「義姉上・・・やはり殿下もとい、エリザベスとセシリー姫は私の宮廷で社交界デビューさせましょうっ」
珍しく怒鳴っている。エリザベスとセシリーに抱きつかれて床に倒れたのか、彼は尻餅をついたままだ。その身体に二人の姪が腕をまわしていた。
「無理だと思いますわ」
「猛獣なのは解っていますっ、ヨークの姫だという自覚と気品と教養を身につけて頂かない限りは有力貴族にも嫁げませんし、まして上の姫はいつ外国の王侯貴族との縁談が舞い込むか解ったものではありません。王妃になられてもおかしくない態度と行動を、ですね、義姉上、聞いてらっしゃいますか」
「ええ・・・でも、教師になってくださる方が気の毒ですわ」
「勅命利用していっくらでもかき集めて見せますからっ」
「はあ・・・」
「叔父様、社交界デビューしたらいいことあるの」
エリザベスの言葉に彼は溜息をついた。
「正直に申し上げれば、いいことはほとんどございません。でも、貴女は王家の姫です。わがままは許されません。王族のわがままは国民には災いです」
「・・・厳しいのね」
「それが国を統治するという事ですよ」
「叔父様の宮廷に行きます、私」
「でーいい加減、どいて下さい」
「「いやっ」」
あーやっぱり。
大絶叫が響き渡った。宮殿の廊下に。それも物静かだと評判の国王の声で。
「勅命だっ、グレイ夫人を大至急ここにお連れしろっ。さっさといけーっ、いけったらいけーっ、いけよ、こんちきしょーっ」
・・・。・・・。倒れている国王の上にはきらきらしい姫が二人。
「はい、陛下」
やっと侍従長はそう言った。なんで私は姪に毎度毎度押し倒されなければ、ならないんだ、とわめく声がする。やれやれ。
「ぎっくり腰ですか」
「ええ、軽いので、すぐ治りましたけどね」
「何故ですの」
「毎日、猛獣を調教しているからです。飼育担当としてお呼びいたしました」
「・・・まさか」
「はい、いつもどおり、抱きつかれました、お二人に。二日公務が滞りましたので、来て頂く事にいたしました」
「すみません」
「セシリー姫は筋はいいんです、ダンスと振る舞いは。でも、ご挨拶がちょっと。でーエリザベス姫は・・・どれも点数つけるとしたら・・・」
「つけるとしたら」
嫌な予感で夫人の顔は引きつっていた。そして・・・机の一点をリチャード王は指さす。
「ここが一点とします。ちなみに満点は百です、だから、満点はこの机のこちらの隅になります。義姉上、姫の点数は足さない方向にこのくらい下がります」
およそ一メートルほど反対の方向に指。ほぼ反対方向の隅に近い。
「・・・それは、なかなか」
「でしょう、ダンスすれば、明後日の方向に吹っ飛んで転んでいる、お辞儀をすれば裾踏んづけて転ぶ、挨拶の言葉は気に入らない人だとものすっごくちから一杯、つっけんどんになる。どこをどーやってでも、大地がひっくり返っても、たまには誉めてさし上げたいのですが、無理なんです」
「陛下」
「お頼みいたします、義姉上」
「解りましたわ、私、力一杯っがんばりますっ」
「期待してます」
していいのか、解らないけど。
「ちなみに期限は十日です」
グレイ夫人の悲鳴が宮中に響き渡っていた。
白薔薇の思い出(同人誌見本)