07.奥様はユーレイ2
で。で。やっぱりやらかした。危険じゃなかったけれど、時間がちょっとばかりかかってしまって…。そして。悲鳴。飛び出してきた攘夷志士どもをふんじばって、それから。奴ら全員腰を抜かしていた。
「やってくれたな…」
「ですねぃ」
部屋に入って一目瞭然。部屋の中、めちゃくちゃだった。ミツバはいなかった。もう帰ったのだろう、屯所に。やれやれ。まあ手早く言えば、ポルターガイスト現象を起こしてくださったというわけだ。鑑識係の隊士が頭抱えている。
「どーすりゃいいんです、副長」
「さあー…」
説明不能。まあ、とにかく屯所に引き上げると、かの脳天気な幽霊様は寝ていた。疑わしいくらい、ぐっすりと。俺の部屋で。もう文句も言いようがない。仕方なく、取り調べすると…。
「あんたをねらおうとしたら、いきなり女が出てきて、そいつが出てきたら部屋の中の物が勝手に動き出して…化け物かよ、あの女」
「悪かったな、ありゃ俺の女房だ、死んでるけどな」
どんがらがっしゃーん。転けたテロリスト。冷たい一瞥を投げてやる。
「もしかして、ありゃあんたになんかしたら…」
「出るだろうなあ…」
俺はもう平然と言い放った。
「もう冗談じゃねえや、こんなことー」
へなへなへな。そりゃそうだろうよ、まったく。とにかくその様子、見なくて良かった。怖くてまた慣れるのに時間かかりそうだぜ。女房のしでかした事とはいえ。溜息。
翌朝、ミツバは申し訳なさそうに縮こまって、朝の挨拶をした。
「ごめんなさい」
「いいけどな…あまり派手にやらかすなよ」
「はい」
だって、十四郎さんが危ないと思ったら、つい、と繰り返す。
「悪いけどな」
「はい」
「俺も怖い」
廊下を通りかかった総悟がとんでもない声を出していた。
「あら、そーちゃん、おはよう」
「お早うございます、姉上」
聞き捨てならない言葉を聞いたけれど、姉・ミツバは平然と挨拶をした。
「いいんですか」
「だって無理もないわ。私、生きてないんですもの、うふふ」
あのね。その言葉はやめてくれないかな、ミツバ。
「さて、飯にするか」
「はい」
え。知っている。二人並んで食事をする。正確には土方十四郎の朝定食の一部分を小さなお皿にとりわけて食事。それにはマヨネーズはかけない。タバスコと唐辛子はかけるけど。そして、怖いことにちゃんと減っているんだから、恐ろしい。見たくはないけど、見てしまい、俺並にびびり症の隊士は、はっきり言ってしばらく役立たずになる。それに平気なのは、近藤と総悟だけ。
「ごちそうさまでした」
ちゃんと挨拶する彼女。不思議なことに俺の触れた物、俺の私物に彼女は触れるし、手に持つことも出来る。ところが、哀しいかな、弟の物は駄目だった。なので、総悟の恨みの眼差しまで買う羽目になっている…俺。ミツバの見ている前では絶対に手出しはしないけどな。でも見ていなければ、いつもの通り何でもござれ、だった。サボリの穴場は万事屋らしいが、ミツバもついて行くと言うので、連れて行けば…。
「慣れろって言っただろーが」
「無理無理無理―っ」
新八と神楽は慣れたと言うのに、何だこいつは。
「旦那」
「らってこわいんらもん、おれ、もうらめえええ」
呂律がまわってねえぞ、万事屋。座布団被って、縮こまっている。あらやだ、坂田さんたら、もう、とか言ってころころとミツバは笑うけど。
「総悟」
「帰りますよ、仕方ない、じゃまた旦那」
「また伺いますね、坂田さん」
来ないで。万事屋は涙目でそう言いたかったらしいが、何も言わなかった。
「俺だって、たまに怖いんだよ…」
ぼそり。そう呟いても。
「情けない」
「うるせえ」
一生続くんだな、これ。あー、やはり慣れるしかないみてえ。やれやれ。楽しそうにミツバは隣にいるし。近藤さんに申し込んで、俺は自分の墓を武州に建てた。ミツバの隣に。戒名もセットにしてもらって。寿墓とかいうらしい。俺のは赤い文字で彫り込んである。ミツバの墓にちゃんと「土方十四郎正室」も彫り込んでもらった。
それから数年後、その二基の墓には遺骨が納骨されていた。
こら、総悟、勝手な事書くな。俺はまだ生きてるだぞ、このやろー。
ちぇっ、相変わらず命根性、汚ねえなあ、土方さんって。
あら、そーちゃん、駄目よ、変な悪戯しちゃ。
土方副長の夫人は一生、土方の傍らに居座り続け、万事屋の旦那はその姿を見るたびに、奇妙な行動に走り続けるのであった…。
おしまい。