05. 星からの贈り物

誕生日プレゼントを届けろ。そんな手紙のついた箱がとあるダンス教室に用意されたものだ。手紙の差出人はいつものあの人。とうにこの世からいなくなったのに、笑ってしまうくらいにしつこく頼みつづけたもの。結婚離婚を繰り返していた時にはその願いは叶えてあげられず、結局はダンス教室の仲間と処理したものだった。
 「さて、今年は届けるかな」
看板にあった「多串」の名前を二重線で消して横に「坂田」の名前を申し訳なさそうに付け足してある。それが彼女の住まい兼教室。坂田という名字は偽装結婚の相手の名字だ。万事屋の旦那の滞納家賃三ヶ月分で成立した偽装結婚。結婚後三ヶ月で離婚届を提出したが、彼女の親元には知らせていない。だから、名字は対外的には「坂田」。本名は「土方」である。かぶき町から少し離れた町だけど、それなりに生徒はいる。
 「こんにちはー」
かつて生徒として通った人がやってきた。
 「いらっしゃい、総悟くん」
 「繁盛してますねぃ」
 「ええ、名前が良かったみたい」
 「万事屋は相変わらずなっさけないくらい仕事ないみたいですけどねぃ」
 「あら、またないのー。かわいそうな神楽ちゃん」
差し入れしてあげようかしら、などと彼女は言う。
 「旦那にではなく?」
 「あら、私がどっちかというと女の子好きなの知ってるくせに」
 「美紀子先生は訳わかんねえですねぃ」
 「いいのよ、マダオなんだから、ジゴロの才能はありそうよね、あの人」
 「それは俺もそう思いますけどねぃ」
けれど、今一歩足らないらしい。
 「そうだわ。ミツバちゃんの贈り物、あの人に届けさせようっと。依頼って形にして」
 「姉上の」
 「ええ、毎年頼まれていたんだけど、届ける前にあのクソタガメがトラブル起こしてくれてね、やっと今年は届けられそうなの」
 「だって…」
 「トシちゃんが生きてる限り送るって約束したのよ、お金の事は、気にしないでね、小さい頃にあるものもらって、契約は成立しているから」
 「え」
 「おもちゃのお金で、一万両ね、もらったの」
 「なんですか、それ」
 「ゲームで勝ったのよ、それが約束なの」
女同士で何を遊んだのか、美紀子はそれ以上は言わない。
 「現実では億単位になるでしょ、だからいいのよ」
好きな人に贈り物がしたいの、気弱なミツバがやっと白状した言葉と約束を彼女は守っている。
 「もったいないですよ」
 「だってそーちゃんも食べるでしょ」
 「え」


シンプルなケーキが入った箱をもって銀時が屯所にやってきた。
 「多串くんに、だって」
 「誰からだ」
 「…沖田ミツバさんから」
箱を持っている銀時が困った顔をした。
 「あの元女房がね、約束したんだって。昔。えーっと…」
懐から手紙を取りだし、銀時が目を通す。
 「お互いに好きな人が出来たらその人の誕生日に手作りのものを贈りあうこと。それから…もしも嫌いになったらやめること。ずっと好きなら、生きている限り、相手が、だけど、贈り続けること。これが契約。沖田ミツバ、土方ミキ」
絶句している土方の前で、銀時が続けた。
 「やっと贈ることが出来るって言ってた、元女房が」
 「好きって、あいつには…」
 「利用されていることは解っていたそうだよ、美紀子先生が婚約者にしましょうかと聞いたら、その約束自体忘れてくれ、だとさ」
 「じゃあ、なんで、今頃」
 「引っ越しするときに最後の手紙が見つかったんだとさ。忘れられない人がいる、この罪悪感をどうしたらいいのか解らないという手紙で、それなら約束は続行することにしたんだとさ」
 「おい」
 「沖田くんは知ってるけどね、あの婚約者殿の一家ね、手切れ金置いていったんだよ、通夜の時に」
 「総悟の前に、か」
 「うん、これ以上関わり合いを持ちたくない、と言って。押さえ付けるのに苦労したから、銀さん」
泣きわめいて、斬りかかろうとしたからねえ、と銀時は呟く。
 「そうか…」
 「その金なら、沖田くんが、高層ビルの上からばらまいちゃったけどさあ…」
 「万事屋」
 「ひろいたくもねえクソミソな金ってあるんだなって思ったぜ。ところで、これ、受け取るの、受け取らないの?」
 「受け取る」
 「言っておくけど、生きてる限り受け取ってよ」
 「ああ」
 「んじゃ、ちと早いけど誕生日おめでとう。ちなみに、銀さん手作りのパウンドケーキだから、これ」
 「なんでおまえの手作りなんだあ?」
 「手作りの、金のかからないものってのも条件なんだとさ」
 「なんだか遊ばれた気がするんだけどな」
 「だろーねー。こういう時だけ、美紀子先生ときたら、旦那なんでしょ、手伝え。だもんな」
 「あいつめーーー」
 「カードも入ってるけど」
 「ふーん」
渡す。読んで、土方は苦笑した。



誕生日おめでとうございます、十四郎さん。あなたの前途に幸多かれと祈っております。願わくば、一生、幸福でありますように。 沖田ミツバ



 「一生幸福…か」
 「女も惚れた男には幸せになって欲しいのよ」
万事屋が言った。
 「うちの元女房の伝言」
土方は笑った。心の中で、密かに泣いて。
 「努力する」


おめでとう、十四郎さん。柔らかく微笑む最愛の人。









土方さん誕生日作品。フリーでした。