白銀の人〜神の羊〜第二章
飛び越えてしまうのは簡単だった。何気なく、銀時は沖田の頬に触れてみた。さらりとした肌触り。ふわんと香ったのは、何なのだろう。
「あのさ、何使ってるの、やけにいい香りするじゃん」
「えー、山崎が間違えた女物のシャンプーでさ。近藤さんがおまえならいいだろうって」
「え」
「もうずいぶん前からですぜ」
もったいないから使えって・・・何か、どうなのよ、と銀時が呟くと、沖田は苦笑していた。駄菓子やの軒先。
「そりゃむっさいあんたんとこの隊士どもにその香りは萎えるけどさあ」
「旦那、俺だってついてるもんはついてるんですぜ」
「やめてくんない、これでも・・・ってそうだよなあ」
男の子なんだよね、この子。新八とは違って美少女面していても。長い睫毛に縁取られた大きな目にピンク色の可憐な唇、高からず低からずのしなやかなラインを描く鼻梁。さらさらの蜂蜜色の髪。女の子みたいと他人が言ったら激怒した沖田の犠牲になるのは解りきっている。なのに、銀時だけはそんな目に遭ったことはなかった。銀時が疎んじる時でも、こうしてそばに置いておくときも、ひどい目に遭ったことはない。隊士たちに言わせれば、どうも何かあるらしい。
「かわいい女の子の方がいいんですかい、ほら、あの眼鏡の」
「やめてくんない、あんな納豆くさい女。それだったら沖田君と・・・」
つい本音が出てしまった。
「旦那」
ちゅっと音を立てて頬にキスして、沖田が立ち上がった。愛刀を手にし、お代を置くと、立ち去った。
「ちょっ・・・」
つい固まってしまった銀時は呆然と頬を撫でた。キスしたよ、あの子ってば。
「万事屋の旦那」
駄菓子屋の老女が笑いながら言う。
「気色悪いからそこでにまにましないでおくれでないかい」
「う・・・」
仕方なく、立ち上がり、自宅へ戻った。
「また、あのサド丸に餌付けされていたアルか」
「神楽、餌付けって」
「餌付けは餌付けアルよ」
神楽は不潔よ、と言ってそっぽを向いた。
「不潔ねえ・・・」
あまり構う気にはなれない。ふと気付くとまた違う服を着ていた。
「あのなー、おまえあのニコチンにいくら借金させる気だよーっ」
「ニコチンマヨとは限らないアル」
え、それはどういう意味だ、と聞いたが、鼻先で押し入れの扉を神楽は閉じてしまった。
「まったく、どういう・・・」
行きつけの居酒屋で、つまみと酒を頼む。ふと奥を見ると見慣れた蜂蜜色の髪が見えた。見知らぬ男達と一杯やっている。どうやら隊士ではないらしい。どことなくいやらしさを感じるのは気のせいかと思ったが、沖田はご機嫌で、彼らの給仕を受けている。腰に手をまわしているのが見えた。銀時は溜息をついた。
「沖田くーん」
「あー旦那ぁ」
甘みのある鼻にかかった沖田の声に男達はかるく舌打ちをした。銀時が奇妙に強いことは知られているらしい。
「じゃ、俺たちはまた、今度な、隊長さん」
そう言って去っていく。
「えー、まだいいじゃん」
「いやいや、あの万事屋の旦那がいるでしょが」
居酒屋の店長がそう言った。
「何で」
「まあまあ、いいからいいから」
こういうときは無防備なんだよね、この隊長さんは。店長も気付いていたのだろうか、銀時に目配せする。
「一緒に飲まない、沖田くん」
「旦那」
銀時のとなりに座り、にっこりと笑った沖田に銀時はどきっとしてしまう。可憐な笑顔を素直に見せるのは近藤と銀時以外いない。
「休みなの」
「明日がね。今日は定時であがったんでさ」
なら好都合。そう思い付いて、銀時は頭を抱えた。男の子のなんだよね、と。
「意外と常識的なんですね、旦那」
あっさりと言ってのける沖田に銀時は目を見開く。
「いいのかよ」
「さあ・・・ね」
首を傾げて微笑む。心臓に悪い。そう思う。
だから誘ってみた、連れ込み宿に。
「血の臭いはしないって、か」
「何ですかぃ、それは」
苦笑する沖田。その顔を見下ろす銀時。
「昔はさ・・・戦場の興奮紛らわすために色々しでかしたってわけよ」
「ああ、それで、慣れているんだ、男相手でも」
「それとこれは違うのよ、わかってくんない、沖田君」
頬に乾いた唇が当たる。
「じゃあ、何なんですか」
「そういうことは後にいたしましょう」
「大人って汚ねえですね」
「黙って」
触れる度毎に震える肌で気付いてしまう、この子はこういう体験はなかったのだ、と。
「あ、やっ・・・」
恥ずかしさに堪えかねて、思わず出た拒否の言葉。染まる肌。なるべくそっと、優しく。けれど、銀時のセックスはどことなく荒々しい。
「痛い?」
首を振るけど、我慢しているのは解る。
「深呼吸」
「え」
「深呼吸してごらん、ゆっくり、そうそう」
まだ指しか触れていないのに、沖田の中は熱い。
「力抜いて」
ぱたぱたと首を振る毎に枕に打ち付けられる髪。
「そうそう、いいよ・・・」
そろそろかな、と思う。こんな美しい生き物が自分の手によって変貌していくのはいい知れない興奮を呼び起こすものだとは銀時は思わなかった。
「我慢してね」
「あ、やあっ・・・」
熱い、圧迫感が迫り、沖田の頬に涙が伝わった。それを銀時の指がそっと拭う。
「いい子だね」
しがみつく腕と高い嬌声と。同時にはじけて、もう一度求めると従う身体。後ろから番い、二人で狂う。三度求め、三度とも素直に答え、そして沖田は銀時の腕の中で意識を失った。
「まじい、中だししちった」
抱え上げてバスルームに連れて行き、洗い清めた。バスタブの中で抱いていたら、目を覚ました。
「ごめんねー」
「何がですかぃ」
「いや、まあ、ほんとはね」
生はまずいのよ、と言った途端、銀時はアッパーカットを喰らった。
「いでで」
「力入らねえから優しいですぜ、これでも」
「うん、それはよく解ってる」
ぎゆっと抱きしめると沖田は銀時の腕に頬をなすりつけた。
「さっきの」
「あーセフレじゃ駄目だよね」
「愛人とか恋人とかじゃねえですよね」
「まだ言ってませんから」
「じゃセフレ?」
「恋人がいいです、銀さんは」
「俺は、まだわかんねえです」
「そうですか、解りませんか」
がっかりする。抱いたのに、心は遠いのか、と。
「旦那、好きでさ」
その言葉に銀時はこの時は満足した。
「あのさ、何使ってるの、やけにいい香りするじゃん」
「えー、山崎が間違えた女物のシャンプーでさ。近藤さんがおまえならいいだろうって」
「え」
「もうずいぶん前からですぜ」
もったいないから使えって・・・何か、どうなのよ、と銀時が呟くと、沖田は苦笑していた。駄菓子やの軒先。
「そりゃむっさいあんたんとこの隊士どもにその香りは萎えるけどさあ」
「旦那、俺だってついてるもんはついてるんですぜ」
「やめてくんない、これでも・・・ってそうだよなあ」
男の子なんだよね、この子。新八とは違って美少女面していても。長い睫毛に縁取られた大きな目にピンク色の可憐な唇、高からず低からずのしなやかなラインを描く鼻梁。さらさらの蜂蜜色の髪。女の子みたいと他人が言ったら激怒した沖田の犠牲になるのは解りきっている。なのに、銀時だけはそんな目に遭ったことはなかった。銀時が疎んじる時でも、こうしてそばに置いておくときも、ひどい目に遭ったことはない。隊士たちに言わせれば、どうも何かあるらしい。
「かわいい女の子の方がいいんですかい、ほら、あの眼鏡の」
「やめてくんない、あんな納豆くさい女。それだったら沖田君と・・・」
つい本音が出てしまった。
「旦那」
ちゅっと音を立てて頬にキスして、沖田が立ち上がった。愛刀を手にし、お代を置くと、立ち去った。
「ちょっ・・・」
つい固まってしまった銀時は呆然と頬を撫でた。キスしたよ、あの子ってば。
「万事屋の旦那」
駄菓子屋の老女が笑いながら言う。
「気色悪いからそこでにまにましないでおくれでないかい」
「う・・・」
仕方なく、立ち上がり、自宅へ戻った。
「また、あのサド丸に餌付けされていたアルか」
「神楽、餌付けって」
「餌付けは餌付けアルよ」
神楽は不潔よ、と言ってそっぽを向いた。
「不潔ねえ・・・」
あまり構う気にはなれない。ふと気付くとまた違う服を着ていた。
「あのなー、おまえあのニコチンにいくら借金させる気だよーっ」
「ニコチンマヨとは限らないアル」
え、それはどういう意味だ、と聞いたが、鼻先で押し入れの扉を神楽は閉じてしまった。
「まったく、どういう・・・」
行きつけの居酒屋で、つまみと酒を頼む。ふと奥を見ると見慣れた蜂蜜色の髪が見えた。見知らぬ男達と一杯やっている。どうやら隊士ではないらしい。どことなくいやらしさを感じるのは気のせいかと思ったが、沖田はご機嫌で、彼らの給仕を受けている。腰に手をまわしているのが見えた。銀時は溜息をついた。
「沖田くーん」
「あー旦那ぁ」
甘みのある鼻にかかった沖田の声に男達はかるく舌打ちをした。銀時が奇妙に強いことは知られているらしい。
「じゃ、俺たちはまた、今度な、隊長さん」
そう言って去っていく。
「えー、まだいいじゃん」
「いやいや、あの万事屋の旦那がいるでしょが」
居酒屋の店長がそう言った。
「何で」
「まあまあ、いいからいいから」
こういうときは無防備なんだよね、この隊長さんは。店長も気付いていたのだろうか、銀時に目配せする。
「一緒に飲まない、沖田くん」
「旦那」
銀時のとなりに座り、にっこりと笑った沖田に銀時はどきっとしてしまう。可憐な笑顔を素直に見せるのは近藤と銀時以外いない。
「休みなの」
「明日がね。今日は定時であがったんでさ」
なら好都合。そう思い付いて、銀時は頭を抱えた。男の子のなんだよね、と。
「意外と常識的なんですね、旦那」
あっさりと言ってのける沖田に銀時は目を見開く。
「いいのかよ」
「さあ・・・ね」
首を傾げて微笑む。心臓に悪い。そう思う。
だから誘ってみた、連れ込み宿に。
「血の臭いはしないって、か」
「何ですかぃ、それは」
苦笑する沖田。その顔を見下ろす銀時。
「昔はさ・・・戦場の興奮紛らわすために色々しでかしたってわけよ」
「ああ、それで、慣れているんだ、男相手でも」
「それとこれは違うのよ、わかってくんない、沖田君」
頬に乾いた唇が当たる。
「じゃあ、何なんですか」
「そういうことは後にいたしましょう」
「大人って汚ねえですね」
「黙って」
触れる度毎に震える肌で気付いてしまう、この子はこういう体験はなかったのだ、と。
「あ、やっ・・・」
恥ずかしさに堪えかねて、思わず出た拒否の言葉。染まる肌。なるべくそっと、優しく。けれど、銀時のセックスはどことなく荒々しい。
「痛い?」
首を振るけど、我慢しているのは解る。
「深呼吸」
「え」
「深呼吸してごらん、ゆっくり、そうそう」
まだ指しか触れていないのに、沖田の中は熱い。
「力抜いて」
ぱたぱたと首を振る毎に枕に打ち付けられる髪。
「そうそう、いいよ・・・」
そろそろかな、と思う。こんな美しい生き物が自分の手によって変貌していくのはいい知れない興奮を呼び起こすものだとは銀時は思わなかった。
「我慢してね」
「あ、やあっ・・・」
熱い、圧迫感が迫り、沖田の頬に涙が伝わった。それを銀時の指がそっと拭う。
「いい子だね」
しがみつく腕と高い嬌声と。同時にはじけて、もう一度求めると従う身体。後ろから番い、二人で狂う。三度求め、三度とも素直に答え、そして沖田は銀時の腕の中で意識を失った。
「まじい、中だししちった」
抱え上げてバスルームに連れて行き、洗い清めた。バスタブの中で抱いていたら、目を覚ました。
「ごめんねー」
「何がですかぃ」
「いや、まあ、ほんとはね」
生はまずいのよ、と言った途端、銀時はアッパーカットを喰らった。
「いでで」
「力入らねえから優しいですぜ、これでも」
「うん、それはよく解ってる」
ぎゆっと抱きしめると沖田は銀時の腕に頬をなすりつけた。
「さっきの」
「あーセフレじゃ駄目だよね」
「愛人とか恋人とかじゃねえですよね」
「まだ言ってませんから」
「じゃセフレ?」
「恋人がいいです、銀さんは」
「俺は、まだわかんねえです」
「そうですか、解りませんか」
がっかりする。抱いたのに、心は遠いのか、と。
「旦那、好きでさ」
その言葉に銀時はこの時は満足した。