03. さよならはダンスの後に
「どーするんだよ、これ…」
脅迫状片手に唸る。脂汗たらり。
「…隊士を潜入させるにしても」
女がいる。よりによって競技ダンス大会の会場に爆破予告。どーするんだ、これ。ちらりと、女顔の隊士を見るが。特にふざけたアイマスクの…。
「警備にこれだけ人員を用いるとしても、だ。選手控え室には…関係者以外立入禁止かよ」
「で、どーするんだよ、トシ」
局長がそう聞いた。
「…女」
溜息。
「しかたねえな、山崎は…別件でいないか。ということは」
ふざけたアイマスクで寝転がっているクソガキを見つめる。
「総悟」
溜息一つついて、局長が命令を伝えた。
「な、なんでーーーっ」
「それまでにダンススクールに行ってステップ覚えてこい」
近藤の命令では仕方ないけど。
「トシ、おまえ確か、この間の潜入捜査で踊れたよな」
「そこでそれを思い出すなよ、近藤さん」
「よし、決まり。総悟」
ぽんと近藤はハイヒールのダンスシューズを総悟に投げ渡した。
「女のステップ覚えてくるんだぞ、いいな」
「ええーっ」
「で、トシ」
「何だよ」
「配備計画、立てとけよ」
「ああ、一人でいいのかよ」
あれ、とわなないている総悟を指差す。
「ああ、あれなら、万事屋に頼んでおいた」
そこかよ。まったく。いつの間に。
「でーなんで、俺が付き合わなきゃなんねーのよ」
スロースロークイッククイックスローとやりながら、銀時が文句を言う。
「しりやせん」
むっつりと総悟はハイヒールの上、ひらんひらんのレッスン用のスカート。
「ででで、ふんでるふんでる、総一郎くんっ」
「総悟でさあ」
「はい、もう一度最初からやりなおし。コンクールに出場するくらいのレベルになってもらわないとねっ」
ちときつめのダンス教師がそう言う…。
「出場種目はフォックストロットとワルツね。スタンダート種目ってわけだけど、わかってないわよね…」
「はい」
「それが嫌なら、タンゴとクイックステップにするわよ…レベル上になるけど」
「それは…勘弁して」
涙目。
「ターンよ、そこは。違う、回転が逆。リズム狂った、もう一度音楽をよーく聞いてっ」
びしばしっ。
「筋肉痛になりそ…」
ふくらはぎがぱんぱんだと総悟が文句を言う。銀時が背筋が、腰がっと呟く。
「はい、休憩おしまいっ、ワルツ、いくわよっ」
「げ…」
「沈んで、はい、あがるっ、違う、どこみてんのっ、パートナー支えなくてどーすんの、そこの天パー」
「はーい」
「それから、君、パートナーの顔見てイチイチ笑わないのっ」
「へーい…」
「おかえりー」
どーんと沈んだ総悟の顔をみんな見たくはなかったらしい。さっと顔を横にする隊士達。おまけの万事屋がげんなりしていた。
「どーした、万事屋」
「暫く一緒に練習しろと言われた…どーせ多串くん、相手してらんねーんだろ」
「まあな」
土方は借りてきた燕尾服の試着をしていた。
「…あーそれ」
「そうだ、万事屋」
「何」
「こっち、おまえのな」
箱を指差す。
「も、もしかして…」
「配備の様子見て、片方はおまえに任すかもしんねえんだよ」
「げ…」
「総悟」
「…まさかと思うけど」
「仮縫い、行ってこい。待ってる、ダンス用品のオーナー、あっちの部屋で」
土方の指は副長室を指差していた。
「…くそっ」
「で、どんなのにしたのよ、あれ」
「これ」
と見せるはデザイン画。ピンクのドレス。ハイネックで、裾が長く、ふんわりと広がっている。ふわんふわんの羽根飾りがついて、きんきらのビーズとスパンコールが縫いつけてあって…というドレス。ショールみたいなものが腕につくらしい。それにも羽根飾りとビーズ。
「これ、なんか派手ね」
「こういうのは派手なんだそうだ」
「ふーん、着るかねぇ」
「近藤さんの命令にしておいた」
「なるほろ」
「二度とごめんですぜぃ、こんな任務」
ダンススクールで、レッスンにつぐレッスン。
「筋肉痛ついても支払いいいねえ、パパゴリラ」
「楽しそうですねぃ、旦那」
「楽しまなきゃやってられーん」
だろーなー…。何で好きこのんで野郎と社交ダンスなんだか。
「ヅラじゃねえなー、どこのどいつだ、ぶっとばすっ」
流石に銀時もそう思った…。実は真選組は…食中毒で半数の隊士が役立たずという哀しい現実があったのであった…。総悟に色目使う隊士を除きまくったら誰もいなくなってしまったという現実もあったり。ついでに、どーやっても、不器用そのものだったらしい…。
「さよならはダンスの後にしてね」
楽しそうに言うなよ。笑。
「あーそーだ、ダンス教師、見たことあるだろ、総悟」
「えー…土方さんに似ているなー」
「美紀子だよ、あれ」
「へ」
「姪の美紀子」
「めいーっ」
「同じ年なんだよ、ほら、うちは…」
兄弟めいっぱいの末っ子。
「俺は言いたかねえけど、生まれたときからすでに叔父さんなんだよ」
「へ」
でも、すっげーSだったけど。
「ダンスとなりゃすげえんだ、あれ。一応、プロダンサーだし」
「あっそ」
もうつっこみを拒否したい二人であった。
「でー、二次審査にも潜入してもらうんで、クイックステップとタンゴもやるように連絡しといたから」
「…げ」
「あしあし、もつれるーーーっげげーっ」
「まだまだっ」
鞭にみえまっせ、その杖が。
「ほれほれ走れ走れっ」
びしびし。
「どう、ご気分は」
口がきけない二人。
「もうじゅーぶんれす、へんへー…」
「二分休憩したら、タンゴね」
「はははは」
嘘でしょう、先生…。
そのスパルタ先生が何故か屯所にやってきた。
「トシちゃん、いるー」
「その呼び方はやめろっ」
げ。トシちゃんって…。もしかして、アレか。と副長をみな見るが。
「ゲストダンサーの部屋、別室なのよねー、で、あんたと私、登録しといたから」
「タガメ亭主はどうしたんだよーっ」
「あいつならイギリスに三ヶ月研修中」
タガメって何。そこは彼女は説明しなかった。
「で、何しろって言うんだ…」
「あークイックステップとウインナワルツ披露することにしたから」
ひょいと土方の煙草を奪って吸い出す美女。
「おまえなあ、俺の煙草、火付けた途端、うばうなよ」
「いいじゃないよ、同じ銘柄なんだし」
「よくそれで、あんなステップこなせるな」
「あんたに会ったときくらいしか吸わないじゃん」
「クソ、相変わらずてめーは」
「それともトシちゃんじゃなくトシ叔父さんとでも呼ばれたいの」
「冗談、年上の女に叔父さん呼ばわりされる覚えはねえよ」
「たった一ヶ月の差じゃん」
「土方家スゲえ…嫁さんと姑がほぼ同時に出産かよ…」
ひそひそと話す隊士たち。
「うるせー聞こえてるぞ」
「トシちゃん、練習しよ」
げ。…というわけで、屯所の庭で上手の一歩手前のクイックステップが…。
「あれ、けっこう見られるじゃん」
銀時が呟くが。どげっと美紀子というダンス教師が土方の脚を蹴飛ばす。
「けるんじゃねーよ、このぶきっちょがっ」
「けったんだ…」
「こえええ、流石、姪っ子」
「わりぃ、いてて…」
向こうずね押さえて土方がわびる。そして…二十分後。
「口がきけない模様ですぜ、旦那、アレ」
「そりゃまあ、あの早さで走りまわりゃー無理だろよ」
「禁煙しなよ、トシちゃん」
「るっせ」
ぜーはー、ぜーはー。
「一休みしたら、ウィンナワルツ行くわよ」
「もすこし休ませろ…」
「駄目」
スパルタじゃん…。
「あ、思い出した、土方さんの兄さんの娘って姉上と幼馴染みだったんだっけ」
「へー」
「あら、おそいじゃないの、そーちゃんたら」
「そっちこそ」
「気付いてたわよ、最初からね」
笑うダンス教師。
「あのさ、まさかと思うけど…」
「そのまさかよ、振ったつー話は聞いてるからね、それからどーもいい顔出来ないのよねえ、私」
「そりゃきついこって…」
「トシちゃん、ほら、ウィンナワルツ、いくわよー」
「美紀子、てめえ」
「そらそらさっさとやらないと割増料金取るわよ、経費やばいんじゃなかったのー」
「クソ、このおおお」
割増料金ね。溜息。
「でも、なんで上手に見えるんですかい」
「あーそれは美紀子に踊らされているんだよ、俺が。プロだからな、見えない様に男性をリードしてんだ。普通は男がリードするんだけどな」
「へー…」
「あいつぁプロだからな」
でも、筋肉痛が。腰が、背中が…。脚が…。普段使わない筋肉めいっぱい使ってクタクタ。というわけで、屯所に筋肉痛で死んだ男が約三名ほど転がり遊ばして。
「ヒラメばりってきくんだ…いてて」
終わったら終わったで、銀時と総悟がレッスンを…というわけで。まあ、こんなこともあったけど。クィックステップの走りを廊下でやったら…
「げえっ、とまらないーっ」
ばっりーんっ。襖に激突。
「あらら…」
「すげえ勢いでつっこんだわねえ…」
と美紀子先生、のんびりと言ってのけた…。
「違った方法で壊しやがったな、総悟の野郎」
隊服姿の総悟といつもの格好の万事屋が襖にはさまって伸びていた…。
「おーい、ハイヒールはけよ、総悟」
「忘れてやした…」
「スカートもな」
「それはすっげえ嫌ですぜぃ」
「ふんずけて転けてーのか、会場で」
「それはもっと嫌でぃ」
いでで…。総悟の下でうめく万事屋は早くどけ、とわめいていた…。
「支払い倍額要求したる…」
ぐるるる。
さて。当日。
「げ。美人」
「美紀子先生にめちゃくちゃいじられた…」
「ふーん」
整いたくてもはねまくる哀しいまでの銀時の天パーは諦めるとして。黒髪のオールバックはいったい誰?燕尾服着ているけど。
「へ、誰」
「そんなにわかんねぇかなあ」
オールバックに髪なでつけているのは、もしかして。
「副長ですか」
平隊士がそう言う。平隊士らはスーツ姿だ。警備についた最低限のものしか制服を着ていなかった。
「あー、おまえらのゼッケン…」
縁起悪。そう土方が思わず呟く。427。
「よんひゃくにじゅうなな…」
「シニナ、かよ」
「旦那ぁ」
「めだつようにって美紀子が用意した。ラストの番号だそうだ。棄権したのも大勢いるので、人数は少ないけどな。ついでに言うとチャンピオン大会だから、これ」
「げ」
ピンクのドレスは本当にふわんふわん。
「綿菓子カップルだな」
がくり。近藤の言葉にみなうなだれる。銀時のタキシードの背中にゼッケンをつける。
「総悟、持ってろ」
渡されるのはピストル。
「どこに」
「美紀子に聞け」
「万事屋、おまえのはこれな」
「…やったことねえんだけどな」
「短剣はこれ。上着に仕込んでおけよ」
「ああ」
流石に長い獲物は使えない。
「どこにねこれ」
「ああ、ガーターベルトにね、仕込むのよ」
「へー」
「待て待て、総悟、あっちで付けてこい」
別室を指差す土方。
「そりゃ一応…ねえ」
「え、なんで」
「いいからいってらっさい」
銀時がそう言って、手を振った。スカートめくるなよ、おい。一応女物着ているのだ、下着も。スカートの翻り方によっては見えるから、という理由で。夢は見たいのか、それとも…。
なんとか競技は終了した。ホールの真ん中で、総悟が気付いた。
「旦那」
「何」
「この下、ですぜ、時計の音がする」
「げ」
ホール中央のマーク。
「おっと、嬢ちゃん、それに触れるなよ」
となりにいた選手が総悟の頬に短剣をあてた。
「しまった」
「こいつに傷つけられたくなかったら、どきな」
けれど。
「へーそれはどうかな」
背負い投げ一発。
「お見事」
「吐きな、解除方法は」
「さてな」
「沖田くん」
「旦那」
「こういうのはね、こーやるのよお」
安全ピン片手に にんまりと。
すげえ悲鳴。
「さあ、はけ。もう一発くらいたいかい、おにーちゃんよ」
流石どSコンビ…と思ったか。爪の間に安全ピンの…は悶絶もんだ。
「言う、この下の…黄色赤、青とコードを切れば解除だ」
床をぶち抜いて総悟がコードを順番通りに切ったが。
「起爆装置の解除はしらねえ」
「へ」
手にしているのは、つまりは手榴弾そのもの?
「窓を開けろ」
開けた窓からそれを放る。そして…スカートめくってピストル取り出し、射撃。爆音がとどろいた。
「あたったー」
「え」
「忘れてたけど、総悟な、ピストル射撃何故かすげえノーコンなんだ…」
土方の台詞に全員が腰を抜かしていた。
「沖田くん、スカート戻して戻してっ、みんながっ」
「え、なんでですかい」
太もも丸出しに気付かない。ばさっと銀時が戻した。鼻を思わずつまんでいる男が…多数存在していたことを総悟は解らなかった。
「これだもんなー…頭いてえ」
ホールの床は急遽修理されまして。
「本日は過激派の行為によりすっかりお目汚しとなってしまいましたが、ゲストダンサーによるデモストレーションは予定通り行います」
え。硬直している土方。にんまり笑う美紀子。
「美紀子、てめええええっ」
という誰かさんの怒鳴り声はバンドの音にかき消されていたのであった、まる。
ラストナンバーは「さよならはダンスの後に」を軽妙なチャチャチャにアレンジしたものだった…。
「…覚えておいて良かった」
「俺はよくないですぜ、旦那」
♪何も言わないで・・・
・・・ただ踊りましょう
だってさよならは・・・
ダンスの・・・にしてね♪
言っておくが、チャチャチャはとってもセクシーなラテンのダンスである…のだが、一応。ルンバよりゃ淡々としているけれど…セクシーさは…あったかどーかは不明である。
「トシちゃん、商売変えない?」
「だれがてめえの面倒なんか見るもんかーーーっ」
という叔父と姪の、年齢はわずか一月逆転しているけど、のやりとりがあったことは…誰も知らない。涼しい顔して踊ってはいたらしいが。笑。
「ところでタガメって何よ」
「ああ、美紀子先生の名字、多串っていうんです、それがうちの姉上が、多いに亀と間違えて、それから「タガメ」って呼ばれるようになっちまったとか」
「へ、マジに「おおぐし」なの」
「もうすぐ土方に戻りやすそうですぜぃ」
素っ気なく、まだ美人に化けたまんまの総悟がそう言った…。
「あっそ」
「離婚原因に土方さん、絡むらしくて」
「そりゃまた」
「叔父さんじゃなくて彼氏と間違えたんですと、タガメ亭主」
「なんか、それって」
「慰謝料、土方さんに請求しているとか、旦那」
「一難去ってまた一難だねえ」
「面白そうだから、高見の見物」
「そりゃ対岸の火事だもんな」
「聞こえてるぞ、このドSコンビが」
「「ひえっ」」
♪少しカクテルを・・・
酔ったら また踊り・・・
だってさよならは・・・
ダンスの・・・にしてね♪
裏話。日記より
そごは、どっかの某オーロラの様にスカートの中に
「お菊」を仕込もうとして、反対されやした。
もろ、銀ちゃんの股間にぶっかるので。笑。
ちなみにーガーターベルトで止めた七つ道具はしっかりと
装備されていたそうです。ナイフとかピストルとか
小型爆弾とか拷問道具とか・・・何してんの、そごたん。
そいつとダンスした銀ちゃんは・・・
「柔らけーかと思ってたのにいてえーんだ、たまんねーの」だそうです。
安全ピンは・・・銀ちゃんの背中のゼッケンの一部分にあったものです・・・。
もひとつおまけ。ハイヒールにも仕込みがあった模様。
「さよならはダンスの後に」はルンバのナンバー。実はセー○ームーンの「ムーン○イト伝説」にものすっごく、よおおおおおーーーーく似ているという・・・本当にそっくりそのものとしか・・・ぱくったろ、としか。初めて聞いたときは・・・替え歌かと・・・。ちなみに作曲者当事者同士で解決済。盗作疑惑あったんだ・・・やっぱり。それで、思い出した話。オタ仲間のTさんがサークル仲間とカラオケ行ってこの「ムーンライト伝説」を合唱しようとしたが、気付いたら、みんな「さよならはダンスの後に」の歌詞をなぜか歌っていたという・・・。画面はセーラームーンなのに聞こえる歌声は何故か「さよならは・・・」で。あれえ?となって大爆笑したそうで。おかしい。わたしらみんな変だ・・・と言って大笑いしてたらしい・・・。年寄りなのがばれるージタバタ。
彼女らはなんとつんたよりも年上です。笑。
脅迫状片手に唸る。脂汗たらり。
「…隊士を潜入させるにしても」
女がいる。よりによって競技ダンス大会の会場に爆破予告。どーするんだ、これ。ちらりと、女顔の隊士を見るが。特にふざけたアイマスクの…。
「警備にこれだけ人員を用いるとしても、だ。選手控え室には…関係者以外立入禁止かよ」
「で、どーするんだよ、トシ」
局長がそう聞いた。
「…女」
溜息。
「しかたねえな、山崎は…別件でいないか。ということは」
ふざけたアイマスクで寝転がっているクソガキを見つめる。
「総悟」
溜息一つついて、局長が命令を伝えた。
「な、なんでーーーっ」
「それまでにダンススクールに行ってステップ覚えてこい」
近藤の命令では仕方ないけど。
「トシ、おまえ確か、この間の潜入捜査で踊れたよな」
「そこでそれを思い出すなよ、近藤さん」
「よし、決まり。総悟」
ぽんと近藤はハイヒールのダンスシューズを総悟に投げ渡した。
「女のステップ覚えてくるんだぞ、いいな」
「ええーっ」
「で、トシ」
「何だよ」
「配備計画、立てとけよ」
「ああ、一人でいいのかよ」
あれ、とわなないている総悟を指差す。
「ああ、あれなら、万事屋に頼んでおいた」
そこかよ。まったく。いつの間に。
「でーなんで、俺が付き合わなきゃなんねーのよ」
スロースロークイッククイックスローとやりながら、銀時が文句を言う。
「しりやせん」
むっつりと総悟はハイヒールの上、ひらんひらんのレッスン用のスカート。
「ででで、ふんでるふんでる、総一郎くんっ」
「総悟でさあ」
「はい、もう一度最初からやりなおし。コンクールに出場するくらいのレベルになってもらわないとねっ」
ちときつめのダンス教師がそう言う…。
「出場種目はフォックストロットとワルツね。スタンダート種目ってわけだけど、わかってないわよね…」
「はい」
「それが嫌なら、タンゴとクイックステップにするわよ…レベル上になるけど」
「それは…勘弁して」
涙目。
「ターンよ、そこは。違う、回転が逆。リズム狂った、もう一度音楽をよーく聞いてっ」
びしばしっ。
「筋肉痛になりそ…」
ふくらはぎがぱんぱんだと総悟が文句を言う。銀時が背筋が、腰がっと呟く。
「はい、休憩おしまいっ、ワルツ、いくわよっ」
「げ…」
「沈んで、はい、あがるっ、違う、どこみてんのっ、パートナー支えなくてどーすんの、そこの天パー」
「はーい」
「それから、君、パートナーの顔見てイチイチ笑わないのっ」
「へーい…」
「おかえりー」
どーんと沈んだ総悟の顔をみんな見たくはなかったらしい。さっと顔を横にする隊士達。おまけの万事屋がげんなりしていた。
「どーした、万事屋」
「暫く一緒に練習しろと言われた…どーせ多串くん、相手してらんねーんだろ」
「まあな」
土方は借りてきた燕尾服の試着をしていた。
「…あーそれ」
「そうだ、万事屋」
「何」
「こっち、おまえのな」
箱を指差す。
「も、もしかして…」
「配備の様子見て、片方はおまえに任すかもしんねえんだよ」
「げ…」
「総悟」
「…まさかと思うけど」
「仮縫い、行ってこい。待ってる、ダンス用品のオーナー、あっちの部屋で」
土方の指は副長室を指差していた。
「…くそっ」
「で、どんなのにしたのよ、あれ」
「これ」
と見せるはデザイン画。ピンクのドレス。ハイネックで、裾が長く、ふんわりと広がっている。ふわんふわんの羽根飾りがついて、きんきらのビーズとスパンコールが縫いつけてあって…というドレス。ショールみたいなものが腕につくらしい。それにも羽根飾りとビーズ。
「これ、なんか派手ね」
「こういうのは派手なんだそうだ」
「ふーん、着るかねぇ」
「近藤さんの命令にしておいた」
「なるほろ」
「二度とごめんですぜぃ、こんな任務」
ダンススクールで、レッスンにつぐレッスン。
「筋肉痛ついても支払いいいねえ、パパゴリラ」
「楽しそうですねぃ、旦那」
「楽しまなきゃやってられーん」
だろーなー…。何で好きこのんで野郎と社交ダンスなんだか。
「ヅラじゃねえなー、どこのどいつだ、ぶっとばすっ」
流石に銀時もそう思った…。実は真選組は…食中毒で半数の隊士が役立たずという哀しい現実があったのであった…。総悟に色目使う隊士を除きまくったら誰もいなくなってしまったという現実もあったり。ついでに、どーやっても、不器用そのものだったらしい…。
「さよならはダンスの後にしてね」
楽しそうに言うなよ。笑。
「あーそーだ、ダンス教師、見たことあるだろ、総悟」
「えー…土方さんに似ているなー」
「美紀子だよ、あれ」
「へ」
「姪の美紀子」
「めいーっ」
「同じ年なんだよ、ほら、うちは…」
兄弟めいっぱいの末っ子。
「俺は言いたかねえけど、生まれたときからすでに叔父さんなんだよ」
「へ」
でも、すっげーSだったけど。
「ダンスとなりゃすげえんだ、あれ。一応、プロダンサーだし」
「あっそ」
もうつっこみを拒否したい二人であった。
「でー、二次審査にも潜入してもらうんで、クイックステップとタンゴもやるように連絡しといたから」
「…げ」
「あしあし、もつれるーーーっげげーっ」
「まだまだっ」
鞭にみえまっせ、その杖が。
「ほれほれ走れ走れっ」
びしびし。
「どう、ご気分は」
口がきけない二人。
「もうじゅーぶんれす、へんへー…」
「二分休憩したら、タンゴね」
「はははは」
嘘でしょう、先生…。
そのスパルタ先生が何故か屯所にやってきた。
「トシちゃん、いるー」
「その呼び方はやめろっ」
げ。トシちゃんって…。もしかして、アレか。と副長をみな見るが。
「ゲストダンサーの部屋、別室なのよねー、で、あんたと私、登録しといたから」
「タガメ亭主はどうしたんだよーっ」
「あいつならイギリスに三ヶ月研修中」
タガメって何。そこは彼女は説明しなかった。
「で、何しろって言うんだ…」
「あークイックステップとウインナワルツ披露することにしたから」
ひょいと土方の煙草を奪って吸い出す美女。
「おまえなあ、俺の煙草、火付けた途端、うばうなよ」
「いいじゃないよ、同じ銘柄なんだし」
「よくそれで、あんなステップこなせるな」
「あんたに会ったときくらいしか吸わないじゃん」
「クソ、相変わらずてめーは」
「それともトシちゃんじゃなくトシ叔父さんとでも呼ばれたいの」
「冗談、年上の女に叔父さん呼ばわりされる覚えはねえよ」
「たった一ヶ月の差じゃん」
「土方家スゲえ…嫁さんと姑がほぼ同時に出産かよ…」
ひそひそと話す隊士たち。
「うるせー聞こえてるぞ」
「トシちゃん、練習しよ」
げ。…というわけで、屯所の庭で上手の一歩手前のクイックステップが…。
「あれ、けっこう見られるじゃん」
銀時が呟くが。どげっと美紀子というダンス教師が土方の脚を蹴飛ばす。
「けるんじゃねーよ、このぶきっちょがっ」
「けったんだ…」
「こえええ、流石、姪っ子」
「わりぃ、いてて…」
向こうずね押さえて土方がわびる。そして…二十分後。
「口がきけない模様ですぜ、旦那、アレ」
「そりゃまあ、あの早さで走りまわりゃー無理だろよ」
「禁煙しなよ、トシちゃん」
「るっせ」
ぜーはー、ぜーはー。
「一休みしたら、ウィンナワルツ行くわよ」
「もすこし休ませろ…」
「駄目」
スパルタじゃん…。
「あ、思い出した、土方さんの兄さんの娘って姉上と幼馴染みだったんだっけ」
「へー」
「あら、おそいじゃないの、そーちゃんたら」
「そっちこそ」
「気付いてたわよ、最初からね」
笑うダンス教師。
「あのさ、まさかと思うけど…」
「そのまさかよ、振ったつー話は聞いてるからね、それからどーもいい顔出来ないのよねえ、私」
「そりゃきついこって…」
「トシちゃん、ほら、ウィンナワルツ、いくわよー」
「美紀子、てめえ」
「そらそらさっさとやらないと割増料金取るわよ、経費やばいんじゃなかったのー」
「クソ、このおおお」
割増料金ね。溜息。
「でも、なんで上手に見えるんですかい」
「あーそれは美紀子に踊らされているんだよ、俺が。プロだからな、見えない様に男性をリードしてんだ。普通は男がリードするんだけどな」
「へー…」
「あいつぁプロだからな」
でも、筋肉痛が。腰が、背中が…。脚が…。普段使わない筋肉めいっぱい使ってクタクタ。というわけで、屯所に筋肉痛で死んだ男が約三名ほど転がり遊ばして。
「ヒラメばりってきくんだ…いてて」
終わったら終わったで、銀時と総悟がレッスンを…というわけで。まあ、こんなこともあったけど。クィックステップの走りを廊下でやったら…
「げえっ、とまらないーっ」
ばっりーんっ。襖に激突。
「あらら…」
「すげえ勢いでつっこんだわねえ…」
と美紀子先生、のんびりと言ってのけた…。
「違った方法で壊しやがったな、総悟の野郎」
隊服姿の総悟といつもの格好の万事屋が襖にはさまって伸びていた…。
「おーい、ハイヒールはけよ、総悟」
「忘れてやした…」
「スカートもな」
「それはすっげえ嫌ですぜぃ」
「ふんずけて転けてーのか、会場で」
「それはもっと嫌でぃ」
いでで…。総悟の下でうめく万事屋は早くどけ、とわめいていた…。
「支払い倍額要求したる…」
ぐるるる。
さて。当日。
「げ。美人」
「美紀子先生にめちゃくちゃいじられた…」
「ふーん」
整いたくてもはねまくる哀しいまでの銀時の天パーは諦めるとして。黒髪のオールバックはいったい誰?燕尾服着ているけど。
「へ、誰」
「そんなにわかんねぇかなあ」
オールバックに髪なでつけているのは、もしかして。
「副長ですか」
平隊士がそう言う。平隊士らはスーツ姿だ。警備についた最低限のものしか制服を着ていなかった。
「あー、おまえらのゼッケン…」
縁起悪。そう土方が思わず呟く。427。
「よんひゃくにじゅうなな…」
「シニナ、かよ」
「旦那ぁ」
「めだつようにって美紀子が用意した。ラストの番号だそうだ。棄権したのも大勢いるので、人数は少ないけどな。ついでに言うとチャンピオン大会だから、これ」
「げ」
ピンクのドレスは本当にふわんふわん。
「綿菓子カップルだな」
がくり。近藤の言葉にみなうなだれる。銀時のタキシードの背中にゼッケンをつける。
「総悟、持ってろ」
渡されるのはピストル。
「どこに」
「美紀子に聞け」
「万事屋、おまえのはこれな」
「…やったことねえんだけどな」
「短剣はこれ。上着に仕込んでおけよ」
「ああ」
流石に長い獲物は使えない。
「どこにねこれ」
「ああ、ガーターベルトにね、仕込むのよ」
「へー」
「待て待て、総悟、あっちで付けてこい」
別室を指差す土方。
「そりゃ一応…ねえ」
「え、なんで」
「いいからいってらっさい」
銀時がそう言って、手を振った。スカートめくるなよ、おい。一応女物着ているのだ、下着も。スカートの翻り方によっては見えるから、という理由で。夢は見たいのか、それとも…。
なんとか競技は終了した。ホールの真ん中で、総悟が気付いた。
「旦那」
「何」
「この下、ですぜ、時計の音がする」
「げ」
ホール中央のマーク。
「おっと、嬢ちゃん、それに触れるなよ」
となりにいた選手が総悟の頬に短剣をあてた。
「しまった」
「こいつに傷つけられたくなかったら、どきな」
けれど。
「へーそれはどうかな」
背負い投げ一発。
「お見事」
「吐きな、解除方法は」
「さてな」
「沖田くん」
「旦那」
「こういうのはね、こーやるのよお」
安全ピン片手に にんまりと。
すげえ悲鳴。
「さあ、はけ。もう一発くらいたいかい、おにーちゃんよ」
流石どSコンビ…と思ったか。爪の間に安全ピンの…は悶絶もんだ。
「言う、この下の…黄色赤、青とコードを切れば解除だ」
床をぶち抜いて総悟がコードを順番通りに切ったが。
「起爆装置の解除はしらねえ」
「へ」
手にしているのは、つまりは手榴弾そのもの?
「窓を開けろ」
開けた窓からそれを放る。そして…スカートめくってピストル取り出し、射撃。爆音がとどろいた。
「あたったー」
「え」
「忘れてたけど、総悟な、ピストル射撃何故かすげえノーコンなんだ…」
土方の台詞に全員が腰を抜かしていた。
「沖田くん、スカート戻して戻してっ、みんながっ」
「え、なんでですかい」
太もも丸出しに気付かない。ばさっと銀時が戻した。鼻を思わずつまんでいる男が…多数存在していたことを総悟は解らなかった。
「これだもんなー…頭いてえ」
ホールの床は急遽修理されまして。
「本日は過激派の行為によりすっかりお目汚しとなってしまいましたが、ゲストダンサーによるデモストレーションは予定通り行います」
え。硬直している土方。にんまり笑う美紀子。
「美紀子、てめええええっ」
という誰かさんの怒鳴り声はバンドの音にかき消されていたのであった、まる。
ラストナンバーは「さよならはダンスの後に」を軽妙なチャチャチャにアレンジしたものだった…。
「…覚えておいて良かった」
「俺はよくないですぜ、旦那」
♪何も言わないで・・・
・・・ただ踊りましょう
だってさよならは・・・
ダンスの・・・にしてね♪
言っておくが、チャチャチャはとってもセクシーなラテンのダンスである…のだが、一応。ルンバよりゃ淡々としているけれど…セクシーさは…あったかどーかは不明である。
「トシちゃん、商売変えない?」
「だれがてめえの面倒なんか見るもんかーーーっ」
という叔父と姪の、年齢はわずか一月逆転しているけど、のやりとりがあったことは…誰も知らない。涼しい顔して踊ってはいたらしいが。笑。
「ところでタガメって何よ」
「ああ、美紀子先生の名字、多串っていうんです、それがうちの姉上が、多いに亀と間違えて、それから「タガメ」って呼ばれるようになっちまったとか」
「へ、マジに「おおぐし」なの」
「もうすぐ土方に戻りやすそうですぜぃ」
素っ気なく、まだ美人に化けたまんまの総悟がそう言った…。
「あっそ」
「離婚原因に土方さん、絡むらしくて」
「そりゃまた」
「叔父さんじゃなくて彼氏と間違えたんですと、タガメ亭主」
「なんか、それって」
「慰謝料、土方さんに請求しているとか、旦那」
「一難去ってまた一難だねえ」
「面白そうだから、高見の見物」
「そりゃ対岸の火事だもんな」
「聞こえてるぞ、このドSコンビが」
「「ひえっ」」
♪少しカクテルを・・・
酔ったら また踊り・・・
だってさよならは・・・
ダンスの・・・にしてね♪
裏話。日記より
そごは、どっかの某オーロラの様にスカートの中に
「お菊」を仕込もうとして、反対されやした。
もろ、銀ちゃんの股間にぶっかるので。笑。
ちなみにーガーターベルトで止めた七つ道具はしっかりと
装備されていたそうです。ナイフとかピストルとか
小型爆弾とか拷問道具とか・・・何してんの、そごたん。
そいつとダンスした銀ちゃんは・・・
「柔らけーかと思ってたのにいてえーんだ、たまんねーの」だそうです。
安全ピンは・・・銀ちゃんの背中のゼッケンの一部分にあったものです・・・。
もひとつおまけ。ハイヒールにも仕込みがあった模様。
「さよならはダンスの後に」はルンバのナンバー。実はセー○ームーンの「ムーン○イト伝説」にものすっごく、よおおおおおーーーーく似ているという・・・本当にそっくりそのものとしか・・・ぱくったろ、としか。初めて聞いたときは・・・替え歌かと・・・。ちなみに作曲者当事者同士で解決済。盗作疑惑あったんだ・・・やっぱり。それで、思い出した話。オタ仲間のTさんがサークル仲間とカラオケ行ってこの「ムーンライト伝説」を合唱しようとしたが、気付いたら、みんな「さよならはダンスの後に」の歌詞をなぜか歌っていたという・・・。画面はセーラームーンなのに聞こえる歌声は何故か「さよならは・・・」で。あれえ?となって大爆笑したそうで。おかしい。わたしらみんな変だ・・・と言って大笑いしてたらしい・・・。年寄りなのがばれるージタバタ。
彼女らはなんとつんたよりも年上です。笑。