白銀の人〜神の羊〜第一章
やはり、捨てよう。銀時はあの本を捨てた。無造作に。書いてあった名前を消す事だけは何故か、出来なかった。
「こりゃあ・・・」
資源ゴミの中に紛れてあったその本を行きつけの飲み屋から帰る途中の松平が拾った。
「吉田・・・」
運のない思想家。そして、松平のかつての友。
「え」
最終ページの名前に松平は目を見開いた。
「あいつが」
松平片栗虎、徳川家親藩の当主にして、警察庁長官。それが今の自分の地位。この地位なら救えたであろう親友の、最後の願い。今も忘れたことはない。
「あいつが、あの野郎の養い子かよ、こいつあ・・・」
厄介だな、と呟く。
「まあ、あいつのガキらしいか」
私はあんなクソガキの親ではないぞ、とわめきそうな酒が入ると人格の変わった親友の顔を思い浮かべる。もうその姿はどこにもない。思い出の中にしかいないのだ。助けられなかった。助けようと動いて、親バカそのものの父親に屋敷に監禁され、とうとう出来なかった。
「あのクソ親父、もう一発殴っておけばよかった」
そう呟く。実際、やってしまって、母親にえらく嘆かれた。それには参った。若気の至りと言えば、そう言うものなのかも知れない。会津松平家を取りつぶす気か、と怒鳴られ、仕方なく引っ込んだ。でも、権限を利用して獄中の彼に会いに行った。
「あの子を助けてくれ、片栗虎、あの子は戦場に行ってはいけない」
そう願う彼。そして聞いた言葉。星間混血児の存在。特徴しか彼は言い残さなかった。名前は告げなかった。子供の命を救う為に。
「わかった、すまねえ、俺がもっと」
「いい、私の事は構うな。それよりも」
「そいつも解った。やれる限り、やってみる」
そう言った。やりとりは暗号の様で獄吏には解らなかった。離れるように言われ、屋敷に戻った。そして・・・処刑を聞かされた。幕府の役人をぶん殴って、謹慎を食らった。
「覚えていろ」
片栗虎はそう言って、家臣らを震え上がらせた。家臣どころか、幕臣も、だった。そして、掌中に入れたのは警察庁長官の地位。廃刀令で、すくみ上がった輩には目もくれず、物色した果てに見付けた武州の田舎道場の主。使える、と睨んで作り上げた組織。その意図を彼らは知らない。
「どうなさいましたか、殿」
栗子の母親で、片栗虎の正妻がそう呼びかけた。公家の養女になってから妻になった女だが、元々は吉田の塾にいた女性だ。
「あいつが見つかったぜ、芙美子」
「あいつ、とは」
「吉田の養い子だ。まあ、おまえとはすれ違いだが、奴の薫陶は受けているはずだ。うまくいけば、役立つぜ」
「殿、危険ではありませぬか」
「重々承知よ」
「でしょうね」
溜息をついて、笑う妻。
「それで」
「取り込めればいいがなあ、難しいかもしれん」
「また、奇妙な事、なさいますのね」
「そう言うな」
幕臣の癖に、この男はテロリストより危険なのかも知れない。が、妻も妻であった。
真選組屯所。
「よう、バンビちゃん、元気かあ」
出迎えた沖田にそう言って笑いかける。
「とっつぁん・・・」
沖田はバンビちゃんはやめてくだせえ、と言いかけてやめる。言っても無駄。それは解っていた。娘とかわりない年頃と知って、やたら連れ出す彼の事だ、やめるつもりなどないだろう。
「どうかしやしたか」
「んー何でもねえよー、おまえらの顔見たくなってよ」
「でも、土方さんも近藤さんも今、留守ですぜ」
「そっかー、そいつあ、残念だったなあ」
土産だと言って高級洋菓子を沖田に渡す。沖田以外は口にしそうもない品物だ。
「これ、こんなに沢山」
「ああ、好きな奴にくれてもいいんだぜ」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
嬉しそうに笑った沖田の頭をぐりぐりと撫で、松平は笑っていた。
「可愛いなあ、もう」
沖田を可愛いと言うのは近藤とこの松平、そして万事屋のあの男だけだ。ヒラ隊士らは溜息をついてその様子を眺めていた。甘味だと言うことは間違いなく万事屋のあの男に流れるだろう。それを思って、彼らは肩をひそめていた。
「これ、すっげー高いんだぜ、よく手に入ったじゃん、沖田君」
「んーとっつぁんがくれやした」
「あの親父が」
「ええ、旦那」
「どーも、俺あの親父苦手なんだよなあ」
過激な警察庁長官。銀時は知らない。彼がどんな男なのか。万事屋のいつもの居間。神楽と新八は依頼の仕事でいなかった。
「旦那、なんか、今日は」
「んー、やっと踏ん切りついたんでね。色んな事から」
嘘ではない。沖田が何故、自分のそばに近付くのか、銀時は深く考えた事はなかった。憧れの眼差しの中にある違った輝き。それに気付いて、苦笑する。あの納豆くさい女よりはマシか、内心で笑う。こんな綺麗な可愛い子に好かれるのも悪くはない。ただし、性別が引っかかるけれど。
「こりゃあ・・・」
資源ゴミの中に紛れてあったその本を行きつけの飲み屋から帰る途中の松平が拾った。
「吉田・・・」
運のない思想家。そして、松平のかつての友。
「え」
最終ページの名前に松平は目を見開いた。
「あいつが」
松平片栗虎、徳川家親藩の当主にして、警察庁長官。それが今の自分の地位。この地位なら救えたであろう親友の、最後の願い。今も忘れたことはない。
「あいつが、あの野郎の養い子かよ、こいつあ・・・」
厄介だな、と呟く。
「まあ、あいつのガキらしいか」
私はあんなクソガキの親ではないぞ、とわめきそうな酒が入ると人格の変わった親友の顔を思い浮かべる。もうその姿はどこにもない。思い出の中にしかいないのだ。助けられなかった。助けようと動いて、親バカそのものの父親に屋敷に監禁され、とうとう出来なかった。
「あのクソ親父、もう一発殴っておけばよかった」
そう呟く。実際、やってしまって、母親にえらく嘆かれた。それには参った。若気の至りと言えば、そう言うものなのかも知れない。会津松平家を取りつぶす気か、と怒鳴られ、仕方なく引っ込んだ。でも、権限を利用して獄中の彼に会いに行った。
「あの子を助けてくれ、片栗虎、あの子は戦場に行ってはいけない」
そう願う彼。そして聞いた言葉。星間混血児の存在。特徴しか彼は言い残さなかった。名前は告げなかった。子供の命を救う為に。
「わかった、すまねえ、俺がもっと」
「いい、私の事は構うな。それよりも」
「そいつも解った。やれる限り、やってみる」
そう言った。やりとりは暗号の様で獄吏には解らなかった。離れるように言われ、屋敷に戻った。そして・・・処刑を聞かされた。幕府の役人をぶん殴って、謹慎を食らった。
「覚えていろ」
片栗虎はそう言って、家臣らを震え上がらせた。家臣どころか、幕臣も、だった。そして、掌中に入れたのは警察庁長官の地位。廃刀令で、すくみ上がった輩には目もくれず、物色した果てに見付けた武州の田舎道場の主。使える、と睨んで作り上げた組織。その意図を彼らは知らない。
「どうなさいましたか、殿」
栗子の母親で、片栗虎の正妻がそう呼びかけた。公家の養女になってから妻になった女だが、元々は吉田の塾にいた女性だ。
「あいつが見つかったぜ、芙美子」
「あいつ、とは」
「吉田の養い子だ。まあ、おまえとはすれ違いだが、奴の薫陶は受けているはずだ。うまくいけば、役立つぜ」
「殿、危険ではありませぬか」
「重々承知よ」
「でしょうね」
溜息をついて、笑う妻。
「それで」
「取り込めればいいがなあ、難しいかもしれん」
「また、奇妙な事、なさいますのね」
「そう言うな」
幕臣の癖に、この男はテロリストより危険なのかも知れない。が、妻も妻であった。
真選組屯所。
「よう、バンビちゃん、元気かあ」
出迎えた沖田にそう言って笑いかける。
「とっつぁん・・・」
沖田はバンビちゃんはやめてくだせえ、と言いかけてやめる。言っても無駄。それは解っていた。娘とかわりない年頃と知って、やたら連れ出す彼の事だ、やめるつもりなどないだろう。
「どうかしやしたか」
「んー何でもねえよー、おまえらの顔見たくなってよ」
「でも、土方さんも近藤さんも今、留守ですぜ」
「そっかー、そいつあ、残念だったなあ」
土産だと言って高級洋菓子を沖田に渡す。沖田以外は口にしそうもない品物だ。
「これ、こんなに沢山」
「ああ、好きな奴にくれてもいいんだぜ」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
嬉しそうに笑った沖田の頭をぐりぐりと撫で、松平は笑っていた。
「可愛いなあ、もう」
沖田を可愛いと言うのは近藤とこの松平、そして万事屋のあの男だけだ。ヒラ隊士らは溜息をついてその様子を眺めていた。甘味だと言うことは間違いなく万事屋のあの男に流れるだろう。それを思って、彼らは肩をひそめていた。
「これ、すっげー高いんだぜ、よく手に入ったじゃん、沖田君」
「んーとっつぁんがくれやした」
「あの親父が」
「ええ、旦那」
「どーも、俺あの親父苦手なんだよなあ」
過激な警察庁長官。銀時は知らない。彼がどんな男なのか。万事屋のいつもの居間。神楽と新八は依頼の仕事でいなかった。
「旦那、なんか、今日は」
「んー、やっと踏ん切りついたんでね。色んな事から」
嘘ではない。沖田が何故、自分のそばに近付くのか、銀時は深く考えた事はなかった。憧れの眼差しの中にある違った輝き。それに気付いて、苦笑する。あの納豆くさい女よりはマシか、内心で笑う。こんな綺麗な可愛い子に好かれるのも悪くはない。ただし、性別が引っかかるけれど。
つづく
2010-06-25
作者名・つんた