02. 月の子(銀沖短編)

 「ねー旦那の親御さんってどんな人だったん」
無邪気にも聞いてくれるよ、沖田君ときたら。
 「さあね、知らないなー、気付いたら誰もいなかったから」
 「ふーん…」
同じだねぃ、と呟く。でも君には超過保護な保護者いるじゃん。
 「そりゃまあ…」
沖田君が持ってきたラウンドケーキを二人でぱくつきながらの会話。万事屋の、例のちゃちな応接間で。あの二人はいない。神楽と新八は臨時収入をあげたら喜んで、姉御のうちにしけ込んでしまった。みんなで鍋パーティするんだとさ。そこに沖田君から電話。そっちに行ってもいいかときたもんだ。というわけで家にお迎えしたら、四角い箱ご持参で。何でも新装開店のケーキ屋の限定品を買ってきたそうで。それがまた、なんとピンクの薔薇がいっぱいのっかった愛らしいケーキで。デコレーションもピンクピンクしているし、銀色の粒チョコレート、アラザンとかいうやつが光っている目にも愛らしいもので。
 「その格好で買ってきたの」
 「うん、おなじみだからねぃ」
真撰組幹部の制服で帯刀して、ケーキ屋さん。いいけどね。もっとも、その格好でどこでも出入りしちゃうのは、この子の特色だけど。さぼっているらしいのは目にも鮮やかで。
 「これを、かい」
 「うん」
どう見ても可愛い女の子ならいざ知らず、一番隊の隊長様という役職なんだけどね、この子。
 「あ、これね、ウエディングケーキなんだって」
 「ぶっ」
俺はケーキを喉に詰まらせた。んで、水を飲んでから、聞きかえした。
 「なんで、また」
 「ドタキャンがあったんだって。なので安くしてもらっちゃった」
 「ほー」
 「嫁さんがよその男と逃げちまったんでドタキャン」
 「ふーん」
 「それがさあ、うちに追手出せってさー」
 「んで、ニコチンマヨ切れた」
 「んで、俺もじっくりとさぼり」
 「もう何も言う気おこらんわ」
 「だって、せっかく旦那と食べようと思ったんだもん、いいじゃーん」
 「携帯は、どーしたの」
 「この間の捕り物で土方さんが踏んづけて壊した。まだ支給うけてねーの」
 「またわざわざあんたの壊すなんて、駄目上司ねえ」
 「言えてまさぁ」
ぱくり。ピンクの薔薇はホワイトチョコレートにピンクのグラース、つまりは砂糖衣がかかったという代物で。土台のケーキは実にしっかりと焼けていて。
 「三ヶ月以上持つそうですぜ、これ。今度また作ってもらいやしょうよ」
 「そうは言うけど高いんじゃないの」
 「七月とか十月とか」
 「そーねー」
誕生日のある月だ。
 「そしたら、またデートしやしよう、旦那」
 「またぁ」
この子は、そう、恋人というのか、セックスフレンドというのか、ちょっと困ってしまう間柄。
 「今夜はどーするの」
 「勿論、帰りやせん」
 「そーきたか」
うふっと笑う。素直な笑顔。けれど油断は禁物。思いっきり遊ばれてしまうんだから質が悪い。けれど、にっこり微笑まれると…許しちゃうんだから、俺って馬鹿。その手で多串くん同様、ヒロ君とかいうへんてこな野郎とタッグ組まれて遊ばれたばかりだ。でも、可愛かったから許しちゃう。多串君は駄目だったらしい。暫くぼっこんとへこんでいた。笑。
 「ところで、何で親の話なの」
 「んー、なんか、木の又からでも生まれて来たみたいな感じしたんだもん、旦那って」
 「銀さん、人間のつもりなんだけど」
くしゃと蜂蜜色の髪を撫でて言うけど。
 「旦那ってなんとなくだけど、お母さんに似ている気がする」
 「ふーん、なんで」
 「なんとなくー…あー女だったらよかったなあ、旦那の子供、産めたのになあ」
 「んー、何かあった」
 「原田さんの女が出来ちゃったらしいんだ」
 「あらま」
 「そしたら、旦那のね」
 「子供想像したんだー」
 「旦那そっくりの娘想像しちゃったー」
 「この手の容貌で女。そりゃまた将来嘆かわしいかも」
 「案外いい女になるかもよ」
 「そうですかねぇ」
信じなかったけどね。ええ、まあ。沖田君との事はいつの間にか、解消されて。何故か所帯を持ったけれど。ぐうたら亭主は変わらず。そのおかげで、娘を置いてかみさんは出ていってしまった。娘を抱いて歩いていたら、沖田君に偶然であって。大笑いされた。
 「ねーねー、この子ちょうだい」
 「だめっ」
 「だって似ているジャン、旦那に」
 「頂戴って何なのよ」
 「えー娘にするんでさ」
 「嫁さんじゃなく?」
うん、と沖田君は頷いて。
 「俺の娘にして大きくなるの、楽しみにするん」
 「…相変わらずとんでもないこと言ってくれちゃって…」
実は沖田君、南江戸と湾岸地域の警察庁長官なんだよね、しっかり出世しちゃってさ。
 「独身」
 「うん。だって、俺、女だめだもん」
ううう、食いぱぐれたら、娘、やっぱり預けようか、このお金持ちの可愛い彼氏に。困った親父だと嘆かれるのは解っているけどさあ。
 「ところで、旦那、まだ万事屋やってるん」
 「まあね」
 「ふーん」
また楽しそうに笑った。年取らないのかね、この子と来たら。
 「後で遊びに行くね」
 「長官」
 「はいはい、今いきますよん」
部下の言葉を軽々とあしらって。じゃあね、旦那と笑った。二十歳過ぎても可愛いなんて、詐欺よ、この子。




銀沖短編。笑。土沖は・・・ないかもしれない。