 「姐さん」
 「お洗濯しておくわね」
 「すいません」
 「いいのよ」
沖田の顔をした女がいる。新八の認識はそれだった。


 「…気付いてなかったの」
 「はい」
妙は頭を抱えた。
 「異性って解りそうなものなのに」
 「つまり、姉上、僕は特別鈍感という意味じゃ」
 「意味よ」
くすっと沖田は笑う。
 「だって、神楽ちゃんとやり合えるなんて、しかも一番隊の、でしょ、強いって話だし、手合わせしてもらったけど、僕は」
一本も取れなかったし。
 「それは、いいわ、しんちゃん、屯所まで送ってさしあげなさい」
 「え」
 「今の沖田さんには刀、無理でしょ、ボディガードくらい出来るでしょ、いくらしんちゃんでも」
 「しんちゃん、でも、ね」
なんか納得出来ないんですけど。

 「そんなに笑わなくても」
 「そんなこと言っても、あの顔」
くすくすと笑う沖田の仕草は女のものだ。
 「ひどいなあ」
 「助かった、今日は、姐さんには後でお礼しますって伝えておいて下さい」
 「ああ、はい」
ぺこりと屯所内に入っていく。隊士の人は知っているのね、そういうことかよ、と新八はまたうなだれた。


 「はー…あー焦った…でも、惜しかったぜぃ、手でもつなげば良かったのに、俺ってば」
部屋でそう呟く沖田。
 「脈なしと違うか、総悟、違った総子」
 「うるせえ、そのうち、きっと…」
よくわからん、おまえは。土方はそう呟く。よりによって万事屋の志村新八に。
 「土方さん」
 「おう」
 「チョコレートってどうやりゃいいんだ」
 「手作りはやめとけよ、おまえ」
 「だって本命チョコはやはり、なんと言っても…」
 「タバスコ仕込むなよ」
 「当たり前だろぃ、あの人に何かあったらどうするんでぃ」
 「…前途多難」
まずはあの万事屋から手作り菓子の本を借りるしかねーな、と土方は思った。