「本当に会わせてくれるのだろうな」
「もちろんです、殿下」
苦笑混じりの所長。きぃと音がして扉が開いた。
「ジョージ、殿下のレクチャーはどーするの、兄上、予約みっちみちだから帰っちゃったよ」
「げ。どうして、突発的に流行るんだかなあ、おみくじ御殿は」
「知らないよ、何かお祭りでもあったかな」
「おまえ、何もしてないだろーな」
「してないよ」
十二歳くらいの少年だ。あの治療の子だ。レスターでも出会った少年。
「あれ、殿下、もしかして…」
「前の記憶はそんなに簡単には思い出さないものだよ、ガードかけたからな」
「そっか、母様は」
「リース夫人なら、昼飯作成中、おまえの、な」
「そっか…じゃ僕はこれで」
さっさと去ってしまった少年。
「あの子供は」
「前の時代での、私の弟ですよ。今では親友の息子です」
「弟、孫ほども離れているように見えるぞ」
「真実、弟です。私はこの世界に来て三十年近く経っていますので、仕方ないのですよ、あの弟とは三歳違いでした」
「訳が解らん不気味な世界だ」
「あの子は疾患をいくつも抱えていますので、あの少年の身体です」
口調が変わった。
「本来は違うと言うことか」
「ええ、どのみち…治療方が確立していませんので、あの子は大人の身体になる事はないでしょう」
「それも意味が解らん」
「長くは生きられないと言う事ですよ、殿下」
「…知っているのか、両親とか、その彼も」
「ええ、知っています。そのおみくじ御殿の兄には告げていませんが」
「そうか」
「看護をしていた夫人の息子となってますことはご存じでしたよね」
「…あの夫人の…」
回復する間、リース夫人が身の回りの世話をしていたことは知っていた。
「たいした事ではありません、あなたの世話をしたのは…仕事ですから」
「そうか…」
仕事だ、割り切れとこの所長は言っている。
「そうそう、トマス殿、呼びましょう…かと」
庭先からまた派手な音がした。
「…手動にするのはやめた方がよかったかもなー」
「は」
「あの変な乗り物の操作方法をトマス殿に教えているんですが…ぶつけたみたいですね」
「貴様らは誠に気に入らんな」
彼はそう言った。
「では、そろそろ…レイモン、切り上げて入ってくれないか」
「解ったよ、所長」
どこからともなく聞こえた声にぎょっとするが、所長は説明は一切しなかった。
「ここなのですか」
「そうですよ」
トマスの声がした。入ってくるらしい。入って来たトマスはこの世界の服を着ていた。ラフな服装らしい。
「派手だねー」
「毎度すみませんね、バックのギアとアクセルの操作間違えてしまって…」
「卓上でやり直しでしょうね」
そんなやりとりをしてから、トマスは所長の机のそばに近付いてきた。
「ゆっくり学ぶにしてもらえませんか」
「それは…そうですね、では、私は外します。ごゆっくり」
所長は出ていった。
「え…」
所長の机の横にいた人物は後ろを向いていた。何故か頭からロープをかぶっていた。
「まさか」
「トマス…おまえは…気に入らんことはないのか、この世界で」
「殿下」
「私は気に入らない」
「殿下、会えて嬉しいですよ、私は」
ロープを外し、彼は立っていた。
「そうか…」
「殿下は嬉しくもない様子ですね」
「そんな事はない」
笑っている声が聞こえた。
「トマス、勝手に決められるのは、気分が悪い。それだけだ」
「私は自分で決めましたよ、あなたに会う、それだけです」
「おまえはいいな…」
「殿下はどうなさいますか、就職口、あるそうですよ」
「何だ、それは」
トマスが笑っていた。
「就職口ですよ、私も一緒だそうです」
夢見る化石・その4