あくがるる
こころはさても
やまざくら
ちりなむのちや
みにかへるべき
「これが山桜か、小さいな」
ラヴェル艦長がふわりと笑った。
「殿下、あれを御覧下さい」
山を指さす。白い影をまといつけたような木がある。
「山桜ですよ」
「集まるとこんな風になるのか」
「この先に西行の墓所がありますよ」
丘の上にラヴェル艦長は上がっていった。寺の門をくぐり、更に奥へ入って行く。
「これが…」
桜に囲まれた塚。
「これがあの歌人のお墓ですよ」
「こんなに花に囲まれて…」
「この季節だけですけどね…」
「この季節だけ」
「ええ、一年のうち、十日にも満たない今だけ、この墓所は美しくなる」
「そうか、これが身に帰っていった結果、か」
「あの事件の後、教えて下さいました、我が君が」
「そうか…」
憬れの眼差しで見つめ返してきた少年はもういない。
「桜は薔薇と同じ科目なんですよ」
「え」
「薔薇と親戚なんです、この花も」
「この花が…」
「驚きでしょう」
そよ風に密かに舞う花びらを手に受け止める。ハートの形に似た花びら。
「心があるみたいだ…」
「では、私はこれで」
ラヴェル艦長は去っていった。
「あなたは何を見て、あの歌を作った…小夜の中山の…」
塚に埋葬された歌人に尋ねる。聞いても答えはない。過酷な運命を生きた歌人の最後の望み。満月の桜の花の盛りの時に命終えたいと願ったと言う人。
「あなたは幸せな人だ…私はそう思う。私の様な戦に明け暮れた人間にさえ…言葉を響かせるのだから」
見上げた青空。あの空の向こうにいつも生きる宇宙がある。そばに穏やかに微笑む人はないけれど、指輪をかざしながら、総裁は思う。
「神の存在を信じたく思う。愛の永遠を、心にしみいる言葉の永遠を信じたく思う」
だからこそ、待つ。トマスの帰還を。
あくがるる
こころはさても
やまざくら
ちりなむのちや
みにかへるべき
帰って来い、トマス。ここに。私の元に。私は花になる。私はおまえの…ただ一つの宝になる…。だからこそ、ここに。
こころはさても
やまざくら
ちりなむのちや
みにかへるべき
「これが山桜か、小さいな」
ラヴェル艦長がふわりと笑った。
「殿下、あれを御覧下さい」
山を指さす。白い影をまといつけたような木がある。
「山桜ですよ」
「集まるとこんな風になるのか」
「この先に西行の墓所がありますよ」
丘の上にラヴェル艦長は上がっていった。寺の門をくぐり、更に奥へ入って行く。
「これが…」
桜に囲まれた塚。
「これがあの歌人のお墓ですよ」
「こんなに花に囲まれて…」
「この季節だけですけどね…」
「この季節だけ」
「ええ、一年のうち、十日にも満たない今だけ、この墓所は美しくなる」
「そうか、これが身に帰っていった結果、か」
「あの事件の後、教えて下さいました、我が君が」
「そうか…」
憬れの眼差しで見つめ返してきた少年はもういない。
「桜は薔薇と同じ科目なんですよ」
「え」
「薔薇と親戚なんです、この花も」
「この花が…」
「驚きでしょう」
そよ風に密かに舞う花びらを手に受け止める。ハートの形に似た花びら。
「心があるみたいだ…」
「では、私はこれで」
ラヴェル艦長は去っていった。
「あなたは何を見て、あの歌を作った…小夜の中山の…」
塚に埋葬された歌人に尋ねる。聞いても答えはない。過酷な運命を生きた歌人の最後の望み。満月の桜の花の盛りの時に命終えたいと願ったと言う人。
「あなたは幸せな人だ…私はそう思う。私の様な戦に明け暮れた人間にさえ…言葉を響かせるのだから」
見上げた青空。あの空の向こうにいつも生きる宇宙がある。そばに穏やかに微笑む人はないけれど、指輪をかざしながら、総裁は思う。
「神の存在を信じたく思う。愛の永遠を、心にしみいる言葉の永遠を信じたく思う」
だからこそ、待つ。トマスの帰還を。
あくがるる
こころはさても
やまざくら
ちりなむのちや
みにかへるべき
帰って来い、トマス。ここに。私の元に。私は花になる。私はおまえの…ただ一つの宝になる…。だからこそ、ここに。