白銀の人〜我を許し給え〜第二章
罪だと思う。暗殺。けれど、これはどうにもならない。表だって捕縛することの叶わない相手。が、野放しには出来ない。それが解る。麻薬、女、年端のいかない子供らの人身売買。ありとあらゆる違法の事を身分を傘にしでかす者達を始末する。かといって被害を受けた者が助かるとは思えない。
「いい金だけどねえ」
そう呟いて、また一人、殺す。運河に浮かんだ遺体に銀時は何の感慨もない。攘夷戦争の時、地球人達を馬鹿にしきった天人達の腹立たしい言いぐさを、顔を銀時は忘れられない。けれど。
「母上」
銀時に生きろ、と言い残して死んだ母親も、また天人だった。戦闘能力の優れたアマゾネス、ワルキューレ、戦女神、とたとえられた女だった。当たり前のように武器を取り、当たり前の様に戦ったと言う。けれど、母はたった一人の男に心奪われた。坂田一族の、武士の階級を持った男。その男と逃げて、そして生まれたのは、この自分。
「ざまあねえな」
銀時は使った刀を腰に戻すと、立ち去った。確実にしとめる腕。
「先生・・・」
押し入れにしまっておいたあの本を取り出す。捨ててしまおうか、やはりそう思う。あの人は知っていたのか、と思う。が。知っていて知らぬふりしていたとしか思えない。
「銀ちゃーん」
「どうした、神楽」
本をしまって、いつもの居間に戻る。
「下のばあさんが食べにおいで、言ったアル」
「おーそうか」
家賃を入れただけはあるな、笑って、二人は下の店に向かった。
「あー用意してあるよ」
「わりい」
いつもの銀時丼が用意されていた。
「あらら、また幕府のお偉いさんが急病で死んだかい」
新聞を見ながらお登勢が言う。
「まあ、よくない評判だったからねえ、こいつは」
やはり、な、と思う。表向きは病死にする。斬られて死んだ上に運河に浮かんだなんて、体裁が悪すぎる。しかも、しっかり悪徳な証拠を残してしまっていた。現場に。形通り駆けつけた真選組の鑑識は違法薬物と人身売買の証拠を見付けていた。
「本当に病死か怪しいけれど、 犯罪の証拠あがっていたんじゃ、失脚も仕方ないね」
お登勢はそう言って、新聞を片付けた。市井の人間のとらえ方などこんなものだろう。
「ふーん」
「まあ、あんたは明日のおまんまの方が重要だろうけどねぃ」
「そうだなあ」
神楽はおひつを抱えて食いまくっている。新八はまた、いつもの親衛隊長をやっているのだろう。 銀時が何をしていたか、など誰も知らない。知られてはいけない。ただそれだけだ。
生きる。そのためには犠牲になる命がある。それを思い知らされた。生きるためには、糧がいる。飢えて死にかけた事もあった。そんな思いをさせられない、と思う。神楽と新八には、と。そして、ふと思い返した人。いつもの駄菓子屋には、あの隊服を着て、座っていた。
「よー沖田君」
「旦那」
この子に近藤や土方がさせている事を思い返し、銀時はちょっと苛立ちを覚えた。が。この子は覚悟している、それだけ。
「どうぞ」
差し出された三色団子を遠慮なくつまむ。
「んーちとひから」
「だって、旦那、さっきからのろのろしてるんだもん、待ちくたびれちまったんでさ、団子も」
「あーわりい、わりい」
のんびりと河原を歩いたり、昼寝したりしたせいだ。沖田が待ちわびていたのを失念したのは。いつものところで待ってます、と笑っていたのを忘れていた。可愛いと思う日と疎ましく思う日と。交互に繰り返しながら、沖田を見てきた。